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子どもとは『人生の質』について話してほしい 藤野英人が子どもに伝えたいこと(前編)

「これからのお金」「これからの投資」を一緒に考える“研究所”、ひふみラボ。こちらのnoteでは、ゲストの方々にさまざまな切り口で参加していただいています。

今回から、ライター田中裕子さんによる連載「子どもに伝えたい、お金のこと」が始まります。

「これから子どもにお金のことをどう教えていけばいいのか」と戸惑っていらっしゃるお父さんお母さん、いらっしゃいませんか。一児の母でもある田中さんもその一人です。

連載では、田中さんがインタビュアーとなって、「投資のプロ」でもあるレオス・キャピタルワークスのメンバーたちが考える「お金の教育」について、率直に尋ねていっていただきます。

まず一人目は、レオスの代表である藤野英人が登場します。前編では、お金の話ではなく「良い人生とは?」がテーマとなりました。

* * *

親になると、「自分が子どものときとは時代が違うんだな」としみじみ思わされることが増える。英語やらプログラミングやら、学校で教える科目も変わっているし、「子どものうちに身につけておくべし」とされる力も変わっている。

そのひとつが、「お金」だ。

新聞には「お金の教育、子どものうちに」「金融教育、6割が小2までに」といった記事が踊る。なんとなく、これからの時代、個人がお金を学ぶ必要性はより高まる気はしている。

……しかし、言い訳になるけれど、当の親世代は金融教育など受けてきていないのだ!

「お金についてなにを教えたら正解なのか、よくわからない」
「子どもたちが生きる時代に、自分の知識が役に立つのか自信がない」

そんなお父さん、お母さんは多いのではないだろうか。

「じゃあ、『お金のプロ』たちは、実際子どもたちになにを伝えているの?」

……そんな疑問からスタートするのが、連載「子どもに伝えたい、お金のこと」。レオス・キャピタルワークスのみなさんが考える「お金の教育」について、根ほり葉ほりうかがっていく 。

今回の話し手:藤野英人 
レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。まごうことなきお金のプロであり、大学生の娘を持つ父でもある。
聞き手:田中裕子
ライター。1歳9ヶ月の娘を持つ母、ビジネス系出版社出身だが、お金についてはどうもフワフワしている。

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お金の話の前に子どもと話しておきたいこと、親が考えておきたいこと

——記念すべき初回ということで、代表である藤野さんに登場していただきました。今回うかがいたいのは、わたし自身の資産運用ではなく「お金の教育」についてなんです。子どもにどうお金の話をしていくべきか、なにを教えてあげればいいのか。

「お金の教育」ですね。それならまず、「どう生きたいのか」について語り合うところからじゃないでしょうか。

——ええっ、しょっぱなから「生き方」ですか。うーん、お金の話とはすこし違うような……?

いやいや、そうではないんです。むしろ、多くの人が「お金」を「お金」で語ろうとしてしまうから、話がむずかしくなってしまうわけで。今日は、そこらへんの誤解を解いていきましょうか。

——おお……! ぜひともお願いします。

まず、みなさんが子どもにお金のことを伝えたいのは、やっぱり「お金に困ってほしくない」という思いが強いからだと思うんですよ。正しい金銭感覚を持ってほしいとか、ソンをしてほしくないとか。もちろんそこには、「ある程度裕福になってほしい」なんて思いもあるでしょう。

ではここで質問ですが、一般的に「お金持ち」ってどんなイメージがありますか?

——なんだろう。「成功者」?

なるほど。では、年収1億円を手にいれたら、だれしもが成功者になれるでしょうか。

——いや、そういうわけじゃないと思います。「お金面を含めて、人生がトータルでうまくいっている人」のイメージかもしれません。

そうですよね。ぼくも子どもに広義の意味での「成功者」になってほしいと思っていますが、それはただ出世してお金持ちになってほしい、という意味ではありません。いいパートナーや友だちに恵まれてほしいし、人生を楽しんでほしい。もちろん、働いてお金を稼いでほしい。さまざまな要素が含まれているわけです。それは言葉を変えると、「幸せ者」と言えるでしょう。

——「成功者」とは「幸せ者」である、と。

しかし、日本では一般的に子どもを「成功者」にするためにまず勉強をがんばらせます。現にぼく自身も進学校に通っていましたから、「一流」「エリート」と呼ばれる友人がたくさんいる。高給取りで、目的を果たしているように見えます。

じゃあ、実際はどうか。残念ながら、「幸せじゃないお金持ち」はけっこう多いんですよ。仕事や家庭がうまくいっていないと文句を言ったり、悩んだり。もうね、表情が暗いわけ。ぼくは、「どうしてこうなってしまうんだろう」とずっと不思議でした。

その答えがあるときわかったんですが……「考えてこなかったから」なんですよ。

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年収1億円だけど、だれからも愛されない人生

——「考えてこなかった」? 

自分の人生と、自分自身についてです。自分はなにが楽しくて、なにが好きなのか。なにを幸せとするのか。そもそも、なぜ生きているのか。

そして、なぜ考えてこられなかったかというと、その人の親も考えてこなかったし、親子で話すこともなかったからでしょう。人生を語らず、「テストで何点だったか」「どの学校に行くか」という話ばかりしてきた。

だから子どもたちは、自分のことがよくわからないまま大人になってしまいました。日本には教会やお寺に集まって先人の教えを聞く文化があまりないのも原因のひとつだと思いますが、なおさらそこは親が担うべきところだと言えます。

ぼくはね、これからの親御さんには、子どもと「人生の質」について話してほしいんです。たとえば勉強にしても、「どんな人生のため」を語り合わず無理やり机に向かわせるのは、教育とは言えないんじゃないか、むしろ「教育虐待」じゃないか、と。

——教育虐待……。ちょっとショッキングな言葉ですが、たしかに「いい大学に入っていい就職をするための勉強」がその子の「人生の質」を上げるとは限らないですもんね。

そうそう。それに、今日のテーマの「お金」だって、そもそも人生について話さなければ伝えることはできないんですよ。なぜかって、お金と働くことは切り分けられないし、働くことと人生は切り分けられないから。人生で大切なことや働く意義といった本質を考えずして、いきなりお金の話「だけ」をするのは無理があるわけです。

極端な話、年収は1億円あるけれど、だれからも尊敬されない、愛されない、笑い合う人がいない生活って……どうですか? 

——うう、しんどいですね、それは……。

地獄ですよね。でも、そういうことを考えたことがないと「高収入=成功」で思考停止してしまう。だからまずは、「自分はこういうことを幸せだと思う」「こういうふうに生きたい」って子ども自身が気づくことが大切なんです。

親子でマジメな話ができる関係に

——でも、わたし自身、親とそんなマジメな話をしたことはないかもしれません。うーん、できるかなあ。

できる、できる。まずは親自身がよく考えて、人生観や仕事観に自分なりの「解」を持っておかないといけないけどね。もちろん、四六時中マジメな話を語り合う必要はありませんよ。子どもだって忙しいですから。

……じつは、うちの子からは「自分の話はしてくれるな」と釘を刺されちゃって(笑)。あまり詳しいことは言えないんだけど、ぼくは、どんなに仕事が忙しい時期でも月に1回は子どもとじっくり話をする時間を設けていました。話を聞いて、自分の思いも語って。

——なるほど。藤野さんみたいに立派なことは言えなくても、自分なりに、子どもになにか伝えられる親でいたいなあ。……お金がテーマだったのに、思いがけず子育て全体、親子関係のいいお話をうかがってしまいました。

まずはここから始めないと、地に足がついた話になりませんからね。まあ、田中さんの場合、お子さんもまだ小さいでしょう? 語り合えるようになるまでには時間があるわけですから、じっくり考えて言葉にしておいたらいいんじゃないでしょうか。

——はい、よーく考えておきます!

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プロフィール:

ライター:田中裕子
鹿児島県生まれ。新卒でダイヤモンド社に入社、2年間の書店営業で本を売る現場のあれこれを学び、書籍編集局へ異動。ビジネス書の編集を経験したのち、2014年9月にフリーランスのライター・編集者に転身、書籍の執筆やウェブや雑誌のインタビュー記事などを担当する。現在はライターズカンパニーbatonsに所属。1歳の娘を持つ母。

ウェブサイト: https://tnkyuko.themedia.jp/
Twitter : https://twitter.com/yukotyu
note : https://note.mu/tanakayuko

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