外出困難でも働けるカフェ 人を拡張するテクノロジーが繋ぐ未来
こんにちは。ひふみラボ編集部の赤池です。
皆さんの周囲で、テクノロジーが進化したことによってこれまで不可能だったことが可能になったことはありますか?どんなことが思い浮かぶでしょうか。
医療、エネルギー、通信、食品、金融…
私たちは日々の生活の中で様々な恩恵を受けていますが、改めてテクノロジーは私たちをゆたかにする、ということを体感できるカフェが東京・日本橋にあります。
そのお店の名前は「分身ロボットカフェ DAWN(ドーン)ver.β」です。お出迎えからテーブルでの接客・ドリンク提供やグッズ案内などを「OriHime(オリヒメ)」というロボットが担っています。
そして、そのOriHimeは難病や障害などで外出して働くことが困難な方々が日本全国(一番遠くはオーストラリア!)から遠隔操作しているのです。
そこで、テクノロジーが可能にした新しい働き方の現場を体験すべく、レオスのマーケティング部の私赤池と沼尾が、分身ロボットカフェに行ってきました。
OriHime開発者・吉藤オリィさんとレオス代表藤野が対談するイベント詳細はこちら↓
開放的で近未来感を感じる店内
「ロボットが接客してくれるカフェ」というのが具体的にイメージできず、少し緊張しながら店内に入ると、さっそくOriHimeのパイロットさん(OriHimeを操作する従業員さんをパイロットと呼びます)が元気に出迎えてくれました。
分身ロボットカフェはOriHimeに接客してもらう「OriHime Dinerエリア」の他、バリスタ研修を受けたパイロットさんが好みのコーヒーを入れてくれる「Tele-Baristaエリア」、通常のカフェのように利用できる「CAFE Loungeエリア」に分かれています。
今回私たちが利用した「OriHime Dinerエリア」では、各テーブルに担当のパイロットさんがついてくれて、お店のシステムやメニューについて案内していただきながらお話しすることができます。
各テーブルにはパイロットさんが操作するOriHimeがいます
注文したドリンクを運んでくれるのは、小学校低学年くらいの身長(120センチ)のOriHime-D(オリヒメディー)です。
店内は車いすでの来店はもちろん、ストレッチャーでも利用することができ、呼吸器などの電源供給ができるよう工夫されているそうです。
確かに、テーブルとテーブルの間はスペースが通常のカフェよりもゆったりとってあります。現在は各テーブルの中央にアクリルパネルが設置されており、ソーシャルディスタンスを必要とする昨今の事情にも配慮された空間でした。
たくさんのOriHimeが動いています。店内ではOriHime同士で会話をする姿も。
想像以上に人間を感じる
分身ロボットカフェについて事前情報はあるものの、正直なところ入店前のイメージは、人によるサービスは感じられないのではないか、というものでした。
しかし、帰るころには友人や同僚としゃべった後のようなしっかりと人とコミュニケーションした感覚がありました。
OriHimeは、パイロットさんが自宅からタブレット等で遠隔操作をしてします。
沼尾がOriHimeの操作を体験。
指をスワイプした方向を向き、複数のリアクションが登録されているようです
パイロットさん側からはOriHimeに内蔵されたカメラでこちらの顔が見えますが、こちらからはパイロットさんのお顔は見えず、お話しする声だけが聞こえる状態です。
パイロットさんご本人がその場にいないにもかかわらず、OriHimeを通じてお話しすることで徐々に本当にその場に一緒にいるような感覚になっていきます。
声に合わせて手をパタパタ動かしたり、首を動かしたりしながら、パイロットさんと同じタイミングで笑ったり、少し答えを考えているときはOriHimeも「うーん」と下を向いたり、段々とパイロットさんの表情が見えてくるような臨場感がありました。
大きなサイズのOriHime-Dの目の色は、8色の中からパイロットさんが好みの色を選べるのだそうです。好きな色を選んで個性を出すことができるのですが、目以外の外見は皆同じです。それなのにパイロットさんの声や話し方、話す内容でお人柄や個性がにじみ出て来て各々の方の人格に触れることができたのはとても嬉しい体験でした。
私は日々Zoomを使って会社のメンバーと打合せをしていますが、顔が見えてもその場に一緒にいる感じはしないので、在宅勤務が続くと孤独を感じることがあります。
遠隔でコミュニケーションをするだけならZoomでも十分なのですが、OriHimeにはその場に一緒にいるような感覚になります。耳や目からの情報だけでなく、物理的な存在感がそう感じさせるのかもしれませんね。
ロボットになった今の方が「人間らしい」
2021年6月に常設実験店としてオープンした「DAWN 分身ロボットカフェver.β」は、当初約50名のパイロットさんから始まり、現在は約70名のパイロットさんが働いているそうです。
その多くが難病や障害を理由とした外出が困難な方や介護・育児などで仕事を辞め、外でフルタイムで働くことが困難な方だそうです。
私たちのテーブルを担当してくださったパイロットのうーさんは、福岡県でご主人と小学生の息子さん2人と暮らし、約10年専業主婦をされていました。
うーさんは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)でおばあ様を亡くされ、ALSなどの難病患者をサポートするシステムの開発・提供をしていたOriHimeの開発者・吉藤オリィさんのことを知り、支援していたそうです。
原因不明で治療法が確立されていない「指定難病」の一つとして、国に指定されているALSは筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経が障害をうけ、徐々に自分の声を失っていくそうです。もし呼吸器を使うことになっても事前に自分自身の声を録音しておくことでOriHimeを通して自分の声で話し続けることができるテクノロジーに感銘を受け、Twitterでカフェ常設店のパイロット募集を目にしたことをきっかけに働き始めたとのことでした。
「働きはじめてからは毎日出会いや発見があり刺激的!」と明るい声で話すうーさん。
専業主婦として家にいたときは、まるで「家事ロボット」で「お母さん」という役割を黙々とこなしていたそうです。「それはそれで楽しい生活でしたが、出会いが限られ単調だったのは否めなかった」と語ってくれました。
それが、「OriHimeの中に入る」ことで自分の体が拡張され、カフェ以外にも東京・和歌山・沖縄など全国で仕事ができ、久しぶりに社会参加できるようになったことで自信を持つことができたそうです。
「ロボットに入ることで、前よりも人間らしさを感じられる」という言葉がとても印象的でした。
また、今後はご自身と同じような境遇の方に向けて、
「介護・育児・ひきこもりなどなにか事情があって一度家に入ったとしても、いつでも社会に戻れるチャンスがあるのだと伝えていきたい」というメッセージもいただきました。
悲観しようと思えばいくらでもできた
OriHime-Dでドリンクを運んでくれたパイロット・ちふゆさんは、2013年、35歳の時に慢性疲労症候群という難病であることがわかり、中学生から憧れていた音響オペレーターの仕事を辞めざるをえなくなりました。
大好きだった仕事なだけに、現実を受け入れられないまま仕事をやめたちふゆさんは、最初は心の整理がつかずつらい毎日だったそうです。
発症から7年ほどはご主人が仕事へ行くと1日家で一人で療養する生活。
2020年末に体調が安定し、新しくチャレンジできることはないかと探したところ分身ロボットカフェの求人を発見し、自宅からでも接客業ができると知ってトライしたそうです。
パイロットとして働き始めてからは、家からリモートで仕事ができて、たくさんのお客様と出会い、おしゃべりすることで世界が一気に広がって明るくなったとのこと。前職が裏方の仕事だったこともあり、こんなに自分でおしゃべりする機会もなかったため、日々新しい自分を発見できるそうです。
また、ご自身の人生を振り返ると3つの人生をもらったようだと話してくれました。
35歳で病気を発症するまでの人生と、35歳から43歳の療養をしていた人生、そして現在のOriHimeを通して社会と再び繋がれるようになった人生の3つです。
「今は、なんとか前を向いて歩き始めたので、その景色を楽しんでいきたい」と教えてくれました。
「悲観しようと思えばいくらでもできるんでしょうけど、それも性に合わないな、と(笑)」
そう言うちふゆさんが笑顔でお話しする姿が目に浮かびました。
テクノロジーってなんだろう
分身ロボットカフェに行ってみて深く印象に残っているのは、どのパイロットさんもご自身の境遇や将来について前向きに明るく話し、楽しそうに働く姿でした。
入口で私たちを出迎えてくれたパイロットのコーキさんは、高校生の時にプールの飛び込み事故で頸椎を骨折し、四肢マヒになりました。
2021年の東京オリンピックでは聖火ランナーとして走ったというコーキさんですが翻訳家としてお仕事をされており、基本一人での作業に寂しい思いをしていたそうです。その後分身ロボットカフェで働くようになり、チームとして働くことの楽しさを初めて知り「喜びを共有できる仲間がいるといいなー」とお話しされていました。
コーキさんは近い将来世界各国の有名な観光地とか大きな駅にOriHime-Dが置かれる日が来たらたら自由に買い物・散歩をしたいという目標や、オリヒメという名前にご縁がある宇宙へも行ってみたいと楽しそうに語っていました。
うーさんも、OriHimeで世界中に出張できるので、英語が得意なパイロットさんを中心とした「英語部」で英語を習っているといいます。
ちふゆさんは、また働くことができたことでご家族が喜んでくれたので、次のステップとして病気を治したいと力強くお話しされていました。
テクノロジーもそうですが、新しい技術やサービスは日々の私たちの生活の中での「もっとこうできたらできることが広がるのに」という気づきから生まれ、それを必死で考え、実現しようとしている人がいるおかげでカタチになります。
分身ロボットカフェは、働くことは無理だと思われていたパイロットさんに、OriHimeというテクノロジーによって世界中どこでも仕事ができる場を提供し、それによってやりがい、生きがい、元気をもたらしました。
いきいき働くパイロットさんとお話すると、世の中のまだ実現していないテクノロジーが進んでいくとこれからの社会が前向きに転換していくのではと感じられわくわくします。私たちがこれまで不可能だと思っていたことが実現することは、人や社会のゆたかさに繋がっていくのだということを体感しました。
百聞は一見に如かず。
皆さまもぜひ分身ロボットカフェ DAWN ver.βで直に体験してみてください!
吉藤オリィさんにききたい「次のゆたかさ」
分身ロボット「OriHime」の開発者は、株式会社オリィ研究所・所長の吉藤オリィさんです。
吉藤さんのミッションは「コミュニケーションテクノロジーの力で人類の孤独を解消する」こと。
レオスは、2月26日(土)13:00より、YouTube Liveで「次のゆたかさ」をゲスト・レオスメンバー・参加者の皆さまと考え、学び、深めるイベント「ひふみフォーラム2022」を開催します。
今回、基調講演として「テクノロジーが繋ぐ人と未来」と題し、吉藤オリィさんと当社代表の藤野英人との対談をお届けします。
私たちは志のある人や企業を、投資を通じて応援することでゆたかさの循環をつくりたいと考えています。
テクノロジーで人の可能性を拡張し、人と人、人と社会を繋ぐ吉藤さんはまさに志を持ち社会を切り開いていく方だと感じ、今回ぜひお話を伺いたいと考えました。
吉藤さんが「孤独の解消」をミッションとした背景、OriHime開発に込めた想い、次世代に伝えたいこと、吉藤さんにとって「次のゆたかさ」とは何かを深堀していきます。
限定公開でここでしか聞けないお話満載です。ぜひご参加ください!
分身ロボット「OriHime」開発者・吉藤オリィさんとレオス・キャピタルワークス代表・藤野英人が対談する無料イベントの視聴申込はこちら↓