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【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝

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第14回山本七平賞を受賞され、100年経営の会顧問や、日本将棋連盟アドバイザーなど、多方面でご活躍されている作家・北康利先生による新連載企画です。 日本林学の父、公園の父と呼ば… もっと読む
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2022年6月の記事一覧

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #62

前回はこちら↓ 【関東大震災】 第五章 人生即努力、努力即幸福 (8) 関東大震災と復興計画首都圏に長く住んでいると、人生で一度か二度、今で言う首都圏直下型地震に遭遇することが運命づけられている。静六にもその時が迫っていた。 当時の記録によれば、大正一二年(一九二三)は、六月頃から中規模の地震が頻発していた。それは来たるべき大地震の予兆だったのだ。 そして運命の九月一日がやってくる。 その日は朝から、重苦しい雨雲が東京の空を覆っていた。時計が午前一一時五八分を指し、人々が

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #63

前回はこちら↓ 第五章 人生即努力、努力即幸福 (9) 東京都とイチョウ首賭けイチョウや東大正門のイチョウ並木もそうだが、以前から静六はイチョウという木に思い入れがあった。 ドイツでイチョウはゲーテの有名な恋愛詩「イチョウの葉」にちなみ、しばしば〝ゲーテの木〟と呼ばれている。ゲーテは六六歳の時に二五歳も年下の人妻に恋心を抱き、イチョウの葉とともにこの詩を贈ったのだ。静六が、イチョウを自分のドイツでの甘酸っぱい思い出と重ね合わせていたかどうかは定かではないが…。 帝都復興事

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #64

前回はこちら↓ 【三井物産社長・益田孝】 第五章 人生即努力、努力即幸福 (10) 帝国森林会大日本山林会は、東京山林学校を設立した初代校長の松野礀が奔走し、林業の改良と進歩を目的として明治一五年(一八八二)に立ち上げた組織である。 そして実務レベルで会の運営を担い、会報の主たる執筆者でもあったのが、川瀬善太郎と静六の二人だった。 余談だが、現在、大日本山林会では会報『山林』をデジタルデータ化し、検索できるよう整備している。試みに本多静六で検索すると三一五件ヒットした。長

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #65

前回はこちら↓ 【上高地】 第五章 人生即努力、努力即幸福 (11) 国立公園協会そもそも森林は、林業のような経済面や防雪や水源のような機能面のみならず、風景美で人々の心を癒すという重要な役割を持っている。そのため静六は知らず知らずのうちに〝風景専門家〟として認知されていく。 大正二年(一九一三)四月の深夜、突然本多邸を訪れてきた二人の人物がいた。 宇治川電気(現在の関西電力)の技師長である石黒五十二(いそじ)と営業課長の林安繁(やすしげ)(後の宇治川電気社長)である。