栗岡さん1

「あれもこれも」大切にする子どもから大人が学ぶ  レオス栗岡大介が子どもに伝えたいこと(前編)

「これからのお金」「これからの投資」を一緒に考える“研究所”、ひふみラボ。こちらのnoteでは、ゲストの方々にさまざまな切り口で参加していただいています。

「子どもに伝えたい、お金のこと」は、ライター田中裕子さんによる連載です。

「お金についてなにを教えたら正解なのか、よくわからない」「子どもたちが生きる時代に、自分の知識が役に立つのか自信がない」そんな、お父さんお母さん、いらっしゃいませんか。一児の母でもある田中さんもその一人です。

本連載では、田中さんがインタビュアーとなって、「投資のプロ」でもあるレオス・キャピタルワークスのメンバーたちが考える「お金の教育」について、率直に尋ねていっていただきます。

今回は運用部のシニア・アナリスト栗岡大介が登場します。自分の「やりたい」に正直に生きる栗岡が、昨年開催した子ども向けワークショップで伝えたかったこと、同時に子どもたちから吸収したことを前編でお話ししています。
               * * *

今回の話し手:栗岡大介
高校3年の時にバッファロー牧場へ1年間ホームステイしたことをきっかけに、ニューヨーク州立大学へ。在学中は、韓国やドミニカ共和国への留学も経験したほか、 内閣府主催の国際交流イベントのコーディネーターも務める。卒業後は岡三証券に入社。機関投資家向け営業でトップセールスに。
2013年3月にレオス・キャピタルワークスに入社、アナリストとして運用部に配属。強みは足を使ったリサーチのほか、日常の変化をマーケットに落とし込むこと。また、両親が画家ということもあり写真、絵を描くこと、料理、陶芸など趣味は多岐にわたる。
聞き手:田中裕子
ライター。2歳の娘を持つ母、ビジネス系出版社出身だが、お金についてはどうもフワフワしている。

栗岡さん1

おとなが子どもから学ぶ社会へ

——昨年開催したイベント「子どもひふみ 夏休みワークショップ」では、栗岡さんが「ダイスケお兄さん」として子どもたちを盛り上げたと伺いました。本企画「子どもに伝えたいお金のこと」では、アナリストとして子どもたちにどのようなことを伝えていきたいですか?

いきなり企画主旨をひっくり返すようで申し訳ないですが、おとなは「子どもを教育しなければ」という発想を改めるべきだと思うんですよ。

これからの社会ではもはや逆で、「おとなが子どもから学ぶ」ほうが必要になってくる。子どもこそ「師匠」だと、僕は本気で思っています。

——おとなが、子どもから学ぶ……とは。

社会を俯瞰してみると、テクノロジーの進化によってさまざまな業界の垣根がなくなっていくのは間違いありません。そんな時代に活躍するのは、常識や慣例にとらわれないまったく新しい発想ができる人です。それってつまり、子どもでしょう? 

では、おとなは子どもから何を学んでいくべきか。これが今日お話ししたいことなのですが、はじめに、去年の夏休みに開催した子ども向けイベントについてご説明しますね。

まず、イベントのテーマは「夢を仕事に」だったのですが……これ、僕たちからするとちょっとヘビーな言葉だと感じませんか。

——たしかに、「夢を『仕事』に限定させるべきではない」という主張もありますし、最近は「夢ハラ(ハラスメント)」といった言葉を耳にすることもあります。

うん、そうですよね。でも、子どもたちは「仕事」に関する知識はないけれど、「夢」に対しては気負わず考えることができるんです。問題は、おとなのほう。だからこそ今回のイベントでは、「後ろで観覧している親(おとな)にも自分の夢について考えてもらう」という裏テーマを設けていました。

ワークショップではまず、仕事探しゲームからはじめました。100円ショップで買ってきた雑貨を机の上にバーッと広げ、そこからどんな仕事があるか子どもたちが推理していく。

画像4

子どもは、仕事探しが上手です。「マスカラ」という商品名は知らなくても、何やら黒い液がブラシについてくるモノ、という認識ができて、そこから「黒い液を発明した人」「パッケージをつくる人」「工場から運ぶ人」「会社の電話番」といった具合に、ひとつの商品で何十もの仕事を見つけていく。無尽蔵に出てくるアイデアに、親のほうが「こんなにあるのか!」と目を丸くしていました。

そして、世の中には多くの仕事があるとわかったところで、夢を書き出すワークに入ります。かしこまって「あなたの夢は?」と聞かれると構えてしまいますが、夢って要は、やりたいことであり、好きなことなんですよ。子どもたちはキラキラした目で「もっとマグロを食べたい」「ゲームをしたい」「海外に行きたい」「毎日、土日のように過ごしたい」と、いくつもの夢を挙げていきました。

——「夢」って、そういうレベルでいいんですね。全然ヘビーじゃない。

そうなんです。それで次に、その「やりたいこと」を実現するためにはどんな仕事をすればいいかを考えてもらいました。「マグロを食べたいから、寿司屋になる」「海外に行きたいから、旅行会社ではたらく」というふうに。

——あ、まさに「夢を仕事に」していく作業ですね!

ええ。このワークショップで僕が伝えたかったのは、「やりたいことがたくさんあると、やってみたい仕事が増えていくよ」ということです。

夢だからといって大それた、人生を貫くテーマである必要はない。ひとつに絞らなくていいし、優先順位はそのときどきで変わっていい。やりたいことが増えれば増えるほど、世の中に存在するあらゆる仕事と結びついていくんです。やりたい仕事が増える、とも言えます。

——「夢は壮大なものをひとつだけ」という呪いにかかっている人、多いかもしれません。

子どもたちはほんとうに、やりたいことをたくさん持っています。そのまま成長したら、やってみたい仕事がたくさん、ということになる。これはすばらしいことで、おとなが学ぶべきところですよね。

有名な話ですが、ダーウィンは地質学者でもありましたし、カフカは保険局で働く職員でした。興味があることや好きなこと、複数の仕事などをたくさん持つことで、世界が広がるんです。

栗岡さん2

「あれもこれも」を大切にする

——ワークショップに話を戻すと、「やりたいこと」と仕事が結びつかない子もいたのではないでしょうか? 「毎日、土日のように過ごす」とか……。

ええ。はじめはその子も、「これは仕事にならないなあ」と言っていました。しかし彼はワークの中で、「そういう仕事をつくればいいんだ!」とひらめいた。そして「街の支配者になる」と書いたんです。自分が法律をつくって、毎日を土日にしようって。

これぞ、イノベーションの源泉だと思いませんか? こういう発想もまた、子どもに学びたいところです。

——「ない仕事はつくればいい」もすばらしいし、「街の支配者になる」なんておとなには思いつけませんね。

でしょう? ところが、それを思いつくおとなもいるんです。たとえば、Google親会社であるアルファベット社がそのひとつ。彼らは2023年、カナダのトロントにスマートシティをつくる計画を立てています。技術者を集め、1400億円を投じ、すべてが最適化された街を。規模こそ違えど、さきほどの少年と同じ発想ですよね。

——たしかに、おとな版「街の支配者」!

GAFAのような企業は、子どもと同じなんですよ。たくさんの「やりたい」にあふれ、それらを達成するために世界中から優秀な脳みそを集める。そうして、荒唐無稽なアイデアをかたちにしていく。Amazonのやりたいこともはじめは「便利な本屋さん」だったのがいまや「宇宙のインフラを目指す」ですし、GoogleもAIから自動車、ロケット、街づくり、なんでもありですから。

街の支配者になりたい彼の「毎日土日がいい」も、「やりたいことがいっぱいだよ! 時間が足りないよ!」ってことですよね? おとなは「ずっと土日」というとダラダラ怠けることを連想するけれど(笑)、決してそういう意味じゃない。人生とはすなわち「遊ぶこと」だって、子どもはわかっているんです。

日本にGAFAのような企業が生まれないのは、たくさんのやりたいこと、遊び心を持ち続けている、子どものようなおとなが少ないからかもしれません。

——うーん、どうすればいいのでしょうか。

「あれもこれも」な人を評価するところからだと思います。「優柔不断」とか「気が多い」じゃなくてね。小さな子どもって「食べたい・遊びたい・寝たい」を同時に満たそうと奮闘して、結果としてパニックに陥ったりするでしょう(笑)。食べながら、寝ちゃうとか。あの姿勢を学びたいですよね。

おとなが子どもでいつづけるために

個人的には「働き方改革」の意義はこの「あれもこれも」の実現にあると思っています。就業外の時間を使うことで、自分のやりたいことを2つ、3つと同時に叶えられるわけですから。たとえば「本業でいい成績をあげたい」「会社外の仲間を増やしたい」「料理上手になりたい」……これ、自分のことなんですけどね(笑)。

——栗岡さんは「やりたいこと」をどのように実現しているんですか?

じつは自宅をフルリノベーションして、1階をいろんな人が集まるサロンのような場にしているんです。僕の実験的な料理を食べてもらいつつ、異業種の人が集まって、つながっていく場をつくっちゃいました。

——えっ、そのために自宅を改装されたんですか!? 家族の方はなんと……。

しょうがないねって感じでした(笑)。僕は寅さんが大好きなので、映画『男はつらいよ』でみんなが集まるお団子屋「くるまや(本家くるま菓子舗)」みたいな場所を作りたかったんですよ。そこにちなんで「くりや」と名付けましたし。

僕としては料理の腕が磨けるし、「くりや」にやってきた人は楽しいし、学びになる。学んだ人が働くことで成長企業がうまれて、そうすると僕の投資先が増えて……とポジティブな循環を社会に生み出したいんです。3月には大学院も卒業するので、本腰を入れて運営していくつもりです。

——エネルギーがすごい……! 自分の「やりたい」に正直に生きるって、楽しそうですね。それにしてもなぜ、栗岡さんは子どものままでいられたのでしょう?

海外経験、つまり居心地の悪いアウェイな環境に身を置く機会を何度か経験しているからかもしれませんね。高校3年生からはアメリカに留学してバッファロー牧場にホームステイしましたし、その後もニューヨーク州立大学に通いながら、韓国やドミニカ共和国などいくつかの国に留学しています。

銀行口座もケータイもない、友だちもいない状態から楽しく生きていくためには、子どものように、自分のやりたいことを声に出して、仲間を集めて、実行してみるしかなかった。もちろん失敗したことも多くありましたが、成功すると幸せで、幸せで。こうした経験のおかげで、子どもでいつづけることができたのかもしれません。

それともうひとつ、僕の家庭はすこし変わっていて、みんなアーティストなんです。両親は画家ですし、叔母もある銀行で女性初の管理職を務めていたのに、あるとき機織りをはじめて(笑)。いわゆるバリキャリだったのに、バブル絶頂にあっさり辞めちゃった。

栗岡さん3

——へえー! 

両親はまだ「こんなに描きたい絵がある!」と言っていますし、気分が乗らないときは一日中じっと座っています。何歳になろうが、それぞれ自分が好きなことややりたいことを、やりたいようにやっていますね。

——子どもらしいご両親(笑)。おとなは子どもに、そういう背中を見せなきゃいけないのか。

そうですね。あと言葉でもずっと「好きなことをやりなさい」と言われてきました。「やりたいことをやってみなさい」って。勉強しなさいとか、この進路に進みなさいとか、口出しされたことはありません。

でも、唯一反対されたのが、投資業務に関わると伝えたときだったんです。「投資は怖い」って心配していましたね。だからこそ自分が両親の投資のイメージを変えようって、逆にやりがいも感じたんですけど。

ともかく、いま思うと親の影響は受けているし、子どもは親の背中をよく見ているものだなと思いますね。“子どもは親の言うとおりにならず、親のするとおりになる”という言葉がありますが、まさにそのとおりです。

   (後編はこちら↓)

プロフィール:

ライター:田中裕子
鹿児島県生まれ。新卒でダイヤモンド社に入社、2年間の書店営業で本を売る現場のあれこれを学び、書籍編集局へ異動。ビジネス書の編集を経験したのち、2014年9月にフリーランスのライター・編集者に転身、書籍の執筆やウェブや雑誌のインタビュー記事などを担当する。現在はライターズカンパニーbatonsに所属。2歳の娘を持つ母。
ウェブサイト: https://tnkyuko.themedia.jp/
Twitter : https://twitter.com/yukotyu
note : https://note.mu/tanakayuko

※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社運用ファンドへの組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

この記事が参加している募集