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若い棋士と若いファン。将棋界の未来が楽しみになった日。【第7期叡王戦観戦記①】

こんにちは。ひふみラボ編集部です。

2022年4月28日、レオス(ひふみ)が特別協賛をつとめる将棋の八大タイトルの一つ「第7期叡王(えいおう)戦」の五番勝負が始まりました!

第1局は長考合戦の末、現叡王の藤井聡太叡王が勝利しました。
SNSや中継をしていたABEMAでも将棋ファンの熱い気持ちが伝わってきた対局の裏側を、レオス・キャピタルワークス総合企画本部でスポーツを支援する活動を行なう仲木(大阪出身)が熱くレポートいたします!

熱戦、はじまる

叡王戦の第1期は、2015年度にドワンゴ主催で一般棋戦として開催され、2017年度の第3期からタイトル戦に昇格し一番新しいタイトル戦となっています。

そして、レオスが特別協賛をつとめた第6期から、七番勝負が五番勝負となり、番勝負時間も変動制から固定制の4時間に変更されました。加えて叡王戦の持ち時間は予選、本戦、タイトル戦のすべてがチェスクロック方式で、持ち時間が秒単位で消費されます。
ストップウォッチ方式で持ち時間が分単位で消費される棋戦と比べると、タイトル戦の中では最も持ち時間が短く、早い決断力が見どころのひとつです。

さて、今回の第7期は、昨年叡王のタイトル称号を得た藤井聡太叡王に、出口若武(わかむ)六段が挑み、先に3勝した棋士が「叡王」となります。

過去7回のタイトル戦で、タイトル獲得率100%を誇る令和の天才棋士が防衛するのか、兵庫県明石市出身でこの日が27歳の誕生日である若武者が奪うのか、神田明神にて戦いの火蓋がきられました。

事前予想では藤井叡王有利は揺るぎがないのでしょうが、個人的には京都で開催される第5局までもつれる熱戦を期待しています。私の地元が大阪で関西人というのもありますが、出口六段の出身でもある関西の将棋ファンが京都での二人の対局を待ち望んでいるでしょう。

第1局は、江戸総鎮守神田明神で開催されました。
神田明神は、東京の御茶ノ水駅と秋葉原から徒歩10分圏内にあり、神田、日本橋、秋葉原、大手丸の内、旧神田市場、豊洲魚市場、108町会の氏神様で、「明神さま」の名で親しまれています。

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成功祈願と対局検分

対局前日は対局検分の前に、対局場の神田明神の本殿で第1局の成功祈願が執り行なわれました。厳かな雰囲気の中、祝詞の奏上や巫女の舞が行なわれ、両対局者は玉串を奉納して対局の成功を祈願しました。

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藤井叡王は、慣れた手つきでしたが、初のタイトル戦挑戦となる出口六段は少々たどたどしさがあり緊張していたように見えました。

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若き棋士の背中を見つめる仲木(右下)

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祈願の後は本殿の前で記念撮影が行われました。
本殿の前には叡王を一目見ようと駆け付けた将棋ファンやたまたま居合わせた参拝客がカメラを向け、タイトル戦の注目の高さがうかがえます。

その後、16時30分より対局検分が行なわれました。この検分は、翌日の対局を滞りなく行うための事前準備です。対局者にとっては、本番環境を確認し整える場でもあります。

対局検分では照明や空調、座り心地などを確認し、対局で使用する駒を選びます。盤上には、将棋駒師・大竹竹風師が作った盛上駒が菱湖(りょうこ)書と昇竜書の2組の書体で用意されており、藤井叡王が菱湖書を、出口六段は昇竜書を選び、最終的には菱湖書の駒を使用することとなりました。両対局者は、自分の駒を指し、少し動かし滑り具合も試していました。この本局で使われる駒は対局後、記念として将棋連盟が募集して選ばれた「見届け人」の方に贈られるそうです。

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ちなみに、検分の際に気づいたのですが、普段黒のスニーカーを履かれることが多い藤井叡王ですが、この日は珍しく黒の革靴であり、出口六段は茶の革靴でした。

張り詰めた一瞬

対局当日は、対局開始の朝9時より30分ほど前に関係者は会場に集合し、「初手立会い」を行ないます。

対局当日が27歳の誕生日だという出口六段は、師匠にプレゼントしていただいたという夏らしい鮮やかなカラーの着物を纏い、藤井叡王より一足先に着席します。ひたすら盤を見つめて集中している姿にこちらにも挑戦者の緊張感が伝わります。
初手立会いで出口六段の真横に座っていた営業部の渡邊に聞いたところ、深く長い息を何度も吐いていたとのこと。圧倒的な相手に立ち向かう前の心情がどのようなものなのかが見てとれるようでした。

当日私たちをアテンドしてくださった日本将棋連盟会長の佐藤康光九段に、「対局前はどんなことを考えているんですか?」と聞くことができました。

佐藤九段:「戦略の確認ですね。初手どうするか、第1局は先手の場合と後手の場合でのシナリオを考えているのでそれをひたすら復習します。」

藤井叡王も出口六段も、前日の必勝祈願・会見の際はやや柔らかい雰囲気もありましたが、対局当日は集中し、張り詰め、まるで別人の空気です。

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対局直前までカメラのシャッター音が響いていましたが、初手の瞬間はまさに無音。一瞬時が止まったような、息をのむ音すら聞こえそうな空気で、第1局は幕をあけました。

棋士は炭水化物好き?

対局当日は、主催者である不二家さんから、10時と15時におやつが提供されます。控室では自身も熱心な将棋ファンでありアマ六段である藤野から、「対局で1、2㎏は体重が減る」と聞いていました。確かに、4時間にわたり複数の手と戦略を考え続ける棋士は、脳が消費するカロリーが半端ないのでしょう。

対局中に速報が出るほど注目度が高い棋士のおやつですが、この日の午前は、藤井叡王がカラフルで見た目も可愛い「春摘み苺のドルチェ」とアイスコーヒー、この日が誕生日の出口六段は、バースデーケーキ風にデザインされた「ミルキー缶」と赤ブドウジュースを選択なさっていました。

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また午後には、藤井叡王が濃厚な「生ミルキー(プレーン)」、出口六段が「春摘み苺のドルチェ」と別のものを注文し、飲み物は共に白ブドウジュースを選んだようでした。

約3時間で3手のみという超長考が続いた対局でしたが、おやつが糖分補給と息抜きになっていたようです。春摘み苺のドルチェは、ピスタチオクリームも絞られており、レオスメンバーからも「食べたーい!」と歓声があがっていました・・・が、私たちはその場で試食はできません(笑)。

ちなみに、「食べ将(将棋めしに注目し、実際に同じものを食べたりするファン)」必見の昼食は、

藤井叡王は「将棋をサス」→刺身を使った「海鮮丼」、

出口六段は「相手玉をツメル」→旨味を詰めた特製タレの「うなぎ丼」

を平らげています。写真のとおり、かなりのボリュームです。

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手前がうなぎ丼・奥が海鮮丼です。

藤井叡王は対局時に欠かさず持ち歩くものとして、「扇子とハンカチとチョコレート」、出口六段も「集中力を高めるためにチョコレートは常に持ち歩いている」と回答していることから、糖分は欠かせないものであろうことは理解していたものの、想像以上の糖分摂取量に驚きました。

観る将が6~7割 大盤解説会

神田明神ホールでは、プロ棋士と女流棋士が戦局を解説する大盤解説会が行われていました。160名の枠に対し3倍ほどの申込があったそうです。解説者である佐藤天彦九段と聞き手の中村桃子女流二段が、プライベートな話を交えながら繰りひろげるしゃべりが面白く、会場は大いに盛り上がり、私も大いに楽しみました。

セミナーやイベントで人前で話す機会がある私や、マーケティング部の赤池もその様子を見て、「対局が動かない間トークでこれだけ盛り上げられる将棋界の層の厚さもすごいですよね」という感想が思わずこぼれるほど、会場は笑いが溢れた場でした。

また、参加者の8割以上は女性で、解説者の佐藤天彦九段が「観る将の人~?」と会場の参加者に問うと、6~7割ほどの方が手をあげていました。中には制服を着た学生さんも参加していて、若い層の将棋ファンが増えていることを実感できました。

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1分勝負

お互いに60分を超える長考が続いた本局が進むにつれ、「4時間の持ち時間が終わったらどうなる?」と疑問がわきます。

藤野から「4時間の持ち時間を使い切ったら、そこからは“1分将棋”」と教えてもらいました。

「ん?これはエライこっちゃ!1分で勝負決めるなら1手数秒やん」とつぶやいた。ちゃうちゃう、そんな訳ないやんね。
「 “1手1分未満”で指し続けることが“1分将棋”」と藤野から教わり、時間の使い方を含めて将棋という戦いの深さを知りました。

藤井曲線テイクオフ

さて、対局を中継していたABEMAには、AIが局面ごとに算出する勝率が表示されます。
序盤はほぼ50:50ですが、藤井叡王の一手ごとの局面の勝率を結んだ形勢の推移を示すグラフは、中盤以降徐々に上がり、午後6時20分、93手で藤井叡王が先勝しました。

この、じわりじわりと勝率を引き上げ、なだらかな曲線美を描くのを将棋ファンの間では「藤井曲線」と呼ぶようです。

藤井曲線の定義について、谷合廣紀四段は記事※の中で

基本的に右肩上がりの単調増加関数みたいなグラフを言うのだと思います。悪手を指してしまうとガクッと一気に下がってしまい、なめらかな曲線にはなりません。藤井さんはいい手だけを指し続けているので単調増加を続けるのです。※ 引用元:NumberWeb 2022/01/20掲載
Graphic Number Special[東大院生棋士が教える]「藤井曲線」とは何か

と藤井叡王の王道であり理想的な勝ち方であると述べていました。この日も藤井叡王は悪手を指さなかったということ。まさに「テイクオフ」という表現がピッタリの曲線でした。

一方、私は最後の最後まで詰められながらも、考え抜いて粘り続けた出口六段の気合に心を打たれていました。

将棋界のこれから

コロナによる影響もあり将棋人口は530万人と2020年の620万人から大幅に減っているものの、ここ最近は、藤井聡太叡王の人気もあり「観る将(観戦やイベント参加がメインで、自分で対局を行なうことがほとんどない)」といわれるライト層の広がりに期待できます。

ゆえに、これから運営側の工夫が問われてくるのではないでしょうか。国内のみではマーケットは限られているので、プロスポーツのようにアジアや世界へとマーケットを広げていくことも視野にあるのでしょうか。

または、AI対人間のようにeスポーツ化して開拓するのも面白いと思います。様々な手を打ち尽力している日本将棋連盟の会長である佐藤康光九段に伺ってみたいところです。  
レオスも、一緒に将棋界発展のために共創していきたいと思います。