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コロナ禍で戦うプロの“ベストエフォート”(緩和マネー編)

新型コロナウイルスの感染が拡大して1年が経ちました。
前例のない事態で私たちの生活も大きく変化していく中で、ひふみの運用チームも全力を尽くしてマーケットと向き合い、手元の情報をもとに試行錯誤し、その時々で最善だと考えた選択をしてきました。
2020年の6月から定期的に勉強会をしてきた「ひふみ」の最高投資責任者・藤野英人、経済調査室長・三宅一弘、そして資産アドバイザーの平野圭一さん。

投資家、株式ストラテジスト、資産アドバイザーそれぞれの立場で世の中をどのようにとらえてきたのか。
前編では、コロナ禍という長いトンネルの中で変化した人々の「価値観」にフォーカスしお伝えしました。

今回は、「緩和マネー」をテーマにお伝えしていきます。レポートするのは引き続き経済調査室の橋本です。

プロフィール:平野圭一さん
仏ソシエテジェネラル銀行にて日本のプライベートバンキング事業創業の後、同信託銀行常務を経て2005年離日。グローバル不動産本部長、日系顧客本部長を歴任。現在は数人の顧客に限定したファミリーオフィス事業と在日代表・PB主幹を務めたロンバーオディエ信託の上級顧問職に従事する傍ら現役世代の資産形成を応援する。欧米アジアの豊富な人脈に支えられたマクロ経済分析とアセットアロケーションに強い。著書に『財産所得-未来へのおかね教本』がある。

前編はこちらから↓

経済の血液循環は回り続けた

―昨春のコロナ対応の財政・金融政策はどう評価していましたか?

藤野:
初動で金融機能を止めなかったのが大きかったです。
リーマン危機のときは経済の「血液」が止まり、全産業が窒息死しました。
コロナのマグニチュードはリーマン危機よりも大きかったですが、初動の対応があったために生きている会社はなんとかなりました。

三宅:
リーマン危機の時は銀行も痛み、信用収縮も起きました。
今回は銀行貸出もマネーサプライも増えていて、貸し渋りが原因で企業が「何としてもお金を用意しないといけない」という切迫感はありませんでした。

―緊急事態宣言が明け、6月にはすでにコロナ前の水準近くまで株価が戻りました。その当時株高の要因をどう捉えていましたか?

平野:
過剰貯蓄が向かう先が減ってきています。株高の要因も、生活給付が株式市場に入ってきているだけでなく、過剰貯蓄であった富裕層などの家計から流入しているのではないかと。
その先がGAFAMという理解をしていました。

「経済のデフォルメ状態」


―実体経済とマーケットの乖離について、藤野さんは「デフォルメ」という言葉を使って説明していましたね。

藤野:
乖離には2つの面があって、①実体経済が悪いのにマーケットが良い(これがよく言われているもの)、②そもそもの経済の状態をマーケットがそのまま反映しておらずデフォルメされている、というものです。
産業の広がりや働く人口が大きくても、その時価総額が同じように大きいとは限らず、歪みがある。
もともと時価総額の大きな会社に、感染症の影響を受けづらい会社が多くなっていた、ということです。

―ダメージを受けた業種も多い一方、幸運な業種の話も多く出ました。

平野:
夏前の話だと、旅行や外食、スポーツやコンサートなどの消費が無く、お金を使っているのはNetflixやApple Musicなどのサブスクリプションだったので、デジタル機器や半導体関連が売れるのはよくわかりました。

三宅:
ネット関連産業の時価総額は国別の差異が際立ちました。
欧州や日本では1%台と停滞するなか、米国では20%を上回るなど飛躍しました。中国も成長し、米中の寡占ともいえます。
リーマン危機以降の株価累積リターンを見ても、日本はネット関連企業がほとんど無く、その成長ドライバーが効かない分、全体の株価成績も芳しくありませんでした。
一方、米国はネット関連企業が株価成績に貢献している。同産業が今後一段と成長する場合、経済・株式市場の国別格差が拡大するでしょう。

ITバブルのときは有象無象で、金の卵もあれば石ころもたくさんありましたが、今はGAFAMなどの「金の卵」だけで、2000年バブルとは違う印象です。

日米の政権交代で起きたこと


―日本で新政権が誕生したときの印象は?

藤野:
内閣官房参与や菅総理が知恵を借りている人をみると、「ばらまき」をたくさんやるのだろうと思いました。布陣が極端に思えるほど、新自由主義だなと。

―地方銀行について、なにかと話題に上がりましたよね

平野:
中小企業のオーナーと面談できるようになり気づいたのは、コロナ禍で地銀の貸し付けがとても積極的ということです。会社の規模から見ても大きな借入をしているように感じました。

藤野:
政府も地銀はかなり大きな課題にしていますね。地銀をどんどん潰すわけにもいかないので、想定しているのはメガバンクを作ったようにマッシュアップしていくような方向ではないでしょうか。

平野:
合併すれば業務効率が上がるわけでもなく、また信用金庫や信用組合、JAはどうするのかという問題も出てきます。

―一方、米大統領選について藤野さんは、対中政策は意外と民主党の方が厳しい可能性も想定し、バイデン氏勝利の場合は不透明要因になると考えていたそうですが、大統領選以降、再び株価が上昇しました

三宅:
夏場以降、財政刺激策の期限到来や追加対策の協議難航により、財政の崖リスクと金融政策頼みの色彩が強くなりつつありましたが、それが幾分やわらぎました
また、人々の移動データが横ばいであったにも関わらず、株価は上昇しました。
理由として考えたのは、モビリティ指数に十分反映されない「リモート経済」がEPS(1株当たり利益)を押し上げ、大規模金融緩和と財政出動期待がPER(株価収益率)を押し上げたことです。

平野:
バイデン民主党のリベラルが目指すものとして、格差是正や医療保険といった観点が全面に出やすいですが、貿易や外国人への寛容さは、経済へポジティブな効果があり、必ずしも経済にネガティブにはならないと思いました。
米国のスタンスは「経済は強くてなんぼ」
あくまで共和党と民主党の「手法」の違いであり、バイデン氏が大統領になったら経済成長は我慢してくれ、ということにはならないだろうと。

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焦点は「金融政策の正常化」


―中央銀行への評価は?

平野:
コロナ禍で、中央銀行が社会を決めることができるようになったと考えています。
すなわち、国債買入れという手段を通じて財政の量の自由度をコントロールできる。
今回中央銀行の国債買入れが無かったら、どうなっていたのか。
また今後は、「金利上げる」というのはあるでしょうが、「金利上がる」(自然利子率が上がる)というのはもう当面無いのではないかと思います。金利とは作られたものになりそうです。

―2020年12月からワクチン接種が始まり、経済正常化への道筋が見え始めました

三宅:
ワクチン普及や経済回復とともに、いずれは金融政策の正常化も焦点になってくるでしょう。
過去、株価急落要因となったものには、
① 中央銀行の金融引き締め
② 景気後退・企業収益激減
③ 政情不安
④ 規制強化や増税
などがありました。
しかし今回は、金融引き締めはしばらく無いでしょうし、企業収益も企業がコスト低減をして筋肉質になったところなので、これから売上がコロナ禍の状況から改善していくと考えると、収益も伸びてきます。
そう考えると、これから強気相場に入り、21年はその2~3合目になるのではないかという見方になりました。

―リスク要因はありますか?

三宅:
コロナ禍ゆえに金融緩和の長期化や財政出動がありますが、コロナが収束するとバランスが崩れ、リスク要因となりえます。
デジタル関連や成長株もコロナ禍で上昇しているので、ワクチン普及などでコロナが終わると波乱になる可能性も考えています。

―これから半年ほど先を見据えると、どのような点に注目していますか?

三宅:
経済が盛り上がれば、緩和の打ち止めや出口という議論は出てくるでしょうが、いまだ労働市場に働く意思や能力があって就職活動もしているが、仕事に就けない人が多く存在し、イエレン財務長官&パウエルFRB議長という体制では、辛抱強く金融緩和と財政拡張を続けていくのではないでしょうか。
これは株式市場から見れば明るい材料になります。

平野:
社会の変容が起きると、雇用現場の変容が起きます。
特にデジタル化が進むと、働き場所の数が減る可能性もあります。緩和政策の行く先としては、例えばインフラ投資などによって有効需要が作られ、新しい働き場所が生まれるはずです。
こうした職場の「リアロケーション」が上手くいけば良いなと思います。

藤野:
いつテーパリング(中央銀行が金融資産の買い入れ額を徐々に減らしていくこと)が始まるのかは気になります。それを睨みつつ、プロの運用者としてどういう投資戦略を採っていくのか。
ファンドマネージャーとすると、相場展開は毎年毎年異なるものです。
その中でどう戦っていくか、腕の見せ所だと思っています。

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いかがでしたでしょうか。
コロナ禍で金融のプロ達がどのようなことを考えてきたかをお伝えしてきました。
振り返ってみると、見通しが甘かったことや、逆に重く考えすぎていたこともあったようです。

それも含め、その時にある情報の中で、悩みながらも“ベストエフォート”を尽くし、意思決定をしていく現場の雰囲気が少しでも伝わっていれば嬉しく思います。
まだはっきりとした出口の見えないwithコロナの時間は続いていきます。
彼らの格闘ももうしばらく続きます。To be continued...

※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。