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バイクが壊れて直面する、生活の中のコンシューマーアクティビズム

バンドマンで投資家のヤマザキOKコンピュータさん(ヤマコンさん)による連載第5回です!
今回のテーマはコンシューマーアクティビズムについてです。
私たちが日ごろ何気なく行っている消費行動について、ヤマコンさんとともに考えてみましょう!

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友達の友達から頂いたオンボロのスクーターを直しに直して何とかここまで暮らしてきたが、乗っている最中にバキョンと聞こえて後輪の空気が全部抜けた。このスクーター、錆びることができる部分は全部錆びていて、押しても引いてもキイキイ鳴く。

沖縄の潮風に吹かれ続けて23年。限界はとうに越えている。

外装には、もう解散してしまったバンドのステッカー。自分が貼ったわけでもないのに妙な思い入れがあるが、ひとの命には変えられない。事故を起こす前に買い替えようと思う。

日記みたいに始まったけど、今回もちゃんとコラムを書きます。

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どうやら、電動バイクが良いらしい

近年、電動バイクの性能がうなぎ上りだ。

うちのバイクと違って地球は無口。バキョンと悲鳴をあげないが、気候の変動はいよいよ深刻な状態にある。

私は化石燃料の力に頼って暮らすことに抵抗があるので、自分のために消費されるガソリンの量は少なければ少ないほど良いと考えている。

いわゆる"地球温暖化"というのはただ暑くなるだけではなく、氷が溶けたり、大雨が降ったり、山火事が起きたりして、地球の形も変わるし、生態系も変わっていく。
人の住める場所が減って紛争が起きたり、金銭的な格差が決定的なものになることも予測されているし、暖かい世界では新しい病原菌がどんどん生まれてくるという話もある。そもそも暑いの嫌いだし、好ましいことが何もない。

今回のバキョンを機に、電動バイクに乗り換えてみようかと考えた。
その程度で解決するような問題でもないとは思うが、原付バイクよりは電動バイクのほうがランニングコストも安く、小型のものなら同じ免許でそのまま乗れる。

いま私が目をつけている電動スクーターは、家で一晩充電したら70キロも走るらしい。片道10kmの距離を1往復した場合の充電にかかる電気代はおよそ10円。想像以上にエネルギー効率が高い。

遠出した先で電池切れにならないかが心配だけど、予備のバッテリーを持ち運んでも良いし、EV充電スポットというところで充電することもできる。現時点で国内には1万8000以上のEV充電スポットがある。ガソリンスタンドの約6割に匹敵し、なんと私の家からだとガソリンスタンドよりもEV充電スポットのほうが近い。

コンビニやスーパーの駐車場に設置されていたりもするので、買い物している間に充電できちゃう。バイクに対応している充電スポットは少ないようだが、この先まだまだ拡大していく予定らしい。

地球温暖化以外にも環境破壊は起きている

電動バイクや電気自動車には、ガソリンタンクの代わりに大型のリチウムイオン電池が搭載されている。

スマホやパソコン、電動工具など、いまや私たちの生活に欠かせないものとなっているこのリチウムイオン電池は、脱炭素社会を目指す上でのキモと見られている。

しかし、素材となるリチウムを採掘する際には、大量の地下水を汲み上げて蒸発させるなどの工程がとられており、生態系に大きな悪影響を及ぼしているらしい。リチウム産出量1位のチリでは、一部の地域で飲み水や生活用水の確保が難しくなったり、絶滅危惧種のアンデスフラミンゴの生息数が減ったりしているという。

"環境破壊"とひとえに言っても、温室効果ガスや気候変動の問題だけではなく、世界中で森林破壊や海洋汚染、水質汚染、土壌汚染、大気汚染、放射性物質による汚染、生態系の破壊など、パッと思い浮かぶだけでも色々な問題が同時に起きている。

コンパクトに考えて、私が原付バイクから電動バイクに乗り換えることで、日本の二酸化炭素排出量が減ったとする。
こうして大気がいくらか綺麗になってオゾン層の破壊も緩やかになったとしても、地球の反対側の地下や地上が破壊されているならば両手放しで喜べるような状態とは思えない。

借金を借金で返しているようなものだ。

恐らく、手っ取り早く解決を目指すなら私自身が生活を変えて、徒歩中心にやっていけば良いんだろうけど、いつもの産直市場まで歩いて行ったら1時間以上かかる。ましてここは沖縄、炎天下。スコールだって降っちゃう。
よっぽど元気な日にしか行けそうにない。

かと言って、徒歩圏内のスーパーで野菜を買うと、市場の2〜3倍くらいの値段になるし、種類も質も格段に落ちる。肉はどちらで買っても味も値段も変わらないから、自然と肉を食べる機会が増えそうだ。

しかし、畜肉産業は自動車産業以上に大量の温室効果ガスを排出することが知られている。どれを選んでも一長一短。自分の生活の満足度を下げずに持続可能性だけ上げるというのは、なかなか難しい。悩みどころが多い。

消費を通じた社会的行動

私の周りには、肉や魚や卵、乳製品など、動物由来の食品を一切食べないヴィーガンの人がちょこちょこいる。卵は食べる人や、乳製品は食べる人まで範囲を広げると、結構たくさんいる。
私のバンドメンバーもペスコベジタリアンというやつで、魚は食べるけど肉は食べない。私はというと、外食時は何でもおいしく頂くが、家では基本的に牛と豚を食べない。ゆるめのポゥヨゥベジタリアン。

肉を絶つ理由は人それぞれで、アニマルライツ(動物の権利)を気にしている人や、環境破壊を防ぎたい人、飢餓問題を解決したい人※ などがいる。

もちろん、体質が合わない人や、味が受け付けない人、健康面の被害が気になる人などもいるが、私の体感では、大半のひとが何らかの社会問題に対する意志表明を含んだ形でヴィーガンあるいはベジタリアンという生き方を選んでいる。

2011年にバンドのツアーでヨーロッパに行ったとき、街のファストフード店でベジタリアンフードの選択肢が多くて驚いた。最近は日本でも美味しい菜食メニューを選べる機会が増えてきて、昨日も沖縄県で友人が営むヴィーガンフード店でファラフェルサンドを食べたけど、いわゆる"健康的な味"ではなく、ガツンとしていてうまかった。開発が進んでいる。

※ 世界では1億人以上が食べることに困窮している状態にあるが、国連食糧農業機関の統計では食肉や乳製品を作るために、毎年26億トンの穀物が家畜の飼料として生産されている(2017‐2018概算値/2019年)

個人の行動は立ち上がりが早い

昨今では、1990年代後半に生まれた世代、いわゆる"ジェネレーションZ"や、その次の世代にあたる"ジェネレーション・レフト"が中心となって、世界中で新しい社会運動を巻き起こしている。

Black Lives Matter、#Meetoo運動 、未来のための金曜日、サンライズ・ムーブメント、高校生の銃規制運動など。

これらと並行して、日々の買い物やお金の使い方によって社会に影響を及ぼす、コンシューマーアクティビズムにも人々の意識が向いている。
私は1988年、彼らよりもすこし先に生まれた。いわゆる"ミレニアル"と呼ばれる世代にあたる。

この30年ちょいの人生を頭の中で遡ってみても、選挙によって私たちの生活が劇的に良くなったという覚えはなく、私たちやそれより若い世代の意識がコンシューマーアクティビズムに向くのは自然なことのように思える。

中古のスーパーカブを買うか、最新の電動バイクを買うか。それとも歩くか、チャリか、セグウェイか。
自分がどんな買い物をして、どんな風に生きていったら「自分の思い描く理想的な社会」に近付けるのか、今まさに悩んでいるところだ。

・自分にとっての利便性や経済合理性
・その選択が社会へ及ぼす影響

このふたつを天秤にかける癖がついていて、買い物や引っ越しや仕事や資産運用、あらゆるタイミングで考えている。

私は「自分さえ良ければ良いひと」よりもわがままなので、社会や未来も自分も、全部それなりに良くないと嫌なのだ。

コンシューマーアクティビズムの希望

拙著 くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話の裏表紙には、このような記述がある(自分で書いた)。

通いやすい銀行にお金を預けて、手に入りやすい物を買って生活していた結果、つまらない街が延々と広がってしまった。

都市部での暮らしには隙間という隙間に広告があり、あらゆるタイミングで欲望を煽っては、私たちの購買意欲を刺激する。お金、便利、安定、安心、といった類の欲望は、特に強いパワーで私たちの心の中に眠る小さな欲求を強く引っ張り出して肥大化する。

「〇〇保険は家族のために入りましょう」とか、「こういう物を持っておくのが大人のマナー」といった類の、感覚に浸透するタイプ広告も多い。従えばお金が減って労働時間が増していくし、従わないと精神的に閉じ込められる。

もちろん全ての広告が悪いとは思わないけど、気を強く持たないと押し流されてしまいそうな、重力3倍のハードな世界で私たちは生きていると思う。

短期的な願望(欲望)に従って生きるほど、
長期的な願望(理想)は遠ざかってしまう。

何かに流されるのもそこそこにして、長期的な目線を持って、時間やお金を未来に向かって投資していく必要がある。上でも述べたように、環境破壊はいよいよ深刻だ。人権問題や貧困問題など、社会問題も無視できないものばかり。

私たちも次の生活を組み立てていく必要がある。
経済的合理性や利便性を犠牲にしないといけないタイミングもあるだろうけど、どこまで許容できるか考えながら、工夫してうまく付き合っていきたい。

時代か年齢か環境か、何が影響しているかはわからないが、ここ数年私の周りでは多かれ少なかれコンシューマーアクティビズムを意識して生きている人が増えたように感じている。ヴィーガニズムしかり、年々多様性が増していて、受け皿となる社会側の選択肢も増している。

これは二極的な話ではないし、我々も一筋縄ではないものの、様々なオルタナティブが世界中で同時に存在することは好ましく思える。情報交換し合って学びを得る機会も多い。おかげさまで、今日もなんとか未来に希望を持って生きていくことができる。

プロフィール:

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ヤマザキOKコンピュータ
1988年生まれの投資家・文筆家・ウェブメディア運営者。
バンド活動を続けながらライブハウスで働いた経験などを元に、パンクの視点からお金を考える。お金に関するウェブメディア『サバイブ』や、オルタナティブスペース『NEO POGOTOWN』の運営に携わる。
著書『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)
サバイブ:https://www.survive-m.com/
Twitter:https://twitter.com/0kcpu

※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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