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3ヶ月で激変した社会 アナリストの視点で見えてきたこと

noteのディレクターをされている平野太一さんによるシリーズ連載です。

レオス・キャピタルワークスのアナリスト 堅田雄太と表参道を歩いた前回。どんな会社が、どんな戦略でビジネスをしているのか? 実際にアナリストの「目のつけどころ」を体験してもらいました。noteの本社にも近く、平野さんにとっては見慣れた街並みのはずの表参道でしたが、さまざまな新しい発見があったようです。

ところが、街歩き取材をした1月末から、かなり状況は変わってしまいました。今回は大きな環境の変化にそれぞれの会社がどのように対応していっているかも踏まえながら、アナリストの堅田と一緒に会社の戦略を深掘りしていきます。

    前回はこちら↓

3ヶ月で激変した社会

前回のnoteで書いたが、アナリスト堅田さんとの1時間の街歩きは、発見の連続だった。

平野さん冒頭

普段何気なく使っているサービスやお店を経営する企業が実は他にもブランドを展開していたことを知って驚いたり、その場で会社のIR(投資家向け広報)ページを検索して会社の戦略を調べてみたり。自分の生活の延長線上にあるすべてのニュースが経済活動にリンクしていることを実感できたことは大きかった。

「企業名+株価」で検索すれば、いつでも簡単に株価チャートで値動きを見ることができるので、「株価」というものも身近に感じられるようになった。自分の好きな会社、調べた会社を株価ボードに入れて俯瞰して見てみると、数時間おきに株価が上下に動いて、まるで生き物のようだ(長期間でゆるやかに変動していくのを見るのも楽しい)。

自分でも株式投資もやってみようかな……と思っていたそんな時、想定外のコロナ禍が襲ってきたのだった。

街歩きの取材に出かけたのが1月末のこと。この頃はまだ外国人観光客で賑わっていたのだが、その後まもなく新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、状況が大きく変化してしまった。

外出自粛の要請もあり、自分も在宅勤務が続いている。ここ1ヶ月近くほとんど外を出歩いていないので表参道の現状はわからないのだが、閑散としていることは間違いないだろう。日本政府観光局が4月15日に発表した2020年3月の訪日外国人数は、前年同月比93%減の19万4000人だった。

少し前の自分だったら、このニュースを聞いても、あまり実感がわかなかったかもしれない。

でも、前回「アナリスト疑似体験をしてみたことで、それぞれの会社がどんな思いで経営をしているのか、思いを馳せることができるようになった気がする」と書いたように、受け止め方が違っている気がする。堅田さんは「自分がこの会社の経営者だったら、どう考える?」とよく尋ねてくれた。自分の仕事も大きく影響を受けているが、どんな会社でもそれぞれに緊急で対応すべきことがあるだろう。

3ヶ月で激変した状況。いろいろ聞きたいことばかりだ。堅田さんにオンラインでインタビューをすることにした。

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堅田さんと編集の坂崎さんと

外出自粛の中でアナリストはどうやって調査する?

平野:いま、ひふみのアナリストの皆さんって、どうやってお仕事されているんですか? 企業の取材とか。

堅田:企業取材はzoomを使ったビデオ会議か電話で行なっていますよ。取材自体に支障はないんですが、よりこちらの「質問力」というか、場の和ませ方とか、テクニックが必要になるかなぁ。その会社がどのくらい在宅勤務に対応しているか、というのは実はチェックポイントにはなっています。

平野:なるほど。前回は自分も一緒に街歩きをしてアナリスト目線を学ばせてもらいましたが、こんな状況では堅田さんはどんなところにアンテナを張っているんですか?

堅田:街に出られないなら出られないなりに、工夫していますよ。交通量のデータやクレジットカードの決済データなどを用いて消費動向の調査をする、とか。

あと、近所のスーパーに買い出しに行ったときは、何から順に売れていっているのかということは気にしています。カップラーメンの棚など、完売になっていることも多かったですが、なかには完売になっていないものもありますよね。「この状況下で売れ残っているということは、お客様に支持されていないということでは?」という仮説を立てて、どうしてこれは売れないんだろうって、あれこれ考えたりしていますね。

平野:それは面白いですね! うちの近所にはスーパーがいくつかあるんで、いつも同じところに行くんじゃなくて比べたりもしてみよう。

スーパーの話といえば、ライフが店舗の従業員に対して「感謝金」を出す、と(4/14に「ライフ」を運営するライフコーポレーションが、パートやアルバイトを含めた全従業員約4万人に総額約3億円の「緊急特別感謝金」を支給すると発表した)。あれは、すごいなと思っていたんです。

堅田:経営者の意識が出ますよね。これから、ステイクホルダー(利害関係者)に対する意識が変わっていくのではないかと思っています。会社は、株主、お客様、従業員、仕入先、販売先、地域社会など、たくさんのステイクホルダーに支えられながら事業を行なっています。それが上場企業の場合、特にここ数年は株主に対する還元を意識した経営が評価されてきたように感じます。これは日本だけではなく、世界中で起きていました。でも、コロナの影響を受けて、この傾向が緩和されるでしょうね。ライフのように、今まで以上に従業員や地域社会への還元を強くする企業が評価されるようになるのではと思っています。

表参道の賑わいをつくっていた外食とアパレルの今

平野:表参道の街歩きで僕たちが注目していたのが、外食とアパレルでしたよね。どのように対応しているんでしょうか。堅田さんから教わった「もし自分が経営者だったらどうするか考える」ということをやってみると、正直、なんだか気が気ではなくなってしまったんですが……。

堅田:まず、外食はここから1〜2年は厳しい業績が続くと思います。コロナが落ち着いたとしても、当面の間はお客様同士の距離をあけた座席配置になるでしょうし、今まで以上に衛生に対する取り組みが重要になってきますね。あとはテイクアウトで対応できる分野はまだしも、居酒屋系は特に厳しいですね。利益をお酒に依存していたところがあると思いますので……。

平野:これを一時的なものとして捉えているところと、決定的な変化と捉えているところで、差が出るのかもしれませんね。

堅田:そうなんです。これを受けて迅速に新業態に取り組む企業も出てきているので、3年から5年くらいの時間軸で考えると大きな転換点となると思いますよ。僕たちとしては、このような取り組み、業態変化をひとつひとつ確認しながら投資判断をしていくことになります。

平野: 僕も堅田さんに教わって「IR情報をチェックする」ということをやってみるようになったんですよ。てんやを経営するロイヤルホールディングス(ロイヤルHD)を調べてみました。

天丼

1月末、賑わっていた「天丼てんや」原宿店の様子

平野:ロイヤルHDは、ロイヤルホストのような外食事業だけでなく、機内食やリッチモンドホテルなどのホテル事業もやっているんですよね。

「統合報告書」の存在も教えてもらいました。これは投資家向けの読みやすいパンフレットみたいなものなんですね。最近、ロイヤルHDは「GATHERING TABLE PANTRY」という完全キャッシュレスのお店をスタートしたそうで、どのようにすれば生産性を向上できるのか、どのようにすればスタッフの負荷を軽減させられるか、という姿勢が見えて面白かったです。

「統合報告書2019」ロイヤルホールディングス株式会社 ↓

https://www.royal-holdings.co.jp/ir/accounts/allmenu.pdf

コロナ関連で直近での取り組みを調べてみると、外食事業はお持ち帰りの拡充、家庭用フローズンミール「ロイヤルデリ」の販売拡大などをやっている、と。あと、リッチモンドホテルが新型コロナウイルスの宿泊療養施設(無症状者・軽症者の受け入れ)に提供するというリリースもありました。

堅田:そうやって、一次情報に当たるのは大事ですよ。ロイヤルHDは事業別売上高だと外食事業が高いですが、利益構成比だとホテル事業の割合が高いんですよ。2019年度のものを見てみると、利益が4割を超えていますよね。つまり、株価を動かしているのはホテル事業だと言えます。

平野:旅行客、出張が全国的に減っている状況ですから、株価はやっぱり下がってしまっていますよね。でも、ずっと下がり続けるかと思うとそうでもないんですね。株価変動を見ていると、なんだかいろんな思惑が感じられます。

堅田:投資の時間軸は投資家によって異なる、というところはポイントですね。半年や1ヶ月の人もいますし、ひふみのように3〜5年スパンで見ているところもあります。それは正しい・正しくないではなく、投資家の考える時間軸の違いなんです。

平野:アパレルはどうでしょうか?

堅田:暖冬に加えてコロナによる店舗の一時閉鎖もあり、こちらも足元は厳しい状況です。コーディネートの相談や試着など、意外と濃厚接触になり得る局面が多いので、コロナが収束したあとでも、今までとやり方を変える必要が出てくるでしょうね。

平野:外に出ないとおしゃれする気もなかなか起きない、というのはありますよね。

堅田:一方、自社ECサイトや店員さんのSNS経由での売上が増えてきているという会社もあるようなんですね。中には店舗で接客していてもなかなか結果を残せなかった定員さんが、SNSを活用することで結果を残せるようになったという話も聞きました。これは外食でも同じことが言えますが、店舗立地の重要性が薄れ、インターネットの活用、SNSを使ったファン施策が今まで以上に重要になってくる時代がすぐそこまで来ているのかもしれませんよ。

平野:いま、個人投資家の皆さんにどんなことをお伝えしたいですか?

堅田:投資の格言に「頭と尻尾はくれてやれ」という言葉があります。最高値や最安値で買おうと思わず、余裕をもって判断することが大事ということです。

株式市場が大きく下がると、そこが最安値だと判断し、手持ち資金をすべて投資したいという気持ちになりますが、そこは一旦冷静になって、企業の変化を丁寧に調べ、結果が出始めててから投資しても遅くないと思いますよ。

短期的には厳しい状況が続きますが、今は社会も企業も大きな転換期を迎えている時期なので、長期的に世の中をいい方向に引っ張っていける企業や経営者に投資をしたいですね。

激動期こそ、アナリスト目線を

今回の堅田さんのインタビューでも、会社を細部まで見て、これからの成長を見極める、アナリストのぶれない姿勢を感じた。常日頃からの訓練の賜物なのだろう。ひふみに投資する1人としても、とても頼もしく思った。

世界的な激動期だからこそ、どう対応するかで差がわかれる。自分もアナリストの視点を少しでも持てるようになりたい。

個別株式への投資やひふみ以外のアクティブファンドへの投資は先のことになりそう(基本はiDeCoとつみたてNISAのみ)だが、もし応援したい会社を見つけたときには、長期的な目線を持って投資をしてみようと思う。

プロフィール:

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ライター:平野太一
1991年静岡県生まれ。関西大学経済学部卒業。2013年10月よりWantedly, Inc.に入社。CSを経て、募集要項の作成・取材・ウェブメディア「WANTEDLY JOURNAL」の執筆・撮影などを担当。2016年1月よりBAKE Inc.に入社。ウェブマガジン「CAKE.TOKYO」の編集・執筆・撮影を担当。BAKE CHEESE TARTのSNS・LINE@運用、リーフレットの撮影などを担当中。2018年10月より、Piece of cake, Inc.にnoteのディレクターとして入社。クリエイターガイドやイベント企画、クリエイターサポートなど、全方位で担当中。
Twitter : https://twitter.com/yriica
note : https://note.mu/yriica

※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社運用ファンドへの組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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