【舞台裏レポート④】名古屋で見た叡王の意地
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【舞台裏レポート④】名古屋で見た叡王の意地

こんにちは。ひふみラボ編集部です。

レオス(ひふみ)が特別協賛をつとめる将棋界8大タイトルの一つ「第6期叡王戦」も、いよいよ佳境を迎えました。
防衛を図る豊島将之叡王に対し、挑戦者の藤井聡太王位・棋聖がここまで2勝1敗としています。

藤井二冠が「叡王」獲得に王手をかけ、豊島叡王がカド番となって臨む第4局は8月22日(日)、舞台は名古屋東急ホテル。前局に続き、両雄の地元・愛知での決戦です。

今回はレオス将棋部から経済調査室・橋本がレポートします。

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決戦前夜

私は今回のタイトル戦に非常に注目していました。その理由は、稀代の天才・藤井聡太二冠が棋界で最も苦手とする相手が、豊島将之叡王だからです。

藤井二冠は史上最年少14歳2ヶ月でのプロ入り後、無敗で公式戦29連勝(最多連勝記録)を達成し、またこれまでの通算勝率は0.8422としています(2021年8月21日対局分まで。参考:タイトル獲得99期の羽生善治九段は0.7001、現役最強と目される渡辺明名人は0.6631)。

天才たちの中にあってもさらに一段階上の天才ともいえる藤井二冠が、なぜかこれまで勝てなかったのが豊島叡王でした。
プロ入り後、豊島叡王には6連敗を喫するなど、素人目には天敵と見えていました。

ところが、今年に入り、二人の対戦成績は藤井二冠6勝・豊島叡王2勝。
徐々に藤井二冠が勝ち始め、直近の対局も連勝してこの第4局に臨む勢いからは、豊島叡王に対する苦手意識を克服したように見えました。反対に豊島叡王の方が藤井二冠に苦手意識を持ち始めたようにも見受けられ、対局前日の空気感としては、藤井二冠優勢、このまま三冠達成、といった雰囲気があったように思います。

前夜祭に代わって開かれた関係者会での、豊島叡王の挨拶にもそのようなニュアンスがうかがえました。

豊島叡王:
「(直近の対藤井戦では負け将棋が重なり)苦しい成績になってしまいましたが、最終局まで望みを繋げるよう、明日は頑張っていきたいと思います。」

叡王自身もやはり、若干ながら厳しいと思っているのかなと、多くの出席者は感じたのではないでしょうか。

しかし、その柔和な口調とは裏腹に、叡王の心の底では、相当な負けん気と、周到な藤井対策を早く試したいという強い意志があったであろうことに、そのときは気がつきませんでした。

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対局前夜、関係者会で挨拶する豊島叡王

スキのない研究

将棋でいう研究とは、ある局面でどのような指し手があるか、その手が善いか悪いかなどを、対局の前段階から考えておくことです。

現代では将棋ソフトを使って研究するのが一般的です。
では同じような最新鋭のソフトを、同じような天才たちが使って、いったい何が勝負を分けるのでしょうか?

前夜の会から当日の控室まで長時間共にした、タイトル経験者でもありユーモア溢れる解説も人気の木村一基九段に聞いてみました。

木村九段:
「ソフトを使って検討すると、いずれは一つの手に行きつくんです。
ですが、それでは相手と差がつきません。ということで、みんな少し変化をつけます。

相手の意表を突くように、少し脇道にそれるんですね。
こちらが変化すると、相手も応じて別の手を指してきます。またこちらも別の手を…と、どんどん分岐が増えていく。で、それが善い手かどうか、一つ一つ検討するわけです。

この変化や分岐のパターンをより多く持って対局に向かう方が有利になる、という感じですね。」

指し手の選択肢に関して、事前に多くの派生パターンをインプットできたり、当日向き合う局面で上手にアウトプットできたり、そういった能力でもまた差がつくそうです。

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藤野と木村九段

将棋の場合、対局に勝つには、

① 自分の棋力を向上させる
② 相手に合わせた対策を練る

の2つがあると思います。
ズバリ本局は、豊島叡王の研究、特に②藤井二冠対策がハマったようでした。

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開始15分前、席に着いた両者。なんとも言えない緊張感が対局室を包みました。

豊島叡王の先手で始まった対局は、序盤から持ち時間の消費スピードに差が開きました。

36手経過時…豊島叡王・消費時間16分、藤井二冠・消費時間1時間15分
46手経過時…豊島叡王・消費時間22分、藤井二冠・消費時間2時間00分

藤井二冠が時間を使って考慮する場面が多くなる一方、豊島叡王の指し手は非常に早いものでした。相当深いところにまで及ぶ、周到な事前研究がうかがえました。

控室でも豊島叡王が指すたびに「早いねぇ~」とか「こんなところまで研究済みなのか…」といった声があがっていました。

その後も中盤~終盤へと、豊島叡王が優勢をじわじわと拡大していく展開です。
藤井二冠優勢の方向に傾きかけることはほとんどなく、まさにスキのない指し回しでした。

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完勝劇に見た豊島叡王の意地

終盤には、藤井二冠がうつむき、頭を抱える時間帯もありました。
ガックリと肩を落とし、万事休す。
豊島叡王の91手目の指し手を見て、藤井二冠の投了となりました。
終始優勢を保ったままでの豊島叡王の勝利。まさに完勝といえるでしょう。

もちろん周到な研究と藤井二冠対策があっての結果ですが、それを実現した豊島叡王の意地のようなものを特に感じました。
対局室での佇まいや、画面越しの対局姿からは、見た目には粛然としつつも、内面には鬼気迫るものがあったように思います。

圧倒的な才能を前にしても、簡単には道を譲らない…。
後がない状況でも、徹底的な事前準備によって乗り越えていく…。

盤上の攻防だけでなく、対局に臨むこうした棋士の姿勢がドラマを生み、またファンを魅きつけるのでしょう。
AI全盛の時代にあっても、やはり見たいのは人間対人間の対局です。
豊島叡王の、スマートさの陰から少し顔を出した泥臭さに、改めて将棋の人間味を感じた一局でした。

いよいよ次局、9月13日(月)、東京・将棋会館での最終第5局にて、第6期叡王が決まります。
皆さんもぜひご注目ください!

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