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【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝

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第14回山本七平賞を受賞され、100年経営の会顧問や、日本将棋連盟アドバイザーなど、多方面でご活躍されている作家・北康利先生による新連載企画です。 日本林学の父、公園の父と呼ば… もっと読む
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2021年5月の記事一覧

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #06

前回はこちら↓ 第一章 勉強嫌いのガキ大将 (4)郷土の偉人・塙保己一埼玉が生んだ三賢人と呼ばれる人達がいる。 盲目の学者・塙保己一(はなわほきいち)、近代資本主義の父・渋沢栄一、日本の女医第一号・荻野吟子(おぎのぎんこ)の三人だ。最近では我らが本多静六も加わり四賢人と称されることも多い。 静六の生まれた河原井村から渋沢が生まれた血洗島村までは北西に三〇キロ。埼玉県になる前、血洗島は熊谷県、河原井村は浦和県と別々の県に分れていた。 塙の生まれた児玉村は血洗島村から西に六キロ

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #07

次回はこちら↓ 第一章 勉強嫌いのガキ大将 (5)島邨泰(しまむらやすし)と米搗(つ)き勉強明治一三年(一八八〇)、満一四歳でようやく念願の上京が許された静六についてである。 上京すると言ってもまだ若い、頼る人がいなければ路頭に迷ってしまう。かつて兄金吾が教えを受けていた遷喬館元館長の島邨泰を頼ろうということになったのだが、静六だけで行かせるわけにもいかない。 そこで母やそは、実家の兄金子茂右衛門に相談にのってもらうことにした。 やその実家は葛飾郡上吉羽村(現在の埼玉県幸手

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #08

前回はこちら↓ 第二章 暗い井戸の底をのぞき込んだ日 (1)我が国林学の父・松野礀東京山林学校は、山林行政を担っていく官吏養成を目的に設立された学校であった。 農政の養成機関としては、すでに駒場農学校が明治一一年(一八七八)に開校している。同校の開校式には明治天皇が臨席され、皇族や大久保利通内務卿なども参列した。農業振興が国の基礎であることは明治以前からこの国の基本思想であり、思い入れの強さがうかがえる。 林業も農業に遅れはしたものの、殖産興業の観点から重要視されていた。コ

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #09

前回はこちら↓ 第二章 暗い井戸の底をのぞき込んだ日 (2)無謀だった山林学校受験島邨(しまむら)の言うとおり、東京山林学校は官立なので学費は安かった。修学上必要最低限の教科書代や制服や靴なども支給されることになっている。当時はまだ将来何になろうという確かな志望があったわけではなかったが、安い学費で勉強できることに強く惹かれた。 そのことが、一生を林学に捧げる出発点となるのである。 募集は二月、九月開始の二期生で、募集数はそれぞれ三〇名と五〇名程度。 だが、この東京山林学校