見出し画像

クイズとはまた違う 商売の難しさ/『エコノミクス甲子園』イベントレポート(後編)

レオス・キャピタルワークスがスポンサーをつとめた『エコノミクス甲子園』。金融経済に関する知識を問う高校対抗の全国クイズ大会です。2020年大会からは、クイズに加えて模擬ビジネスで業績を競う体験型プログラムも評価対象になり、これまでとは違った盛り上がりを見せました。

前編では、ベンチャーキャピタリスト役の私たちから見事、出資を獲得した高校生。後編では、その資金をもとに、いよいよ模擬店を開いて10のチームが業績を競います。前編に引き続き、レオス・キャピタルワークスの大酒がレポートします。

    前編はこちら↓ 

(2020年2月8日・国立オリンピック記念青少年総合センター)


コスト削減のため徒歩で仕入れ

私が“投資家”として1万4000円を出資した「株式会社ディスペルシオーネ珈琲」。スティック型のインスタントコーヒー12本セットを売る会社です。12本は全て違う味。確かにスティックコーヒーは12本入りや、20本入りで市販されていますが、すべて同じ味か、4種類くらい異なる味が入っているだけです。これをバラバラにして12種類の違う味を袋詰めし直し、飲み比べできるようにするわけです。

ランチの後、買い出し班が出かけていきました。電車で新宿などに買い出しに行くチームが多いようですが、ディスぺルシオーネ珈琲はコスト削減のため徒歩で買い物に行くとのこと。会場の国立オリンピック記念青少年総合センター(渋谷区)の周りにはあまり商業施設がなく、少し不安です。

模擬店の設営班は、ポスターなどの作成に取りかかります。10チームが同時に準備を進めるため、会場は熱気があふれていました。どうすれば商品の魅力が伝わるポスターになるのか。議論しつつ作業が進みます。各都道府県の46代表が混成で10チームになっているのですが、聞いてみると、当日の早朝にチームメンバーが発表されたとのこと。初対面とは思えない連携ぶりでした。

甲子園②
甲子園③

各チームには財務経理部長役の高校生がいて、複式簿記で記録し、模擬店終了後に決算にまとめます。事務局からマジックや机が貸し出されますが、これにも費用がかかります。中には費用を節約するため、自ら机になる高校生もいました(!)

甲子園④

帰ってこない買い出し班!? 計算ミスも発生

各チーム、買い出し班が大きな荷物を下げて続々と帰ってきました。「駄菓子詰め放題」を模擬店で提供するチームは、「キャベツ太郎」「うまい棒」など懐かしい駄菓子を机に広げています。袋に駄菓子を詰め込み放題で300円。「時間的にお腹も空くし、ちょっと食べたいという分かりやすいニーズを捉えているよね。この店はよく売れると思うよ」と、当社運用本部長の湯浅が感心しています。

ところが、私の出資したディスぺルシオーネ珈琲の買い出し班が一向に帰ってきません。12本のスティックを袋詰めしたものを60セット作る必要があるから、それなりに時間がかかりそうな作業だと思うのですが……。

「大丈夫。まだあと2時間あるから」

高校生は声を掛け合いますが、少し不安そうです。

ようやく帰ってきたのは模擬店開始の1時間前。往復で5㎞くらい歩いたのだそうです。ここから総出で作業に取り掛かります。しかし、不穏な空気。何度もスマートフォンの電卓で計算し、チームで相談しています。12種類のセットを60個つくる組み合わせの関係上、数が合わないことが判明したのです。

甲子園⑤

市販されている商品には、コーヒースティックが20本入っているもの、12本入っているもの、すべて同じ種類のもの、複数種類入っているものと、様々です。これをバラバラにして、12本12種類のセットをぴったり作るのは案外難しい。買い出しに行く店にどんな商品があるか分からないから、事前に計算しておくことができません。

「すみません、計画変更です」

投資家役の私のところに、事業計画の変更を届け出てきました。ビジネスは思い通りいかないものですね。

販売タイムスタート!

模擬店が開店すると、個別にお客さんを捕まえて売り込んだり、チラシを配ったり、とあの手この手で商品を売り回ります。クイズとはまた違った商売の難しさを感じているようです。

そんな中、さっそく完売を達成したのは、「手作りホットケーキセット」のチーム。ホットケーキの材料とチョコレートをセットにして紙の手提げ袋に入れて販売しました。これを褒めたのは当社社長の藤野です。

「お客さんは、中身よりもむしろ手提げ袋を買ったんだよ」

なるほど、ほかの模擬店で買ったものを手提げ袋に入れて持って帰りたいという心理をとらえた巧妙な作戦なのです。

ビジネスは、社会にある『穴』を見つけて埋めること。袋がないと不便だという穴を見つけたという意味で、ビジネスの本質をついている」

かばんに入っていると便利なグッズをセットにして販売するチームも健闘。その秘密はマスクでした。新型コロナウイルスの感染拡大で、街の小売店ではマスクは品薄状態。どこから仕入れてきたのか、マスクをセットに加えることで商品の魅力を高めました。「良くも悪くも大人に遜色ない発想でモノを売ろうとする逞しい商魂」と、藤野も舌を巻いていました。

結果発表!強気の価格戦略が決め手

終了直前、ディスぺルシオーネ珈琲のメンバーから拍手が沸き起こりました。全部売り切ったようです。無事、利益を出すことができました。

売上高 1万8050円
コスト 1万1739円
純利益   6311円

投資家が出資した1万4000円を元手にして、高校生は見事6000円強の利益を出すことができました。投資は大成功です。

高校生がまとめた決算短信には、業績について説明がありました。

仕入れ時の連絡ミスにより、販売個数が変わってしまった。販売時間後半、競争相手の巧妙な価格戦略により、残金を使い切ろうとする客を奪われ、販売に苦労したが何とか売り切ることができ、在庫を抱えて損失を出すことを防いだ。

他のチームも経営分析をきちんとしています。

「広告宣伝費が当初の想定より高くなった。広告のためメガホンを購入したが、他のチームも広告に力を入れていて効果が薄まった」

「お客さん1人にかける時間を短くすると、もっと多くのお客さんに買ってもらうことができた」

「思ったより早く売り切れたため、もっと仕入れておくべきだった」

ちなみに、最も利益を出したチームは、「スマートフォンとイヤホンのお掃除セット」を売ったチーム。除菌用ウエットティッシュなどが入っていて、このチームも新型コロナウイルスの感染拡大を意識したビジネスです。売上高1万4000円に対し、9000円超の純利益をたたき出しました。「原価率を低く抑えられた」と経営陣。強気の価格戦略が奏功したようです。

仕事って、商売って、楽しい!

講評と基調講演に登壇したレオス社長の藤野。冒頭、高校生にこう問いかけました。

「楽しかった?」

9割以上の高校生が手を挙げていました。日本では、大人の過半数が「仕事が面白くない」と感じているという調査もあります。でも、ここでは9割の高校生が楽しいと感じました。それは、自分で決めたことを実行しているからではないでしょうか。

甲子園藤野さん登壇

「それこそが起業の面白さです」と藤野。「楽しいと思う気持ちを大切にして、楽しい仕事を見つけてほしい」と高校生にメッセージを送りました。

甲子園勝者2

そして、翌日が『エコノミクス甲子園』の本編となるクイズ決勝戦。見事優勝したのは大阪の名門公立高校、北野高校でした。

ちなみに北野高校のチームは、前日の模擬店ではスマートフォンの操作に使えるタッチペンを販売していました。スマートフォンに繋げられるよう、ホルダーを取り付けた商品で、2500円の純利益を上げていました。

クイズと模擬店。頭の異なる部分を使った、濃い2日間だったのではないでしょうか。

参加した高校生の皆さん、お疲れさまでした!

※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社運用ファンドへの組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。


この記事が参加している募集