投資信託会社で働く母と、娘の「お金観」 レオス竹中陽子が子どもに伝えたいこと
レオス・キャピタルワークスのメンバーが考える「子どものお金の教育」について、ライターの田中裕子さんが根ほり葉ほり尋ねていく本連載。
今回登場するのはパートナー営業部・竹中陽子です。高校生の娘さんに対して、お金の教育は厳しくせず、時に甘かったと振り返りつつも、最近になって金融教育につながっていた「あること」に気付いたとか。
投資信託会社で働く母の元で育った娘は、どんな「お金観」を持っているのか聞いてみました。
* * *
今回の話し手:竹中陽子
レオス・キャピタルワークス パートナー営業部。16歳の女子高生と夫との3人暮らし。証券会社等を経て、2008年にひふみ投信の立ち上げ時に入社。コミュニケーション・センター にてお客様対応に従事した後、異動して現部署へ。
聞き手:田中裕子
ライター。2歳の娘を持つ母、ビジネス系出版社出身だが、お金についてはどうもフワフワしている。
ひとつだけ断言できる「やってよかった金融教育」
——「お金のプロにお金の教育について教えていただく」本企画、今回お話を伺うのはパートナー営業部の竹中陽子さんです。
竹中さんは現在16歳の娘さんを育てていらっしゃるとのこと、子育ての先輩のお話をとても楽しみにしていました。ご夫婦ともに金融関係のお仕事に就いておられるそうですが、やはり相当な金融教育をされてきたのでしょうか?
いえ、しょっぱなから申し訳ないのですが、あまり深く考えていませんでした(笑)。「小学1年生は100円、2年生は200円……」とごく一般的なお小遣いシステムでしたし、娘に足りないと求められれば言い値で渡していましたし。
——それは意外です。いわゆる「甘い」対応ですね(笑)。
ひとりっ子で両親とも仕事で忙しくしていたので、「さみしい思いをさせているのでは」と申し訳なさもあったんです。だから、必要なものがあればどうぞという感じで。
そんな我が家ですが、ひとつだけ「やってよかった!」と言えることがあります。それが、娘が小学校に入るタイミングで、彼女用に投資信託の口座を作ったこと。
もちろん私がレオス・キャピタルワークスに勤務しているということもありますが、ひふみ投信は未成年の口座も開設できるんですよね。一括で入金したのが10年前のことで、いま振り返ってみてもいい金融教育になったかなと。
——6歳にして投資信託の口座を持っているなんてすごい! 娘さんはその意味をわかっていましたか?
さすがに小学生ですから、「投資とはなにか」「なぜ増えたり減ったりするのか」といった仕組みまでは理解していませんでした。私の仕事についても「銀行みたいな会社」と言っていましたし。
ただ、「ひふみ」という名前と、自分の口座だということはなんとなくわかっていましたね。最近はひふみの残高照会ができるウェブページにも自分でログインするようになったので、より「自分の資産」という思いが強くなったようです。
——お小遣いとして使うこともあるのでしょうか。
いえ、10年間、大切に長期保有しています。彼女のことでまとまったお金が必要なとき——たとえば中学校の受験費用や入学金を払うときは、私名義のひふみの口座から利益分を換金してきたんです。「これくらい増えていて、その分を入学金に使ったよ」と伝えると「すごい!」と驚いていました。だから単純に、「ひふみにお金を入れると増える」と思っていたみたいで(笑)。
——魔法のポケットみたいな(笑)。
それで高校に入ってから、ある友だちから「叶えたい夢があるけど親が退職してお金がない」と相談された娘が、よかれと思ってひふみ投信を紹介してしまったことがあったんです。娘から「お母さんの会社に預けたらお金が増えるんでしょう?」と電話がかかってきて。「たしかにひとつの株を買うよりはリスク分散できるけれど、必ず儲かるわけではないし、ソンをすることもあるんだよ」と、金融商品が持つリスクを真剣に説明して、それをお友達にきちんとと伝えるように話しましたね。
それをきっかけに、娘にもあらためて「投資とはなにか」「投資信託とはなにか」をしっかり話しました。ですから「投資信託やファンドなんて言葉、聞いたこともない」という子よりは、金融リテラシーが高いと言えるかもしれませんね。
——なるほど!
投資のおかげで、家庭内アクシデントに対応できた
——ちなみにご両親ともに金融関係にお勤めだと、やはり家庭でも経済の話が交わされるのでしょうか。
そうですね、食卓でもごくふつうに株や投資の話は出ます。あの銘柄が上がったとか下がったとか……。ただ、あくまで夫婦の会話で、娘の教育を考えていたわけではありませんが。
——それでも、経済や金融の話を耳に入れること自体が学びになりそうです。
たしかに、投資やお金の話をする家庭って多くはありませんよね。少し前の話になりますが、娘が保育園に通っていたころは、クラスメイトのお母さん方とお互いの仕事の話になっても、「投資信託」という言葉にピンと来る方があまりいませんでした。
もちろん金融機関に務めている方はご存知でしたし、投資をしている方もいましたけれど、いわゆる「一般的な女性」にとって近よりがたかったんです。バブル崩壊以降、日本では「株=ソンするもの」と敬遠されていましたしね。
ただ、最近は少しずつ意識も変わってきたと感じています。若い女性でも投資を前向きに捉える人、資産形成を考える人が増えてきました。
実際、これからの時代、投資リテラシーは必要不可欠です。私自身、投資に生活を助けられた経験があるからこそ断言できますね。
——投資に助けられた、というと?
ある時期に主人が身体を壊してしまい、それまで共働きだったのが私ひとりで家庭を支えなければならなくなったんです。そのとき、ひふみ投信で生じた利益分を換金することで、生活費や教育費の足しにできた。「助かった」と安堵したのを覚えています。
長い人生、いつなにが起こるかわかりません。いまは金利が低く、銀行にいくら預けてもお金は増えない。私、ましてや娘が高齢者になるころ、どれくらい年金が出るかもわからない。不透明な時代だからこそ投資はやっておいたほうがいいと、再確認できました。
今後、「自分のお金は自分で増やす」ことが、より当たり前になっていくでしょう。それに対応していくためにも、家族でお金について話す習慣をつける意味はあると思います。
母親や大人の女性が働く様子を見せてきた
——話は変わりますが、高校生というとこれから進路や職業選択をする、親としても悩ましい時期ではないでしょうか。
はい、今年の夏休みはアルバイトに打ち込んだ友達もいたみたいで、娘も興味を持っていました。「はじめての給料はお母さんにあげる」と言ってくれたので、自分で使いなさいと遠慮したところ、「せっかく稼いだお金を適当に使うのはイヤだからひふみに預けてほしい」って(笑)。働いて得たお金は大切だという意識はあるようです。
——「働くお母さん」の背中を見てきたからこそですね。
私、中途半端には仕事をしたくなくて、けっこう忙しく働いてきたんです。なので、先ほど申し上げたように「さみしい思いをさせているかな」と後ろめたさもあったのですが……。
この前、娘の担任の先生から「お母さんみたいな仕事に就きたいと言っていましたよ」と言われて、そう思ってくれているのならよかった! とホッとしました(笑)。私にも「お母さんの会社に入りたいけど、勉強できなきゃダメなんだよね?」なんて言ってきますし。
——かわいい! お母さんの仕事、尊敬しているんですね。
というより、私の女性上司や同僚の姿を見てきたのも大きいと思います。昔は、しょっちゅう職場に娘を連れてきていたんです。留守番はできない年齢だけど、やらなきゃいけないタスクは山積みだし、ほかに方法がなくて。
レオスもまだ小さな会社で、土日も誰かしらが来ていました。大人たちが仕事を進める横で彼女も椅子に座ってお絵かきしたり、気づいたら床で寝ていたり(笑)。
正直、当時は「仕方なく連れて行っていた」のですが、親以外の大人と触れあい、仕事に打ち込む姿を見る経験は彼女にとってよかったのかもしれません。具体的にどんな仕事をしているかわからなくとも、楽しそうに働く女性をたくさん見てきたからこそ、私の仕事や会社がポジティブに感じられるのかなと思います。
娘は私の同僚の名前も把握していますし、「知らない世界」じゃないんですよね。
——親の職場に行き、同僚の存在も知っている。それは働くことを身近に感じられそうです。
そうですね。とはいえ彼女もまだ私の仕事しか知らない段階ですし、これから自分の道や夢を見つけていくでしょう。
「女子高生の母」のおもしろさ
ただ、いまの高校生って夢探しも大変みたいです。娘を見ていると妙に現実的で、どうしてだろうと思ったら、どうやら「ネットで調べればだいたいわかるから」らしくて……。
——というと?
さまざまな職業に就いている人たちが自由に自分の仕事について発信しているでしょう? つまり、仕事内容や苦労、将来性、収入もある程度は可視化されている時代なんです。抱きかけた夢に対して、早々にリアルが見えてしまう。「こんな仕事もいいな、ネットでみよう」「あ、大変そうだからやめておこう」って(笑)。
——へええ、新しい悩み……。子育ては、自分が子どものころの常識や経験が役に立たないなと痛感します。
でも、それがおもしろいですよ。子どもが教えてくれる文化もたくさんありますしね。とくにうちはいま女子高生で周りも流行に敏感なので、次から次へとおもしろいものを見つけてきます。
それに彼女たちがハマっているものって本当に、数カ月経ってから世間で流行りはじめるんですよ。タピオカなり韓国のエンタメなり、メディアで取り上げられるころには娘や友達の間ではすっかり定着しているか、「ちょっと前のブーム」になっている。マーケットをつかむいい勉強にもなりますね(笑)。
——うちは子どもがまだ2歳なので想像できませんが、楽しそう……! それにワーキングマザーだからできる金融教育やキャリア教育もあるんだなと、気持ちがより前向きになりました。
それならよかったですが、私、「子育てと仕事の両立」なんて偉そうなことは語れないんですよ。母親としてはいたらないところばかりで、学校行事を直前まで知らなかった、なんてことも多々ありました。
だから、ママ友には相当助けられましたね。先々の予定を教えてくれたり、お迎えが遅くなるときは家で遊ばせてくれたり。支え合えるママ友はほんとうに大事だと思います。……って、こんな結論でいいのかな。
——はい。早速、ママ友つくりをがんばりたいと思います!(笑)
プロフィール:
ライター:田中裕子
鹿児島県生まれ。新卒でダイヤモンド社に入社、2年間の書店営業で本を売る現場のあれこれを学び、書籍編集局へ異動。ビジネス書の編集を経験したのち、2014年9月にフリーランスのライター・編集者に転身、書籍の執筆やウェブや雑誌のインタビュー記事などを担当する。現在はライターズカンパニーbatonsに所属。2歳の娘を持つ母。
ウェブサイト: https://tnkyuko.themedia.jp/
Twitter : https://twitter.com/yukotyu
note : https://note.mu/tanakayuko
※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。
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