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少年の涙に投資家は何を決意したのか 藤野英人が子どもに伝えたいこと(後編)

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レオス・キャピタルワークスのメンバーが考える「子どものお金の教育」について、ライターの田中裕子さんが根ほり葉ほり尋ねていく本連載。

代表・藤野英人編の最終回は、レオス・キャピタルワークスと藤野がスポンサーとなり、5月に打ち上げ成功した初の民間開発のロケットとひとりの少年のお話です。藤野と少年の姿から、「投資ってなに?」に迫ります。

*   *   *

今回の話し手:藤野英人 
レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。まごうことなきお金のプロであり、大学生の娘を持つ父でもある。
聞き手:田中裕子
ライター。1歳9ヶ月の娘を持つ母、ビジネス系出版社出身だが、お金についてはどうもフワフワしている。

爆発を見て、すぐに堀江貴文さんに送ったメッセージ

――ここまで、働くことを通じての「お金の教育」についてうかがってきました。それでもうひとつ藤野さんにお聞きしたいのは、「投資」についてなんです。

はい、なんでも聞いてください。

――ありがとうございます。レオスさんと言えば、今年5月にスポンサーとして出資したインターステラテクノロジズ(IST)のロケット打ち上げ成功というビッグニュースがありました。でもこれ、お金のリターンがあったわけじゃないですよね? これも「投資」になるのでしょうか。

ある会社や人に賭けて、その夢をつなぐ。これも投資のひとつのかたちです。投資について詳しくは後ほど説明するとして、まず、なぜぼくたちがロケットのスポンサーになったのか、そのいきさつからお話ししましょうか。

――はい、お願いします! 

もともとISTファウンダーである堀江貴文さんとはふるい友人で、初号機を飛ばす前から「スポンサーになってくれませんか」と言われていました。でも、興味がないからと断っていたんです。

ただ、堀江さんに「ロケットが打ち上がるのを見たら感動する。まずは次の打ち上げを動画配信で見てほしい」と言われていたので、ネットを通じて見守っていました。

濃霧のために打ち上げが土曜日から延び、日曜夜にようやく打ち上がった「MOMO」初号機。けれども上空20kmのところでエンジンが止まり、降下してしまいます。一般的には100kmまでが「地球」、100kmからが「宇宙」なんですよ。ああ、あと80kmで宇宙だったのかと思うとジーンとして。爆発の45分後には「次のロケットは当社で支援したいです」と堀江さんに連絡していました。

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――このやりとりから始まったわけですね! やっぱり、ロケットにロマンを感じたんですか?

ええ。でも、投資家ですからもちろんそれだけではありません。いま手を挙げてスポンサーになり、次の打ち上げがぶじに成功したら、レオスも投資家として評価を得られる。ロマンや夢だけでなく、投資としても成功だと思ったわけです。それに、一度20km飛んだのだから次は100kmいけるだろうとも考えました。

地上20メートルの爆発と、少年の涙

そして1年後の2018年6月に、ひふみ投信のキャラクター「ひふみろ」が大きく描かれたMOMO2号機の打ち上げが行われました。そのとき、会場にいた幼い少年とも仲良くなってね。打ち上げを待つ間、彼は画用紙にロケットの絵を描いたり塗り絵をしたりしながら、夢中になってぼくに宇宙のことを語ってくれたんです。

さあ、いよいよロケットが宇宙に飛び立つぞ。会場の興奮がマックスになった打ち上げ直後、信じられないことにロケットは落下。大爆発しました。飛んだのは、たったの20メートル。

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(提供:インターステラテクノロジズ)

――20kmどころか、20メートル……。

ええ。「ひふみ」と大きく書いてあるロケットが大炎上しているわけです。しばし呆然としました。

それでむずかしいのは、3号機もスポンサーになるかどうかの判断です。ぼくたちはロケットの専門家ではありませんから、次成功するのかわからない。社内には、スポンサーを続けるのはリスクが大きすぎる、撤退しようという声もありました。それは投資家としてまっとうな判断です。

ただ一方で、次成功したら今回の失敗は挽回できるけれど、おいそれと引き下がれば投資としては完全に失敗になると言えます。それにぼくは、どうしてもあの少年の姿が忘れられなかったんです。

――2号機の打ち上げで、藤野さんが出会った少年ですね。

はい。炎上するロケットの映像を見て、ショックを受けて、大泣きしていました。涙をボロボロ流して、トボトボ帰っていったあの子の顔を思い浮かべると、「このまま終わらせたくない」という気持ちが大きくなっていって。挑戦し続けることの価値を見せたかったんですね。

そうしてあらゆる要素を考え尽くし、結果的に、ISTの経営陣を「信じて託そう」と決めました。彼らに賭けようと。そして社内でも議論を重ね、3分の1がレオス、3分の2はぼく個人が出すかたちになったのです。

――藤野さんの個人資産! ……ええと、そういうことってよくあるんですか?

いや、滅多にないです。これは失敗しても会社への打撃が少ないように、ですね。もしものとき——3回目も失敗したときは「個人的な夢でしたから」と言おうと、記者会見の言葉まで考えていました(笑)。

そして1年後、3号機の打ち上げのときがやってきました。当初予定されていた4月30日から何度となく延期を重ねて迎えた、5月4日早朝。ついにロケットは空を飛びます。白い光を放ちながら、花火のように打ち上がっていくロケット。20メートルをゆうに超え、ぼくたちの頭上を越えていくその姿はとても美しかった。打ち上げに成功したのです。

――おお……ほんとうにおめでとうございます。打ち上げの後、少年とは会えたんですか?

はい、お母さんが連絡をくださって一緒に写真を撮りました。この少年の笑顔が、なによりうれしかったですよ。それに、1年前に渡した「ひふみろ」の缶バッジを大事に持っていてくれて。

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――宝物だったんですね。それにしても藤野さん、個人の資産を出してでも少年にメッセージを伝えたかったわけですよね。失礼ながら、投資家ってもっとソントクで意思決定する合理的な人だと思っていました。

あはは。意外かもしれないけれど、投資って個人的な動機や思いも大切なんですよ。

投資って、結局なに?

――うーん、投資のイメージが変わってきました。一般的には「お金でお金を稼ぐこと」と言われますが、結局「投資」って何なのでしょう。

まずね、「投資家」というとぼくのような仕事を連想すると思いますが、そうではありません。みなさん一人ひとりが、投資家なんです。

――つまり、わたしも投資家? ……どういうことでしょう。

ぼくの考える投資の定義は、「エネルギーを投入して未来からお返しをいただくこと」です。投入するエネルギーとしてお金があり、知恵があり、情報がある。未来からいただくお返しとしてお金があり、感謝があり、信用がある。

つまり、お金はあくまでエネルギーのひとつ、お返しのひとつという認識です。だから、こうして時間を使ってぼくに話を聞きにきている田中さんも、投資をしているわけですね。

投資には「ズルして儲ける」とか「汗水垂らさずに稼いだ汚いお金」というイメージを持っている人も少なくありません。でも、それはその人の「投資への考え方」が汚いだけなんです。

たとえばぼくはいつも、最強の投資は「ありがとう」だと言っています。「ありがとう」と言うエネルギーで、相手によろこんでもらえるというお返しがある。なにが最強って、コストもゼロだしリスクもほぼゼロなんですよ。「ありがとう」って言われて「貴様!ありがとうって言ったな!?」って怒る人はいませんから(笑)。

こう考えると、投資って、汚いものなんかじゃないでしょう?

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――むしろ、ものすごく健全な感じすらします(笑)。子どもにもこの投資の定義を教えてあげたいです。

そうそう、最後に。教育は、最大の投資です。ぼくらがいまあるのも、誰かから教育してもらったからにほかなりません。いまの自分は子ども時代から現在までの教育、つまり投資の蓄積なんです。

とはいえ、「親としてこうあらねば」と気張る必要はありませんよ。まずは自分が人生についてよく考えること、働くことや仕事について正しく理解することからはじめてみてください。それらについて子どもと語りながら、具体的な「お金の教育」に入ってはいかがでしょうか。

――なるほど、そう考えると気が楽ですね。連載第一回目らしく、子育ての大きな指針をいただいた気がします。ありがとうございました!

プロフィール:

ライター:田中裕子
鹿児島県生まれ。新卒でダイヤモンド社に入社、2年間の書店営業で本を売る現場のあれこれを学び、書籍編集局へ異動。ビジネス書の編集を経験したのち、2014年9月にフリーランスのライター・編集者に転身、書籍の執筆やウェブや雑誌のインタビュー記事などを担当する。現在はライターズカンパニーbatonsに所属。1歳の娘を持つ母。

ウェブサイト: https://tnkyuko.themedia.jp/
Twitter : https://twitter.com/yukotyu
note : https://note.mu/tanakayuko

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