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父から学んだお金と社会とのつながり レオス渡邉庄太が子どもに伝えたいこと(後編)

レオス・キャピタルワークスのメンバーが考える「子どものお金の教育」について、ライターの田中裕子さんが根ほり葉ほり尋ねていく本連載。

今回登場したのは運用部・渡邉庄太です。前編では「お金の教育」にこだわってきた背景についてお話ししました。後編は、自身の生い立ちにある想いの原点と、具体的なお金の教育の第一歩について語っています。

               * * *

今回の話し手:渡邉庄太
レオス・キャピタルワークス 運用部長。1997年、大和証券投資信託委託入社。アナリスト、ファンドマネージャーとして日本株運用を担当。2003年よりダイワSMAのプロジェクト立上げに参画後、同部門で日本中小型成長株の運用も担当。
2006年、レオス・キャピタルワークス入社。2015年、レオス運用部の運用部長に就任。お金の教育に対しては人一倍思い入れが深い。
聞き手:田中裕子
ライター。2歳の娘を持つ母、ビジネス系出版社出身だが、お金についてはどうもフワフワしている。


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親が経営者だと、子どもはどう育つのか

——ところで渡邊さんは前編で、「大学生のころ、これからの日本はお金にはたらいてもらうべきだと考えていた」とおっしゃっていました。いくら経済学部とはいえ、そんなふうに社会全体に考えが及ぶ大学生ってなかなかいないと思うのですが……

うーん、それは親が経営者だったからかもしれません。父親が作った会社で、母親が経理担当の小さな会社ですが、お金について人より考える機会が多かったんでしょうね。記憶を辿ると、小学校に上がったころにはすでにお小遣いをもらっていて、お小遣い帳をつけさせられていましたし。

あとは、夜中に酔っ払った父が取引先の人を家に連れて来て「ごあいさつしなさい」と起こされることも何度かありました。当時はイヤでしたが(笑)、お金を得る大変さや責任はなんとなく感じていました。

——経営者の子どもならではの試練ですね(笑)。でもたしかに、サラリーマン家庭とは違う学びがありそうです。

そうですね。私は最近十年以内の新規上場した企業の社長にはほとんどお会いしていますが、バックグラウンドを伺うと「親が商売人だった」方がとても多いです。

おそらく、経済活動に対しての心理的なハードルが低いのでしょう。自分で仕事をつくり、業を興し、責任を持つことを当たり前だと思える。稼ぐことをポジティブに捉えられる。

——なるほど。だからこそ渡邊さんも経営者意識を持って、日本経済や社会について考えられたんですね。

いやいや、そんな立派なものではないですけどね。そもそも父は、ほんとうは学校の先生になりたかったと聞いています。でも、満州でビジネスをしていた祖父が、敗戦で身ぐるみひっぱがされてしまって。とにかく家にお金がなくて、父は大学に進学できなかったんです。それで、高卒でサラリーマンになってもたいして稼げないからと、食べていくために仕方なく会社を興したそうです。

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——野心を持って社長になったわけではなく、あくまで生活のために起業したと。

ええ。だから、私には「学者になれ」などと言っていたこともあります。やっぱり自営業は大変なことも多かったんでしょう、3〜4歳ごろから「会社は継がせない」「やりたいことをやりなさい」と言われていましたから。

当時は「会社を継がせてくれないってことは、ぼくのこと嫌いなのかな?」と不安になっていましたが(笑)、きっと父なりの愛情ですね。「豊かな人生を送ってほしい、金のために生きるんじゃないぞ」って。

ちなみに私が金融の道に進みたいと伝えたときは、「いいんじゃないか。ただ、いち売り子で終わるのもちょっとさみしいな」と言っていました。それが投資信託の運用会社に内定をもらったと言ったら、「それはいい、これからの時代におもしろいんじゃないか」と。

——へええ! そんなふうに言えるお父さん、なかなかいないと思います。事業のすべてに責任を持っている経営者だからこそ、世の中の動きにも敏感なんですね。

でも、親が経営者じゃないとダメかというと、決してそういうわけじゃありません。経営者でもサラリーマンでも、仕事に誇りを持っていれば、子どもは稼ぐことに対してネガティブな思いは抱かないはずですから。

「お父さん、給料が上がったんだよ」「こんな仕事をして、こういう人に喜んでもらえたら、これだけ評価されたよ」と家で発表するのも素敵じゃないですか。子どもも素直に「すごい!」と盛り上がってくれると思いますよ。


お手伝い、タダ働きでいい?

——では具体的に、家庭ではどのような金融教育をすればいいのでしょうか。

藤野も言っていたとおり、だれかになにかをしてあげると対価として「ありがとう」がもらえると実感させるところからですよね。それがファーストステージ。

で、次がお手伝い(労働)に対してお小遣いを渡すことで「相手に喜んでもらうと、お金で対価を得られるよ」と伝えることではないでしょうか。

——うーん、「子どものお手伝いにお駄賃を払うと金目当てになってしまう」と、あまりいいイメージを持たない人も少なくありません。

それは無意識に「お金は汚いもの、冷たいもの」と思っているからでしょう。そこに関しては、大人が考えを変えなければなりません。

たとえば世界的な投資家ウォーレン・バフェットは、6歳から商売をしていたという有名な話がありますよね。祖父から6本25セントで仕入れたコカ・コーラを、1本5セントで工場労働者などに売っていたと。

彼は、いますぐ冷えたコーラを飲みたい人は、多少高くても買ってくれるだろうと考えて値付けしたわけです。そして実際、工場労働者の「ありがとう」が利益としてバフェットに手渡された。こんなにいい体験はないですよ。

——たしかに、なにも悪いことはしていないですもんね。

ええ。バフェットしかり、海外の偉人たちって、幼少期からちょっとしたお手伝いやアルバイトで稼ぐ経験をしている人が多いんですよ。「経済取引はいいことなんだ」とポジティブな原体験を与えるのが、親が与えることのできる大切な金融教育ではないでしょうか。

——なるほど。「貢献の気持ちが大事だからタダ働きがいい」は親の偏見で、間違っている気がしてきました……

そうそう、住友グループの第二代総理事で大番頭・伊庭貞剛さんをご存知でしょうか。非常に人格者で、さまざまな誉れ高い功績を残している人物です。そんな彼は、江戸時代の禅師が遺した「君子財を愛す これを取るに道あり」という言葉を大切にしていました。

立派な人物は財を愛するもので、お金儲けはすばらしいことだ。けれど、そのために人の道に反してはならないし、儲かったお金はちゃんと使わなければならない——。

「まっとうな道で大いに稼ぎ、使おう」。子どもたちにそう伝えたいですね。


「子育てとは、税金を納める人を育てることである」?

ある育児関連書籍を読んでいたときにハッとさせられたのが、日本保育士連合会のトップの方の、「私たち保育士の使命は、子供が大人になったとき、きちんと税金を払える人間に育てること」というコメントでした。

——税金を払う人を育てる、ですか……? 

一瞬「え?」と思いますよね。でも、「税金を払える人」とは「社会に所属・関与できる人」を端的にあらわした言葉なんですよ。私はこれを読んだとき、すっと腑に落ちました。

たとえば英語教育や右脳開発など、個々のスキルを伸ばすことは子育ての本質ではないと私は思います。より大切なのは、一人で生きていける力を養うこと——つまり自立して、仕事でだれかに貢献して、その対価としてお金を受けとって、納税で社会に貢献する人間を育てることです。これがシンプルに、子育ての本質ではないでしょうか。

——正直、「子育て」を定義から考えたことはありませんでした。たしかにおっしゃるとおりですね。

子ども自身が社会への貢献感を持って幸せに暮らすこと。お金や時間を投資して、新しいことにチャレンジすること。どちらも目指せるのが、お金に関する教育です。これからの社会を生きるうえで、お金の教育は欠かせないと思いますよ。

急かすわけではありませんが、子どもが保守的になる前に「お金の早期教育」に取り組んではいかがでしょうか。

——お金の教育について、視野がグッと広がった気がします。ありがとうございました!

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  プロフィール:

ライター:田中裕子
鹿児島県生まれ。新卒でダイヤモンド社に入社、2年間の書店営業で本を売る現場のあれこれを学び、書籍編集局へ異動。ビジネス書の編集を経験したのち、2014年9月にフリーランスのライター・編集者に転身、書籍の執筆やウェブや雑誌のインタビュー記事などを担当する。現在はライターズカンパニーbatonsに所属。2歳の娘を持つ母。
ウェブサイト: https://tnkyuko.themedia.jp/
Twitter : https://twitter.com/yukotyu
note : https://note.mu/tanakayuko

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