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お金儲け第一主義以外の角度から見る投資の話

バンドマンで投資家のヤマザキOKコンピュータさん(ヤマコンさん)による連載の第2回です。
今回は、投資の「お金だけじゃない側面」について、ヤマコンさんの体験から語っていただきました!

バンドの海外ツアーでお金との向き合い方を考えた

2020年6月に、拙著「くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話」が発売された。
タイトルの長いこの本は自分が想定していたよりもずっと遠くまで飛んでいって、あっという間に第4刷。流れ流れた先でレオス・キャピタルワークスのみなさんの目に留まったことをきっかけに、この連載コラムが始まった。

前回のコラムでは、自己紹介を兼ねて私の投資に対する考え方や暮らし方について少しだけ紹介した。
その文中で「うちの家賃は3万2000円」と書いたけど、実はコラムを出した直後に沖縄市内の別の物件へ引っ越している。今の家賃は4万円。ちょっぴり高くなったけど、東京で借りていた部屋に比べたら3分の1の家賃で広くて快適な部屋に住んでいる。

今回の引っ越しに際して荷物を整理したところ、油性マジックで殴り書きされた古いCD-Rが数十枚発掘された。高校生のころに作ったミックスCDだ。
いまから15年前、ソニック・ユースというバンドのライナーノーツでミックステープに関する記述を読んで感銘を受けた私は、ミックスCD作りに没頭した。

ディスクユニオン池袋店の100円ワゴンとRECOfanのインディーズ棚を何往復もしてかき集めた数百枚のCDから至極の曲を絞り出し、最大74分のコンピレーションアルバムを1枚作る。本当はカセットデッキが良かったけど、とりあえず家にあったWindows XPが熱くなるくらい酷使して、何枚ものミックスCDを作り出した。

当時の私にとっては見た目も人間性もさほど重要ではなく、好きな音楽や漫画やカルチャーが人間を形作っていると思っていたから、ミックスCDをつくる作業はまるで1枚の円盤に自分を詰め込んでいるような気持ちだった。小っ恥ずかしいのでほとんど誰にも聴かせることなく、基本的にいつも1人で楽しんだ。
繰り返し聴いた通学用ミックスの曲なんて、いま聴いたら当時の気持ちや風景が鮮明に思い浮かんで情緒がおかしくなってしまう。想像しただけですこし身体が硬直した。

思い返せば、自分で作ったミックスを猿みたいに聴きまくるだけの青春だった。たぶん、猿はCD聴かないと思うけど……。

そのうち自分で音楽をやるようになってミックスCDを作ることもなくなったが、そのぶん外に出たおかげでいろいろな人と出会えたし、とんでもない経験もたくさんした。

ドイツやフランスにライブしに行ったときは、放置された廃墟を勝手に改装して利用しているスペース(スクウォット)に泊まらせてもらった。そのスクウォットに出入りする人たちは金銭的に貧しい人が多かったけど、併設されたバーでは地元産のドリンクしか扱っておらず、いつものコーラは売ってない。みんな当たり前に地元産のドリンクにお金を払っていて、瞬間的な買いやすさや儲けやすさよりも、未来も見据えたお金の扱い方をしていると思った。
お金に意思を乗せている人たちを明確に知覚したのは、このときが初めてだったかもしれない。

バンド活動を続ける中で、こういうものをたくさん肌で感じてこれた。
国内外問わず様々な考えの人と関わる中で、ネットに載ってないような話を教えてもらえたり、地図に載ってない場所に連れて行ってもらえたりして、自分の視野が少しずつ広がっていく。当時は自分の視野が狭くて受け取りきれなかった部分も多いけど、帰国後に生活する中で他の経験とすり合わせてゆっくり答え合わせしながら吸収して、その結果がいまの自分になっている。

本やアートにもたくさん触れた。
特に本は今もよく読んでいるけど、学がないせいかまだまだ理解できないことばかりである。それでも何度も何度も読み返すうちに、少しずつ自分の生活にも活きてくる。貴重な物を残しておいてくれる人がいたり、気軽に触れる場所に設置してくれる人がいるおかげで、いま私は自由を感じながら生活することができている。

くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話(以下、くそつま本)は、こういう自分の中に積み重なった物を組み合わせて作った、いわばコンピレーションのような本である。

経験から得たものや、本から得た知識など、いまの自分に活かされていることをどうにかまとめて数万字に凝縮して絞り出し、内容の順序や言葉遣いに悩んだり、持っている知識で足りない部分を探しに図書館や書店を何往復もして……15年前にミックスCDを作っていた頃と何も変わってない。全く同じことを繰り返しているような気がする。不思議。

拝金主義的じゃない角度から見る投資の話

くそつま本にはお金の話を中心に書いたけど、自分が影響を受けたのは歴史上の偉人や経済学者よりも、国内外のミュージシャンや伝統工芸の達人たち。あとは身の回りの友人たちから得たものが大きくて、それが内容にも顕著に表れるから、いわゆる投資本とは全く違うものになっていると思う。

一般的には健康とされていて、家庭に重大なトラブルを抱えているわけでもなく、怠け者でもないし、能力もあり、知的で文化的で、素晴らしい人格を持っていても、お金に悩む人はたくさんいる。

これだけ経済が発達した状態でそれがまかり通っているのは甚だ不思議だが、根本的な原因のひとつに、お金の情報格差があると思う。
街で暮らす上での必須アイテムのはずだけど、お金の教養について義務教育ではほとんど何も教えてもらえない。
多くの人が何もわからないまま社会に出されるわけで、稼ぐことばかり重視して考えてしまう人がたくさんいるのも自然なことかもしれない。
国のGDPを上げるためならそれで良いんだろうけど、個人の生活や人生を充実させるためを考えるなら、稼げば良いというわけではない。

お金の使い方や持ち方も、稼ぎ方と同じくらい重要だ。

お金の持ち方を自分で選ぶ手段として、投資は大きな選択肢となり得るが、投資というもの自体、世の中であまりにも特別視されているように思う。
一発逆転の道具でしかない、危険なギャンブルと思われることも多い。しかし実際には、知れば知るほど何も特別じゃないし、もっと普通に、誰もが当たり前に使って良いものだと考えている。

私はいま、株式や投資信託を利用してお金の持ち方を自分で選んでいるわけだけど、頭の中に銀行預金やタンス預金くらいしか選択肢がなかったころよりもずっと自由になったように思える。
実際に金融商品を購入しなかったとしても、こういうものが選択肢として存在しているだけでも、いくらか楽になれる場面は少なからずある。

しかし、投資について知ろうと思って調べてみても、情報や理論が知りたいだけなのに拝金主義的な意見が前提にあってどうにも受け付けないことが多い。

くそつま本には、それとは別の視点から見たお金の話を書いた。若いころの自分に向かって書いた本なので、私のように何らかのカルチャーに没頭してお金の勉強をないがしろにしてきた人の視野を広げるヒントになり得るものだと思う。

この本は個人経営の書店を運営されている方々がレジ横の手に取りやすいところに置いてくれたり、必要そうな人におすすめしてくれたりして、地道に広がった結果、想定していたよりも遠くまで届いている。
このように、街の書店やレコード店やその他のスペースが文化の風通しを良くしてくれていて、自分のような人間でも生きやすい社会が形作られている。

書店には様々な角度から知性が積み重なっていて、しかも誰にでも開かれている。

学校教育はリズムが合わないという人もいるし、尊敬できない教師に当たってしまうようなリスクもある。ランダム性が高くてやり直しが効かないリスキーなシステムで動いている。

私も10代のころはまともに座って勉強できなかったものだが、大人になってから学びたいことを自分で見つけて、自主的に学べるようになった。その上で、書店は欠かせない存在である。

また、世界各地の良さそうな書店を探して店主おすすめの本を買い、近隣のおすすめスポットや面白い話を聞いてまわるのも旅行の楽しみ。

こういう場所が各地に点在していることで、世界に希望を持って生きていくことができる。
また、レオス・キャピタルワークスのようにオルタナティヴな視点を持って投資信託を運用している会社があることも、自分にとっては未来への希望となっている。

今後はお金についてもっと様々な角度から語られることが当たり前な世の中になると思う。

何が正しいかなんて時代とともに変わっていくし、ほとんどの問題は正解がひとつじゃない。とにかくいろんな視点を持っておくことが重要で、その中から自分の好きなものを選んで決めていけば良いと考えている。

私は、世間で正しいと言われていることとか、エシカルとされている物にも、ピンと来ないときはピンと来ない。
結局自分ひとりで考えて、個人的に住んでみたい社会とか、進みたい未来をゼロから想像してやっていくしかない。
そのために必要だと思えるお店や会社は積極的にサポートしていきたい。

銀行口座にたくさんお金が入っていることよりも、いつも行く店が今後もずっとあることとか、周りの人が健康であることのほうが重要なこともある。こういう、お金以外のリターンも忘れず大切にしていきたい。

私は普段、伝えたいことをコラムにしたり、自家製コーラを売ったりして生計を立てている。
好きな街の見晴らしが良い最上階の角部屋(20畳/1R/家賃4万円)を借りて、気に入った飲食店でごはんを食べたり、余ったお金で好きな会社の株を買ったりしながら、なるべく起きたい時間に起きて、寝たい時間に寝る。
経営している喫茶店は、あらゆるマイノリティとマジョリティが共存できる場所というテーマでやっていて、実際に人種も性別も様々な人が来てくれる。

このように、くそつまらない未来を変えるには、自分が思う優雅な暮らしを実践していくしかない。私は未来に残したい店や企業、生産者と一緒に、明るい未来を目指す。

くそつま本にも、そういうことを書いた。
お金に何を思えば良いかとか、どうしたら自分好みの未来に繋げられるかっていうことについて、なるべく専門用語を使わずにわかりやすい言葉で伝えたかった。投資の基本的な考え方も書いたから、人によってはお金の入門書としても良さそうだ。

この本を作るにあたっては、自分と近い考えのお店で取り扱ってもらいやすいように表紙やタイトルも工夫したし、出版も信頼できるタバブックスにお願いした。

こうして、好きなお店や好きな出版社が存続・発展していく力になれたら、自分の未来の面白さが加速することにも繋がると信じている。

プロフィール:

ヤマコンさん

ヤマザキOKコンピュータ
1988年生まれの投資家・文筆家・ウェブメディア運営者。
バンド活動を続けながらライブハウスで働いた経験などを元に、パンクの視点からお金を考える。お金に関するウェブメディア『サバイブ』や、オルタナティブスペース『NEO POGOTOWN』の運営に携わる。
著書『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)
サバイブ:https://www.survive-m.com/
Twitter:https://twitter.com/0kcpu

※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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