「この指とまれ!」の10歳師匠から得た気づき レオス栗岡大介が子どもに伝えたいこと(後編)
レオス・キャピタルワークスのメンバーが考える「子どものお金の教育」について、ライターの田中裕子さんが根ほり葉ほり尋ねていく本連載。
今回登場したのは運用部・栗岡大介です。前編では子ども向けワークショップを通じて伝えたかったこと、子どもたちから得た気づきについてお話ししました。後編は、子どもの遊ぶ力からの学びについて語っています。
前編はこちら↓
今回の話し手:栗岡大介
高校3年の時にバッファロー牧場へ1年間ホームステイしたことをきっかけに、ニューヨーク州立大学へ。在学中は、韓国やドミニカ共和国への留学も経験したほか、 内閣府主催の国際交流イベントのコーディネーターも務める。卒業後は岡三証券に入社。機関投資家向け営業でトップセールスに。
2013年3月にレオス・キャピタルワークスに入社、アナリストとして運用部に配属。強みは足を使ったリサーチのほか、日常の変化をマーケットに落とし込むこと。また、両親が画家ということもあり写真、絵を描くこと、料理、陶芸など趣味は多岐にわたる。
聞き手:田中裕子
ライター。2歳の娘を持つ母、ビジネス系出版社出身だが、お金についてはどうもフワフワしている。
子どものように生きるための研究
——前編では、「これからの社会ではおとなが子どもから学ぶことが大切」「おとなも夢をたくさん持つ」といったお話をしていただきました。子どもから毎日ダイレクトに学べるのは、子育ての醍醐味のひとつかもしれませんね。
そのとおりだと思います。さらにもうひとつ、子どもの「遊ぶ力」からも学べるものがあるんですよ。
子どもを見ていると、ほんとうに遊ぶ力に満ちていますよね。家の中、公園、空き地……どこでも遊び場にするし、遊びを発明するし、そこにいる人を誘うし。つまり「何もないところにプロジェクトを生み出し、仲間を集める力」があるんです。
それで、この子どもの力について研究しているのが、MIT(マサチューセッツ州工科大学)メディアラボの「ライフロング・キンダーガーテン」というグループです。
ライフロングは「生涯」、キンダーガーテンは「幼稚園」。つまり、一生涯子どものようにクリエイティブに生きるにはどうすればいいかを、ひたすら調べ、考えている組織です。
そんな彼らが創造的思考力を育てる原則として導き出したのが、「4つのP」——「Project(プロジェクト)」「Passion(情熱)」「Peers(仲間)」「Play(遊び)」です。「やりたいことをプロジェクト化し、情熱を持って取り組み、仲間を集め、想像と工夫を重ねること」で、子どものような創造性を育むことができるのだ、と。
——「4つのP」、子どもの遊び方そのものですね。
そうなんです。さらに視点を変えるとこの「4つのP」、起業家そのものだと思いませんか? なにもない状態で、「あそこに行きたいから一緒にやろうぜ。この指とまれ!」と仲間を募る。端から見ると大変なことも、彼らにとっては遊びでしかない。
言ってしまえば、起業家が「こんな社会をつくりたい!」と情熱を持つのと、子どもが「あのおもちゃがほしい!」と泣きべそをかくのは、同じことなんですね。
自分のエネルギーを投資して得られるリターンとは
——栗岡さんは投資する会社を見つけてくるアナリストですから、毎日のように起業家や社長から「この指止まれ!」と言われているわけですよね。「こんなことがしたいから、投資してよ」って。
おっしゃるとおり、日々だれかが情熱を持って「この指止まれ!」と会いに来てくれます。株は英語で「share」ですが、まさにプロジェクトを共有することで未来のイノベーターを応援できるわけですから、こんなに楽しい仕事はありませんね。
一般的に投資活動というと、お金を出して増えた分のリターンを得るイメージが強いかもしれませんが、決してそれだけではないんです。突き詰めると、「よく生きること」自体が投資活動になりますから。
——どういうことでしょう?
いま、僕は多少のお金と24時間という時間、体力、あと燃やすことができるエネルギーを持っています。そしてこれらを全力で、自分が応援したい人や成し遂げたいものに投じている。それに対してポジティブな反応があったとき、リターンを感じられる。僕にとってはこれこそが「投資」です。
この取材だってそうです。僕が田中さんに時間やエネルギーを投じて一生懸命お話しすることで、できあがった記事を読んだ人が元気になったり、世の中が少しでもよくなったりしたら、金銭でははかれない大きなリターンを得られたことになるんですよ。
——ああ、なるほど。
だれかの喜びや幸福感は、お金よりもはるかに大きいリターンです。このポジティブの連鎖がいい経済、社会をつくると、僕は信じています。
10歳のS君が、僕の師匠
——前編でお話しされていた子ども向けワークショップを開催されたのも、そのポジティブな連鎖をつくるためだったのでしょうか?
そうです。企画のきっかけは、レオス社員の友人の10歳になる息子さん・S君が、株に興味を持ったことでした。親御さんに「ある程度は質問に答えたけれど自信がない」と社員が言われ、ひとまずレオス代表・藤野の『いい会社を見極める株式投資入門』を渡したところ、S君はなんとその日のうちに読破。
それでもまだ知りたいことがあるということで、僕が直接会いに行き、さらに踏み込んだところを説明したんです。
——わざわざ会いに行ったんですか!
ご両親は「ほんとうにアナリストが来た……」と、ちょっと引いていましたが(笑)。とはいえ、僕自身は「教えてやろう」なんてつもりはなくて、ただ子どもに学びたかったんですよ。ここまでお話ししたとおり、子どものほうが優れているのは明白ですからね。S君は人生においても投資においても師匠なので、「S先生」と呼んでいます。
——10歳のお師匠(笑)。でも、小学生に本格的な投資の話をして伝わるものなんですか?
伝わるどころじゃないですよ! 「会社は人でできている」と言えば「じゃあ投資って人を応援することなんだね」と返ってきたり、逆に僕が「ロボットが仕事をしてくれる時代にどんな会社に投資すればいいか」と聞けば、「まずはロボットの会社をよく調べて、あとは、それって楽しいことかをよく考える」と返してきたり。本質をとらえているんです。
これ、「AIによって最適化された社会で人間が楽しく、よりよく生きるためにはどうするべきか」という、社会が抱えている問いそのものですよね。
——わ、ほんとうだ。すごい……!
でしょう? 子どもはナチュラルにそういう発想ができるんです。それで、こうした視点を持つ子どもたちと親御さんに向けてなにかできないかとスタートしたのが、あのレオスで開催したワークショップだったというわけです。
じつはこのS君、彼はいま「やりたいこと」のひとつとして、本屋をはじめました。リアルな本屋で棚ひとつ分の店主になれるサービスを使い、「こども本屋」を運営しているんです。
親や僕を巻き込んで仲間にして、いままでにない書店を立ち上げて、自分でスリップ(しおりのように挟んである注文カード)やPOPを作って……もう、立派な学生起業家ですよ。
——おお、もう「仕事」をはじめているんですね!
ちなみに彼のお父さんは図工の先生なのですが、書店のためにnoteやTwitterをはじめたり、S君に触発されてもっとクリエイティブな授業を作ろうとチャレンジしたりしているそうです。親子間でも、ポジティブな連鎖が生まれていますよね。
おとなは「幼児進行」しよう
——最後に、この連載を読んでくださっている親御さんに伝えたいことはありますか?
子どもはほんとうに優れた存在ですが、やりたいことのない親の背中を見て育った子どもは、いずれ同じような「おとな」になる可能性が高いでしょう。ですからまずは、大人たち自分自身が夢をたくさん持ってその実現に向かってみてほしいですね。
子どもに対しては……とにかく「子どものままでいてください」です(笑)。たくさんのやりたいことを見つけて、たくさんチャレンジして、たくさん失敗してほしい。
——おとなも幼児退行して、「あれもこれも」と手を出していかないと、ですね。
幼児退行ではなく幼児進行、ですよ! 進化して、才能を拡張することができるんですから。
僕も「4つのP」をどんどん回して、おとなになってしまわないように気をつけます。「くりや」にもぜひ、遊びにきてくださいね。
——はい、ありがとうございました!
プロフィール:
ライター:田中裕子
鹿児島県生まれ。新卒でダイヤモンド社に入社、2年間の書店営業で本を売る現場のあれこれを学び、書籍編集局へ異動。ビジネス書の編集を経験したのち、2014年9月にフリーランスのライター・編集者に転身、書籍の執筆やウェブや雑誌のインタビュー記事などを担当する。現在はライターズカンパニーbatonsに所属。2歳の娘を持つ母。
ウェブサイト: https://tnkyuko.themedia.jp/
Twitter : https://twitter.com/yukotyu
note : https://note.mu/tanakayuko
※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社運用ファンドへの組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。