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【舞台裏レポート①】叡王戦第8期五番勝負開幕、感動が特技の広報が「将棋愛」に心ふるえた2日間

こんにちは。ひふみラボ編集部です。

レオス(ひふみ)が特別協賛をつとめる将棋の八大タイトルの一つ「第8期叡王(えいおう)戦」の五番勝負が始まりました。
段位別予選と本戦トーナメントを勝ち抜いた棋士が挑戦権を獲得。藤井聡太叡王と挑戦者・菅井竜也八段が、叡王をかけて五番勝負を行ない、先に3勝した棋士が「叡王」の称号を獲得します。

今回は、対局前日に開催された前夜祭、そして第1局当日の裏側を広報担当の数原(すはら:将棋「超」初心者)がレポートします。

編集部から今回のレポートをお願いした際、「だいたい3000字くらいでまとめてください」と伝えたところ「将棋のことは全くワカラナイ私がそんなに書けるのか不安……」と言っていた数原ですが、感動しすぎてほぼ倍の6000字のレポートを提出してくれました。できるだけ数原の感動をそのままにお届けします!ぜひお付き合いください!



「最高の振り飛車と最高の居飛車の戦い」

将棋界の8大タイトル戦の1つである叡王戦は2017年度の第3期からタイトル戦に昇格した一番新しいタイトル戦です。

叡王戦は、コンピュータがプロ棋士に挑む「電王戦」が前身で、「叡王戦」という名称は一般公募により決まりました。
命名者によると「これに勝ったものは電王と戦うのだから、人間の王と意味にしたい。 ならば、人間しか持たない、知恵や叡智を競う将棋の頂点に相応しい称号を考えた(日本将棋連盟ホームページより引用)」そうです。

開局前からニュースなどでも話題になりましたが、挑戦者である菅井八段はA級棋士で唯一の「振り飛車」党です。

将棋の戦法は大きく分けて「居飛車(いびしゃ)」と「振り飛車(ふりびしゃ)」の2種類に分けられます。飛車を最初の位置から動かさない、または前後に動かし戦う戦法は居飛車と呼ばれ、飛車を横に動かしてから使う戦法は振り飛車と呼ばれています。

近年対局の中継で採用されているAIの勝率表示(AI判定)では、振り飛車がやや不利とされています。「飛車のベストポジションは初期位置(居飛車)である」というのがAIの考えで、そういった意味でも「振り飛車」の絶対的エースと称される菅井八段の挑戦は注目を集めています。

ちなみに、アマチュアでは序盤の駒組みが分かりやすいからか振り飛車党が多いため、菅井八段はその期待も背負って戦うことになる、とレオス将棋部の水野も興奮気味でした。

頂点を争うタイトル戦の両対局者ですが、タイトル戦の仕事は対局だけではありません。対局の前日には必勝祈願、検分、記者会見、会食前のあいさつ、当日(2日目)は対局と大盤解説会の登壇、対局後の取材などがあります。

「検分」とは実際に対局が行なわれる場所を下見することです。実際の検分では部屋の照明は最初明るめでしたが、お二人のご希望で少し暗めに調整がなされました。

対局の場が整うと、次は会見場でお一人ずつの記者会見です。
約10分ずつ、記者より対局にむけた意気込み、相手についての印象などが質問されます。
特に印象深かったのは「最高の振り飛車と最高の居飛車の戦いにしたい」という菅井八段の言葉でした。藤井叡王の印象を聞かれ「最強の棋士」と称しつつも、最強の相手にひるむことのない姿勢や、戦型の苦しさは気にしておらず「将棋は、最後は力比べ。強い者が勝つ。自分が勝てなければ他の振り飛車党は藤井さんに勝てない」と言い切る菅井八段の闘志を肌で感じました。

さて、控室では、翌日の対局で使われる駒を磨く人物が……。
磨いていたのは、翌日の記録係を務められた田中大貴三段です。芸術品のような美しいつげの駒を1つ1つ丁寧に磨いている姿を間近で見ることができ、本当に多くの方が棋戦を支えているのだと実感しました。

うっすらとある木の模様で表情ゆたかな駒を丁寧に磨く田中三段

会見後は、協賛各社での会食です。
冒頭には藤井叡王、菅井八段が対局への抱負を語られました。
その後、主催の不二家さん、日本将棋連盟さん、協賛各社、開催協力である神田明神の宮司の方、叡王戦協賛への想いをそれぞれが挨拶で語りました。

当社の藤野はじめ、挨拶の中でよく出てきた言葉は「AI」、そして人工知能チャットボットである「ChatGPT」です。

藤野は、
「私たち投資の世界でもAIの活用は話題になります。AIの台頭によって未来がどうなるのかはよく聞かれますが、不安だという人にいつもお話するのは『将棋を見てください!』ということです。

AIが出て来て名人が敗れ、将棋の価値がなくなるのではと瞬間的に言われたりしましたが、それどころか、AIを軸に発展してきました。藤井叡王も菅井八段もそれを駆使して強くなってきたと思います。AIを必要以上に恐れずに、私たち人間とともに進むパートナーと思っています」とお話しました。

日本将棋連盟のアドバイザーである作家の北康利先生もご一緒にテーブル毎の記念撮影

第1局の会場となった、神田明神の宮司であられる清水祥彦さん のお話も、とても印象的でした。
歴史と守り継ぐべき伝統と、時代にあわせて新たに革新・新風を取り入れていくこと、どちらもとても大切にされているとのことでした。唄うように滑らかにお話する清水さんのお言葉をいつまでも聞いていたいと思えたひと時でした。

いよいよ知能・体力・精神の総決戦、始まる

対局の当日、9時スタートの対局の30分前に対局場に現れたのは菅井八段でした。
かなり早くに着席されて、精神を集中されているようでした。対局開始の直前、大きく息を吐く姿も印象的でした。

対局開始直前。シャッター音と空調の音が際立つ静けさでした

9時から対局が始まると、関係者控室では日本将棋連盟 会長の佐藤康光九段はじめ棋士の方々が実際の中継を見ながら検討会をされます。この手はどんな意味がある、と初心者の私たちにもわかりやすく説明くださりました。

佐藤九段は対局開始とともにさっそく検討開始

自身も熱心な将棋ファンでありアマ六段である当社の藤野も、駒の役割、指し手の意味を、格言やさまざまな例えを用いてわかりやすく解説してくれました。

将棋の駒は相手の陣地に入ると、より強力な駒へと進化します。これを駒が「成る」と言います。「成る」とは駒を裏返しにすることですが、これは藤野曰く「トランスフォームすること」で、トランスフォームがあるからこそ将棋は奥深く面白く、「歩」の裏の「と」は「と金」と言われて、金将と同等の強さ、つまり「歩」は銀よりも強くトランスフォームするのです。

私は将棋「超」初心者なので、詳しい戦術については盤上を見ていてもわからないのですが、駒の特徴を知るだけでも、盤上の世界の解像度が上がり、対局の表情を少しだけ感じ取れるようになりました。

挑戦者 菅井八段の将棋愛

14時からは神田明神ホールで大盤解説会が始まりました。
大盤解説会とは、一般のお客様に向けてプロの棋士が対局を解説する会です。実際の対局と同時進行での解説と棋士の予想も交えてのトークを楽しみに来場するファンの方も多く、この日は250名の枠に対し800名を超える申込みがあったそうです。

第1局の解説は久保利明九段、聞き手は脇田菜々子女流初段でした。大盤解説会では棋士だから知る対局者の素顔を聞くことができるのも魅力の一つとのことです。この日も、久保九段から菅井八段のエピソードを聞くことができました。
菅井八段がその昔、久保九段の家に泊まった際の話をしてくださいました。

菅井くんは寝る前に突然符号を言い出すんですよ。2六歩、3四歩、7六歩ってずっと言っていき、5二飛まで言ったと思ったら途端に寝るんですね。びっくりしました」
菅井八段の「マジで寝る1秒前」まで符号を唱える(?)くらいに溢れる将棋愛エピソードに会場も大盛り上がりでした。

控室では、勝又清和七段に菅井八段のお人柄についてお話を伺いました。
菅井八段はプロ棋士の中でも右に出る方がいないほど、常に将棋のことを考えているそうです。
年間1万局指すこともあったそうで、逆算すると起きている間は1日中ずっと将棋を指している、という状況です……!

さまざまな逸話があるそうですが、ご飯を食べる時間がもったいなくて、炊飯器から直接ご飯を食べたこともあるそうです……!
この日の対局でも、1時間のお昼休憩に入ったと思ったら10分程度で食事を済ませ、早々に対局場に戻ってきて対局再開までの間、将棋盤をずっと眺めていました。

食べ将さん必見の将棋飯。藤井叡王は「将棋をサス」海鮮丼、菅井八段は「相手をツメル」鰻丼を選びました。このボリュームを見ても体力が必要なことがわかります。

ちなみに、体も相当鍛えているそうで、それも体力を必要とする将棋で勝つためだそうです。

一方で藤井叡王は、鉄道好きであったり、天気図を見て楽しまれたり、読書もたくさんされ、ご興味の幅が広いようです。将棋以外からも様々な学びや気づきを得ることにより、平均勝率9割という驚異的な強さにつながっているのでしょうか。対照的なお二人のエピソードでした。

野球界の大谷翔平さんのように、藤井叡王は将棋界で圧倒的な人気を誇る方ですが、タイトル戦の挑戦者の方の人柄や思いにもご注目いただくと、より叡王戦が楽しめると思います。余談ですが、対局に同行するレオスメンバーはなぜか全員挑戦者に感情移入し、将棋ファンになる傾向にあるようです(笑)

常に相手のことを考える

将棋について藤野が話した中で、一番印象的な、将棋の本質を表す言葉がありました。

常に相手のことを考えることが将棋」という言葉です。

将棋では、相手のこと、先の先の手を常に考え続けます。
自分の主張、相手の主張を考えることが重要であり、将棋は「一方的」に勝つことはできません。

それは私たちが生きる社会でも普遍的な価値の本質ではないでしょうか。
お客様や未来のお客様のこと、家族や恋人のこと、時に経済や世界情勢のことなど、ビジネスしかり人間関係しかり、常に対峙する相手のことを考え続けながら生きています。

藤野のその言葉を聞いた時に、私は本当に心から腹落ちしました。

最後に目頭を熱くした光景

藤井叡王は持ち時間の4時間を先に使い切ってしまい、相手より先に1分将棋への突入を強いられるも、147手で菅井竜也八段を投了 に追い込み先勝しました。相手より早く1分将棋に突入したのは13局ぶりだそうで、それはまさに菅井八段が藤井叡王に迫ったことの証しです。

後日、勝又清和七段が対局の終盤解説をなんとひふみラボnoteのために送ってきてくださり、勝又七段も、菅井八段は最後まで戦う姿勢を崩さなかったとおっしゃっていました。

菅井八段は不屈の粘りを見せました。金取りを無視して香を打ち、9筋から逆襲するぞと脅します。さらに角をワンテンポずらした動きで、敵陣に成り込みます。相手が藤井叡王でなければ逆転していたかもしれません。しかし、藤井叡王は1分将棋の中、冷静に対処します。そして▲4六桂と打ったのが相手の馬の利きを止めつつ金取りという決め手。147手にて藤井叡王が先勝しました。終局図では5六桂・4六桂と桂が2枚並び、最後はやはり「藤井の桂」でした。
 とはいえ銀桂を損して検討陣もさじを投げた局面から50手以上も指したのはさすが菅井八段で、次につながる粘りでした。

対局が終わった午後6時過ぎ将棋への愛と想いにふれる瞬間が私に訪れました。

叡王戦には、「叡王戦見届け人」と呼ばれる試みがあります。

「叡王戦見届け人」とは、前日からの必勝祈願や会食、会見や検分の見学など、タイトル戦に関わる全ての工程を一番近くで見守ることができる制度です。
おやつや昼食も棋士が食べるものと同じものを食べることができたり、棋士、女流棋士が見届け人だけのために生解説、指導対局が実施されたり、終局後には勝者から対局で使用した駒をもらえたり、記念撮影ができたりと、特典が盛りだくさんです。

対局が終わり、多くの関係者が帰る中、将棋愛が心に灯ってしまった私は、叡王戦を最後まですべて見届けたいと、戦いの後の静寂が戻った対局場に残りました。

勝利した藤井叡王から、見届け人である女性に駒が手渡され、見届け人の方と藤井叡王が言葉を交わしていました。見届け人が藤井さんに想いを伝える間、藤井叡王は対局や記者会見とは全く異なる朗らかな優しい表情でうなずきながら受け止めていました。

その光景は、「常に相手のことを考える」という将棋の本質を体現しているようで、なぜ将棋がこんなにも人々を魅了するのかの答えがあるように見えました。そう感じた瞬間に「感動が特技」だと自負する私の両目頭の温度は1℃上昇していたのでした。

熱戦ははじまったばかり!

「盤上に留まらない将棋の魅力」や「知らないことを知る楽しさ、世界が広がるワクワク感」と将棋が織りなす世界に圧倒され、第1局の幕がおりました。将棋の世界に今回初めて足を踏み入れることができ、本当に夢のような幸せな2日間を過ごすことができました。
第2局は、4月23日(日)に愛知県名古屋市の「名古屋東急ホテル」にて行なわれます。

「挑戦する人を応援する」、それが、私たちが叡王戦に協賛する理由の一つです。
「投資」は「応援」、そして未来を信じることでもあります。
「超」が取れて、「将棋初心者」にトランスフォームした私も、引き続き全力で叡王戦に携わるすべての皆様を応援したいと思います。

番外編

私たちが叡王戦を熱く応援する想いで、今回は初めて「ひふみオリジナル叡王戦お湯呑」をつくりました。
第1回からの歴代の叡王のお名前と結果を記しており、第8期のお二人のお名前は、今回のために直筆いただいたお名前が刻まれた特別な品です。

お写真はデザイン1作目で、第2作目は文字の立体感があり、より素敵な仕上がりになる予定です。

ひふみブランドカラーをイメージした羊毛フェルトは当社の手芸部の手作り

引き続き、熱戦を共に見守りましょう!

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