心地よい未来のために、投資を通じてできること
投資家でバンドマンのヤマザキOKコンピュータさん(ヤマコンさん)の連載もいよいよ今回が最終回です。
ヤマコンさんが考える、金銭面だけではない「投資」の側面と心地よい未来に近づく方法について語っていただきました!
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幼少期、ヒーローやスポーツ選手に興味が湧かなかった私が、生まれてはじめて「なりたい」と思ったのは自動販売機だった。
しかし、私の通っていた幼稚園で配られたアンケート用紙では将来の夢が選択制で、夢を自由に記入できる欄はない。
サッカー選手・消防士・警察官などのかわいい線画に色を塗る形でしか選べない。もちろん自動販売機の選択肢はないし、第2志望の自動販売機職人もない。百歩ゆずって清涼飲料メーカーの社員や販売員でも構わないが、それすらない。
私が消去法で選び出したのは、宇宙飛行士だった。
「将来の夢」と言えばいつだって職業のことで、しかもそのあとには「努力すれば夢は叶う」と続く。多様性が好まれる昨今においても、こうして既存の型にはめられそうになる機会は多い。他の選択肢は無い物のように扱われたり、「志が低い」などという理由で却下されることもある。
また、夢が叶わないときは自分の努力が足りなかったことにされてしまう。質問者本人にそのような意図はないにしろ、社会に出るまで幾度となく聞かれ続ける「将来の夢」というやつはある程度の強制力を有しており、無用な劣等感や上下関係を生んでいる。
私はいまのところ自動販売機にもなっていないし、宇宙飛行士とも無縁の生活を送っているが、様々な物や人や概念に出会えたことで、日々楽しく暮らしている。すでにいくつかの夢が叶った状態であるが、この夢たちはどれも塗り絵で表現できるものではないし、文字にしたら小さな枠では収まりきらないくらい多様で複雑なものである。
私の人生においては職業や役職はさして重要ではない。いま目指している夢も職業ではない。より心地よい未来である。
そこで重視されるのは、自炊したいときに自炊したり、遊びたいときに遊んだり、体調の悪い日は何もしなくて良いくらいの時間的・精神的余裕と、その持続性だ。未来や社会に対して希望を持って生きられることも重要で、こちらはまだ遠い道のりではあるが、同じような気持ちの人と情報を交換したり、行動を起こしたりしながら楽しく進めている。
"成功者"と"高所得者"がイコールで結ばれる時代において私のような者は志の低い人間にうつるかもしれないが、実際にやってみると、これはこれで難しい。
投資は悪いイメージを持たれがちである
社会に出て割とすぐに、お付き合いしていた方から「ヤマザピとの将来が見えない」と言われてしまった。当時の私はライブハウスでのアルバイトとバンド活動を並行しつつ、貯めたお金の大半を投資信託に変えていた。
いま思えば、当時の資産バランスは日本国内に偏っていたし、余計な税金も支払っていたとはいえ、人生を楽しみながら好きな文化も守りつつ資産形成にも挑戦して、我ながら「なかなか有望な若者じゃないか。感心感心!」と思う。
しかしながら、フリーター・バンドマン・投資、どれをとっても世間からのイメージが最悪であることも承知している。
いわゆる"付き合っちゃいけない3B(バーテン・バンドマン・美容師)"のうち、ライブハウスのバーテンとバンドマンで2ポイントクリアしているし、投資家のイメージは恐らく美容師よりも悪い。共に歩く将来を見ようとしてくれただけでもありがたい。女神である。
一般的に、投資は「ずるくて労働意欲のない汚れた大人がやる危険なギャンブルだ」と思われることが多い。実際に、それに近い物も存在している。
小中高と欠かさず学校に行ったとしても投資やお金に関する教育はほとんど皆無であるからして、そのまま社会に出た人が詐欺まがいの投資案件と実用的な資産運用との区別がつかないのも当然かもしれない。
投資と資産運用に期待すること
しかし資産運用によって得られる「リターン」は、私たちの生きる未来において、重要な役割を果たしてくれる可能性がある。
金融投資で見込めるリターンは、大きく分けて2つ。
1.社会的リターン
投資した資産が社会問題などの解決に役立つことで、暮らしが良くなる。
2.経済的リターン
投資対象の価額変動や付属する金利によって、利益が出る。
好きな企業や応援したい企業の株を買って長期保有したり、多少値段が高くても社会的に好ましい商品を買ったりすることで、社会が自分好みに変わっていく可能性。これが社会的リターンである。
それに対し、純粋に資産価値が増えていくことや、分散投資によって金融危機が起きても自分の資産が減りにくくなったりすることは、経済的リターンに分類される。
株式や投資信託といった価格変動型金融商品はわかりやすく損益が出るのでリスクが見えやすい一方、銀行預金は価値の増減が見えにくいために安全なものに見える。しかし実際には銀行預金はインフレに弱く、デフォルトや破綻のリスクもないわけではない。
金融商品ごとに対応できるリスクが違うので、私などは複数の金融商品を組み合わせて国内のインフレや経済危機にもそれなりに耐えられるであろう資産を想像して組み立てたりしている(資産運用)。
資産運用においては、コストの削減と分散性が重視される。
このあたりは私よりも圧倒的に勉強熱心かつ優秀な投資家たちによって言い尽くされているので、当連載では投資のもう一つの側面である社会的リターン、つまりお金の持ち方やエネルギーの傾け方によって社会に及ぼすことのできる力を中心に扱ってきた。
これらの力を放棄することは、私たちの未来を望まぬ形に近付けることに繋がってしまう。
最近は、生態系を壊しにくい製法で作られた食品や、資源の有限性に配慮した家具や日用品などを選べる機会が増えた。増えたといっても、恐らく全体の1%にも満たないような割合であるが、全くないよりは良い。中古品に価値を見出したり、道具を長く使う方法を研究したり、様々な角度から次の生活を模索している人たちもいる。
私たちミレニアルと呼ばれる世代は、選挙での経験や、有事の対応を肌で感じてきたことから、政治に対する一定の絶望感を持っている人が多い。その上で自分のお金の使い方や持ち方によって社会に1票を投じられる力、いわゆるコンシューマーアクティビズムのほうに意識が向いているというのは、前回のコラムで述べた。
とはいえ、巨大企業の経営者や、よほど影響力を持った人でもない限り、アクティビズムに使えるお金やエネルギーには限界がある。円にして17京以上の資産が存在すると言われるこの世界で、私の資産価値など本当に微々たるものだ。
しかし、この連載で繰り返しお伝えしてきたように、我々は全くの無力というわけではない。
私たちが心地よい未来のためにできること
「社会」と言っても、常に全世界を指すとは限らない。日常的に関わる狭い範囲も十分に「社会」であり、捉えるサイズによっては、私たちは社会に対して十分な影響力を持っている。世界がこの小さな社会の複合体にすぎないとしたら、私たちが考えることや実践することは何ら無駄ではない。
様々な天災や人災を経て、これまでの暮らし方の脆弱性に意識が向いた人たちは我々が生まれるよりもずっと前から新しい暮らし方を模索しており、現代でも様々な仕組みや考え方が世界各地で顕現している。
緑の政治
経済成長よりも、社会的に公正で持続可能な社会の実現を優先する政治的な姿勢。
グリーン・ニューディール
環境問題と経済格差を同時に解決しようとする考え方および政策。
SDGs(ソーシャル・ディベロップメント・ゴールス)
環境破壊、人権問題、貧困問題などに関する17の目標を掲げ、持続可能な解決を目指すための指針。
最近は投資界隈の外でもSDGsという言葉を目にする機会が多い。成長か脱成長かという議論も活発にされている。このどれにも反対意見が存在するが、何の疑問もなく誰もが同じ方向に進み続けるよりはずっと良い。より良い社会のその先を考えるためにも、オルタナティヴは議論されること自体に意味がある。
ここ10年ちょっとの間だけでもリーマンショック、大震災、パンデミック、異常気象など、予想だにしない出来事がたくさんあった。ヤマザピはおろか、会社員や公務員ですら安定的な将来が約束されることはなく、これまでの暮らし方や備え方を見直す機会は絶えない。
これほど不安定な状況で、私たちが取れる対策というのはどのようなものがあるか考えてみる。
・何が起きてもある程度大丈夫な状態を作り上げておく
・より好ましい社会を想像し、そこに向かって移動するなり、作り上げるなりする
この2つは、割と普遍的に有効だと思われる。
投資のリターンをここに当てはめて考えると、前者は経済的リターン(資産のリスクを分散する)、後者は社会的リターン(好ましい店や会社にお金を投じる)がそれぞれ対応しており、投資の有用性が感じられる。
投資以外にも節約や移住や語学や技術の習得など、様々な備えが存在するが、投資は費やす時間も限定的で、金額によってリスクが調整できるので、他の活動と並行して行いやすいという利点がある。
当連載タイトル「心地よい未来のための自分運用大作戦」に含まれる「運用」という言葉は、何かをうまく使っていくことを表している。
いかに不安定な社会状況であったとしても、身体やお金や知的好奇心の方向性など、自分の内外にあるものをうまく扱えたら、心地よい未来は確実に近付いてくる。
この連載は今回が最終回。
ここまでお読み頂いた読者の方や、貴重な機会をくださったレオス・キャピタルワークス、関わってくれたみなさんに感謝している。
ちなみに、この連載の報酬として頂いた金額は、全額ひふみプラスの購入に充てた。書いた文字も、流れるお金も、あらゆるエネルギーが私たちみんなの心地よい未来につながることを期待する。
プロフィール:
ヤマザキOKコンピュータ
1988年生まれの投資家・文筆家・ウェブメディア運営者。
バンド活動を続けながらライブハウスで働いた経験などを元に、パンクの視点からお金を考える。お金に関するウェブメディア『サバイブ』や、オルタナティブスペース『NEO POGOTOWN』の運営に携わる。
著書『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)
サバイブ:https://www.survive-m.com/
Twitter:https://twitter.com/0kcpu
※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。