見出し画像

お金の流れをイメージする。小さな喫茶店で目指す、幸せな循環

バンドマンで投資家のヤマザキOKコンピュータさん(ヤマコンさん)による連載の第3回です。
今回は、ヤマコンさんが考える「心地よい居場所」について語っていただいています!
投資家が経営する喫茶店はどんな場所なのでしょうか。

***

毎週のように会っていたエリック、ジョン、セバスチャン、ブランドンの4人がアメリカに帰った。ノースカロライナやバージニアなど、それぞれの地元に戻るらしい。

私は英語があまり得意でないが、お互いに興味を持っている相手ならば言葉の壁くらい大体なんとかなる。
ある友人が英語で「四国地方」を伝えようとして「ワンツースリーフォーアイランド」と言ったら何故か伝わった、という事例もある。ここまで来ると超能力の領域であるが、実際のところコミュニケーション=お喋りが全てというわけでもなく、視覚や嗅覚から伝わることも大きい。
受け取ろうとする気持ちや、伝えようとする努力が文字どおり、物を言うらしい。

ヤマコンさん連載3-1

彼らと私とでは生まれ育った地域が1万キロは離れているし、世代的にも10年前後のギャップがある。
与えられた教育や見てきた景色、影響を受けたカルチャーなど何もかもが違うけど、毎週遊んでいたら共通点も少なくないことがわかる。

彼らと一括りに言っても4人それぞれ違う色の肌を持っていて、年齢も境遇もばらばらだ。しかし、そんなことは個性または特徴に過ぎず、何かを判断する材料となることはほとんどない。
境遇の違う他者を理解するなんて不可能だと思うけど、自分を大切にするのと同じように、他者を大切に扱うこともできる。私はまだわからないことが多すぎて失敗することもあるが、人と接する中で感じることをヒントに、わからない部分を想像で補っていける。

想像できる範囲を広げていけば、きっとお互いの未来が心地よくなっていく。
彼らと過ごしたことによって想像できる範囲がまた少し広がって、心地よい未来にまた一歩近付いた。出会えてよかったと思う。

2018年の秋にイギリスのブリストルからDISORDERというハードコア・パンクバンドが来日して、たまたま何日間か一緒に寝泊まりした。10代のころに聴いたかっこいいバンドのメンバーと一緒にこたつに入ってご飯食べたり動画見たりして、不思議な気持ち。特に何するでもなく毎日ふざけまくって過ごしたが、去り際に言われた「Nice to meet you」が心に響いて、ジーンとなった。
その体験があってから、「出会えてよかった」と思う相手には、なるべく言葉にして伝えるようにしている。

エリックたちと別れるタイミングでも漏れなく言ってやろうと思って、一瞬で「Nice to」と言えるように舌先を上あごにくっ付けて待ち構えたが、最後に会う予定だった日は世間の状況的にとても人と会って遊べるような状態ではなくて、お別れの言葉もないまま、1万キロメートルもの距離が開いた。

身体の置き場を最適化する

東京を出てから福岡、沖縄と、どんどん南西に移動している。南極にぶつかるのも時間の問題だ。
投資や執筆など、どこに住んでもやることはほとんど変わらないが、引っ越すたびに性格も変わるし能力も変わる。

暗い気持ちになるけど制作が捗る家や、
春から夏にかけて何のやる気も起きなくなる家などもあった。

日照時間や気温、花粉の有無、水の硬度など、色んな理由で体質も変わる。
地域や建物の性質だけじゃなくて、よく会う店員さんや近所の人のちょっとした言動にも影響される。

自分はこういう性格だとか、朝が弱い、人付き合いが苦手など、長年にわたって自分の「性質」だと思い込んでいたことも、実は環境によってもたらされた「状態」にすぎなくて、身体をズラすだけで簡単に改善できるかもしれない。
それほどまでに、環境から受ける影響は大きい。
何か大きな壁にぶち当たったときは根性よりも移住のほうが役に立つこともあると思う。

福岡に住みはじめたときは極端に知り合いが少なくて制作が捗った。
自著、くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話の本文は全て福岡で書いた。

家の近所の喫茶店に通い詰めて、毎日毎日書きまくるうちに店員さんと仲良くなって、一緒に遊びに行ったり、他の常連さんを紹介してもらったりもした。
喫茶店は飲み物を提供するだけでなく、人によっては休憩所だったり、夜の居場所だったり、執筆のための作業場だったりする。

「場所」によって作られる文化や人格もある。
前回のコラムに書いた、スクウォットも「場所」だし、書店も「場所」だ。

NEO POGOTOWNという場所

本が書き終わってすぐに、沖縄へと引っ越した。
それからあっという間に1年が経ち、もう数えきれないほどの沖縄そばをすすった。

沖縄に来たのは、オルタナティヴ・スペース NEO POGOTOWN(ネオポゴタウン)に合流するためだ。

NEO POGOTOWNというのは、私の昔からの友人らが運営している複合施設。沖縄県の真ん中あたり、沖縄市という場所にある。

ヤマコンさん連載3-2

ひとつのフロアに、ライブができる音楽スタジオ、古着や雑貨を販売する店、予約制のタトゥースタジオなど色々な店が入っていて、7人のメンバーが各々のスペースを運営しているので、それぞれのお客さんや友人など様々な人が出入りする。

私はその中の一部を改装して、「浪浪(ろうろう)」という喫茶店を始めた。
最近は週に4日だけお店を開けて、お茶やコーヒーを淹れたり、お客さんとお喋りしたり、しなかったりして過ごしている。
週末は共同スペースのテーブル席に人種や出身地、年齢や趣味もバラバラの色んな人たちがやってきて、それぞれの過ごし方で楽しくやっている。

冒頭で紹介した、アメリカから来た4人組もNEO POGOTOWNの常連だ。

毎週4人揃ってやって来て、エリックはタトゥー、ジョンとセバスチャンは浪浪でコーヒーの飲み比べ。ブランドンはペットボトルのジュースを飲みながらスマホでNBAの映像を観ている。
みんなでお揃いの服を買ったり、他のお客さんを誘ってUNOしたり、肌の色も年齢もそれぞれの4人がいつも当たり前に遊んでいる姿を見ると、何だか温かい気持ちになる。
一方ほかのテーブルでは、持参のボードゲームで楽しむお子さん連れのファミリーや、集中して小説を書いている人なんかもいる。

NEO POGOTOWNには、
「この場に関わるすべての人が想像したことを実現する場所」
「あらゆるマイノリティ、あらゆるマジョリティが共存可能な場所」

という2つのテーマがある。

遊びに来てくれる子供たちや大人たち、そして運営に関わる私たちの人生を豊かにしてくれるような場所でありたい。
肌の色や性別はもちろん何だって良いし、可愛い男性やかっこいい女性がいても良い。色々な人がごっちゃになって一緒に遊んでいる環境が街にあったら、少なくとも私にとっては心地よい。

身体的特徴や年齢、出身地、セクシュアリティをはじめとした属性および状態によって格差を与えられたり、攻撃が正当化されるような社会には住みたくない。
自分の性格が悪くなってしまう。

学生の頃は家と学校くらいしか自分の場所がなかったので、良くも悪くも偏った影響を受けた。あれからたくさんの移動を経て、様々な場所や人から受けた影響を元に、自分の場所も作りはじめた。

くそつまらない未来を変えられるかもしれない喫茶店

ヤマコンさん連載3-3

私の経営する「浪浪」は、街の小さな喫茶店である。
NEO POGOTOWNの一角を借りて、友人たちと相談しながら木を切って壁を塗って器を飾って完成した。

おいしいお店とか安いお店はもっと他にあると思うけど、浪浪はくそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話の著者がやっているお店なので、やっぱりくそつまらない未来を変えられるかもしれない喫茶店でありたい。

現在は、暴力根絶の運動をしている農園から仕入れたコーヒー豆や、労働者の家族向けの学校を建てたりマラリア防止の蚊帳を配ったりしている組合が作ったチョコレートなど、地域に関係なく私が社会に必要と思える物を取り扱っている。

カウンター6席だけのかなり小さな規模で運営しているが、長い目で見たらそれなりに大きなお金が流れることになるだろう。

浪浪に流れるお金は、ここに集まる大切な人たちによって支払われた大切なお金だ。このお金を丁寧に扱うことで、より豊かな社会作りに繋げられたら、私だけでなくお客さんや社会にとっても大きなリターンとなって返ってくる。

本当の「投資」は、志のあるお金が、志のある会社を応援して、社会を根っこから元気にしていくもの。
「幸せな循環」を動かすエンジンになるもの。
ひふみは、同じ想いを持つあなたと会社を、
まんなかでつなぐものでありたい。

上の文章は、ひふみシリーズのホームページから引用したものであるが、私も同じ想いを持って、日々行動している。

それはお金の使い方や持ち方に限らず、時間や労力の使い方に関しても言える。浪浪もひふみのように「幸せな循環」を動かすエンジンになれたら、私たちに"心地よい未来"という大きなリターンをもたらしてくれるはずだ。

うちのような小さな場所でも、時間をかけて人が集まったり出入りしたりしていくことで、ひとりでは届かないような広範囲にまで想いを広げてくれる可能性がある。

また、場所は人と出会う役割も果たしてくれる。私自身、冒頭で挙げた彼らの他にも、NEO POGOTOWNを通して様々な人と関わっている。
お店の規模が大きければその範囲は広くなるだろうし、小さければその分深く関わることになる。こういった性質も意識した上で「幸せな循環」に向かって場所やお金を活かしていきたい。

プロフィール:

ヤマコンさん

ヤマザキOKコンピュータ
1988年生まれの投資家・文筆家・ウェブメディア運営者。
バンド活動を続けながらライブハウスで働いた経験などを元に、パンクの視点からお金を考える。お金に関するウェブメディア『サバイブ』や、オルタナティブスペース『NEO POGOTOWN』の運営に携わる。
著書『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』(タバブックス)
サバイブ:https://www.survive-m.com/
Twitter:https://twitter.com/0kcpu

※当記事のコメント等は、掲載時点での個人の見解を示すものであり、市場動向や個別銘柄の将来の結果を保証するものではありません。ならびに、当社が運用する投資信託への組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!