街中に上場企業が溢れていた 表参道でアナリスト疑似体験をして気づいたこと
ピースオブケイクでnoteのディレクターをされている平野太一さんによるシリーズ連載です。
レオス・キャピタルワークス運用部アナリストの堅田雄太と対談した前回。アナリストの「目のつけどころ」が普段の生活や仕事でも活かせることがありそう、ということで、今回は実際に街に出てアナリスト体験をしてみることに。
堅田アナリストと表参道駅で集合した平野さん。ピースオブケイクの本社にも近く、見慣れた街並みとのことですが、「投資家の視点」で歩くとどんな変化があるのでしょうか?
盛りだくさんの街歩き編、たくさんの発見があったようです。
表参道でアナリストを疑似体験
前回の記事で、アナリストの目線で街を歩いてみると、普通の人がいつの間にか見過ごしてしまうような今のトレンドを知ることができるという話を伺った。
すれ違う人の服装や、看板や広告、お店の品揃え。街を歩けば気づくことはたくさんありますよ。アナリスト的な目線のスイッチを入れて街を歩いていると、あらゆる会社が透けて見えてきます。
前回はこちら↓
成長企業を見極めるアナリスト。彼らは「世界を見つめる解像度」が高い人たちなのだ。堅田さんは「様々な会社が工夫しながらビジネスを展開していることを知ると、世界が変わって見える」という。
このインタビューの後、街を散歩しているときも少し意識したり、自分がお金を使うものに対して意識的に調べるようになったりはしているものの、まだ点と点がつながっていない感覚があった。
そんなことを編集部の坂崎さんに相談してみると「せっかくなので堅田と一緒に街を歩いてみますか?」との提案をもらった。堅田さんも乗り気になってくれているらしい。ということで、会社の近くの表参道駅から原宿方面まで歩きながら、アナリストの目を借りてみることにした。
表参道駅前の交差点から出発
距離にして約1km弱。でも、時間にしたら1時間。
さまざまな会社やブランドが独自のビジネスモデルで売上げを伸ばしていること。そして、普段の生活が会社の経済活動と密接につながっていること。歩きながら話を聞いていると、面白くてついつい立ち止まってしまった。
今回はその街歩きで見つけた印象的な会社について紹介したいと思う。
アニヴェルセルは、紳士服のあの会社が経営している
まず、歩いて行くと、結婚式場の「アニヴェルセル」が見えてきた。
たまに、セレモニーに遭遇することがある
堅田:アニヴェルセルってゲストハウス型の結婚式場を早い時期から展開していましたが、実は、AOKIグループの子会社なんです。
平野:AOKIといえばスーツのイメージでしたが、結婚式場もやっているんですね!
堅田:AOKIは他にも、カラオケのコートダジュールや快活CLUBなども経営しています。これまでスーツ販売では郊外のロードサイドで店舗展開してきましたけど、最近はカジュアルな服装や在宅勤務などが増えてそもそもスーツを着る人が減ってきていますよね。働き方改革はAOKIのビジネス環境に大きな影響を及ぼしているんです。そんな中で、AOKIは将来を見据えてスーツに続くビジネスの柱を育てるために多角化を進めてきました。ファッション、ブライダル、エンターテイメントなど、それぞれの年代に合わせたビジネスを行なっています。数年後には「AOKI=スーツ」というイメージがガラッと変わっているかもしれませんね。
アップルストアの混雑状況は必ずチェックする
堅田さんは、アップルストアの近くを通るたびに、店内の混雑状況を確認しているという。それは、アップルの株に投資するから、というよりは、アップルの製品は日本の部品メーカーが多く使われているからだそう。
堅田:今、AirPods Proの売れ行きが好調ですよね。その売れ行きによって当然、組み込まれている日本の部品メーカーに影響がある。
平野:海外企業だから日本に影響がない、というわけではないんですね。
堅田:そうなんです。iPhoneに使われている部品にも日本のメーカーのものが結構あります。アップルの売上げだけを見るのではなく、それを構成する部品の企業まで調べてみることで、点から線につながっていくことが実感できるはずですよ。
カワイは、なぜスケルトンピアノをディスプレイするのか
もう少し歩いて行くと、ピアノのカワイがあった。店頭にスケルトンタイプの珍しいグランドピアノがディスプレイされていた。
平野:どうしてスケルトンのグランドピアノをこんな好立地の路面店の、しかも一番目立つところに置いてあるんでしょう? そこに置いてあるということは、何かしらの意図があるはずですよね。
堅田:いい視点ですね! これ、もしかしたら訪日中国人へのアピールかもしれません。企業は必ず顧客ターゲットを定めて事業を展開しています。それが日本人だけじゃない可能性もあるわけです。現に、表参道を歩いていると、海外の旅行客が多いなとか、肌で感じることができますよね。ということは、もし海外の訪日客が減るというニュースが出たとしたら、どこの業界が影響を受けるかも考えておくといいですよ。
平野:なるほど。カワイは、中国人向けにどうしてターゲットしているんでしょう。
堅田:音楽ってとても普遍的なものですよね。世界に目を向けてみると、中国や東南アジアが大きな市場になってきています。これらの国では中間層が増加しているので、普段の生活だけじゃなくて教養にもお金をかけられるようになった。まずはグランドピアノじゃなくて電子ピアノのようなものを買ったりするわけですが、グランドピアノは憧れの存在です。同じく楽器業界ではヤマハも上場していたりします。
タイムズが儲かれば、関連企業も儲かる
表参道ヒルズの駐車場に目を向けると、タイムズの看板が見えてきた。
堅田:都市部で成功している駐車場チェーンといえばタイムズですが、最近ではカーシェアリングの拠点としても話題になっています。カーシェアは車を待機しておかなくてはいけませんよね。駐車場側からしても稼働率が上がるのでwin-winなわけです。
堅田:タイムズの売上げが伸びるということは同時に、駐車場に必要な機材の会社にも恩恵があります。例えばわかりやすいのは、パーキングの精算機をつくっているアマノ。
平野:ひとつの企業の売上げが伸びるということは、それにつながって売上げが伸びる企業もあるというわけですね。あと駐車場なら、タイヤをロックする板なんかも必要ですね。
堅田:はい、そうやって、点だけ見るのではなく、そこにどんな関連企業があるのかを想像していくんです。ロック板(フラップ)をつくっている大手では日本信号。
ちなみに日本信号は駅のホームドアもつくっている企業です。ただ、機械自体が重いので、あれを取り付けるためにはホーム自体の改修をしないといけないらしいんですけどね。大阪では、車両ごとにドアの数が違ったりするので、新しいタイプの昇降式のホームドアを採用しています。
街で見つけたネタは、メモ代わりに写真をたくさん撮影
行列の絶えないロブスターロールの戦略とは
表参道から少し原宿方面に歩いて行く。「上場企業ではないけれど、いつも注目しています」と堅田さんが紹介してくれたのが、ロブスターロール専門店のLUKE’S。数年前にオープンして以来、いまだに行列が絶えないお店だ。しかも大半が外国人観光客。ニューヨーク発のこのブランドを経営しているのは、アパレルブランドのジャーナルスタンダードを運営するベイクルーズグループだという。
平野:なんでいつもこんなに外国人が並んでいるんでしょう……?
堅田:外国人向けのマーケティングが上手いんでしょうね。ほかにもスフレパンケーキ専門店のFLIPPER’Sなども、同じくベイクルーズグループです。
平野:J.S. BURGERS CAFEもベイクルーズグループじゃないですか。近いエリアに同じグループのブランドが多すぎませんか?
堅田:「ドミナント戦略」というんですが、地域を絞って集中的に出店する戦略を取っているのかもしれないですね。遠いところで出店するよりも、近いところで複数店舗を出すことで食材の不足対応やスタッフ移動ができますし。
ベイクルーズグループは今のところ上場はしない意向を示していますが、もしかしたらトップが代わったりすれば可能性もなくはない。他にも、ベイクルーズの事業を支援している会社、という切り口も注目できるかもしれません。そうやって調べてみると、ベイクルーズがメイン顧客のマーケティング会社で上場している企業もあったりするんです。
表参道といえばアパレル メルカリの意外な恩恵とは
神宮前交差点からビルを見上げると、Amazonの看板があることに気がついた。
平野:「Fashion」だけ書かれているのが印象的ですよね。これは何を示しているんでしょう?
堅田:あくまでも僕の予想ですけど、アマゾンといえば本や日用品のECサイトと思っている人が多いと思うんですが、実はファッション関連の商品も販売しているということをファッションの街である表参道を歩いている人に知って欲しいということだと思います。あくまで仮説なので真相は分かりませんが、自分がその会社の社長になったつもりで戦略を予想することはすごく重要だと思っています。
ちなみに今年は暖冬なので、アウターの売り上げが軒並み下がっている。気候の変動も、アパレル業界にとったら一大事ですよ。
平野:そういえば、僕が最近不思議に感じていることがあって。アパレルの単価、高くなっていませんか? 先日渋谷パルコを歩いていても思ったんですが、若者向けブランドでも、結構値段上がっている気がするんですが。
堅田:それ、面白いポイントなんです。実は、メルカリの影響が大きいようです。THE NORTH FACEを運営するゴールドウィンの方に聞いた話なんですが、中古市場ができたおかげで単価を高くすることができたそうなんですよ。
平野:そうなんですか? 中古市場ができるとアパレル業界は困っちゃうのかと。
堅田:売上げを増やすには、単価を上げるか、数量を増やすかの2択です。メルカリのような中古市場ができたことで「1シーズンだけ着られればいいや」ということで高額の新品を買って、1シーズン終わったら中古で販売することで実質数千円でアウターを楽しむという人が多くなったんだそうです。結果として中古でも売れるようブランド力をつけることが重要になってきて、単価を上げることができるようになったそうです。
平野:なるほど。車も、中古市場ができたから新車が売れやすくなった構造と似ていますね。顧客にとってもメリットがありそう。
堅田:そうそう。マーケットフィットできた企業は新しい価値を出すことができています。中古市場に商品が出てしまうことを嫌がるのではなく、じゃあどうすればいいかを考える必要があるなと、メルカリの台頭を見ながら感じますね。
外食で根強い人気を誇る てんや
神宮前交差点から明治通り沿いに歩くと、天丼のてんやがあった。経営しているのは、ロイヤルホストを経営しているロイヤルホールディングス。同じ会社が運営していたとは知らなかった。
平野:僕は家でも料理する方なんですが、揚げ物って大変なんですよね。油の量もたくさん使いますし。
堅田:でも、たまに食べたくなる。だから外食として根強いニーズがありますよね。あと、てんやは立地を意識した個別マーケティングも進んでいて。ほら、原宿店では限定メニュー「忍者海老天丼」をやっています。海外の人からすると、天ぷらって高いイメージなんです。それを安く食べられるということで人気に火がつきました。
「分身の術」でエビが5本とのこと
平野:ちょっと話は変わりますが、同じ揚げ物で言うと、唐揚げなどの冷凍食品も進化しているなと感じますね。ということはそれでもうかる会社は…
堅田:冷凍食品の数が増えるということは、冷凍食品を保存する冷蔵庫や調理器具をつくる会社も売上げが上がっているということです。コンビニのチルド棚も新しくできたりしますね。
そうやって目に入った商品やサービスを展開している企業の社長になりきって、戦略を妄想してみると今までとは違った景色が見えてくるし、業界は違えど自分たちの仕事にも応用できることがたくさんあったりしますよ。これからもどんどんやってみるといいですよ、いい調子です。
最後に褒めてもらえた
見慣れた景色がカラフルに変わった
1時間の街歩きは、発見の連続だった。
話はどんどん広がるし、バラバラな点にしか見えていなかったことが、実は見えない糸でつながっていたことにびっくりした。確かに、こんなふうに世の中を見てみると、街が色づいて見えてくる。前回のインタビューで「世界がカラフルに見える」と教えてもらっていたけど、まさにその通りだった。
今年の暖冬が原因で売上げ直接響いてくるアパレル業界もあれば、アルバイトの人材不足(賃金上昇)で経営が厳しくなる飲食業界など、自分の生活の延長線上にあるすべてのニュースが経済活動にリンクしていることを実感した。
ちなみにこの取材に出かけたのは1月末。このころはまだ街には外国人が多かったけれど、事情は刻々と変化している。でもきっと、環境の変化に負けずに、チャンスに変えて成長していく会社はあるはずだ。
アナリスト疑似体験をしてみたことで、それぞれの会社がどんな思いで経営をしているのか、思いを馳せることができるようになった気がするし、それはなんだか面白い。
この部分は、これからも自分なりに深掘りしていってみたいと思う。
続編はこちら↓
プロフィール:
ライター:平野太一
1991年静岡県生まれ。関西大学経済学部卒業。2013年10月よりWantedly, Inc.に入社。CSを経て、募集要項の作成・取材・ウェブメディア「WANTEDLY JOURNAL」の執筆・撮影などを担当。2016年1月よりBAKE Inc.に入社。ウェブマガジン「CAKE.TOKYO」の編集・執筆・撮影を担当。BAKE CHEESE TARTのSNS・LINE@運用、リーフレットの撮影などを担当中。2018年10月より、Piece of cake, Inc.にnoteのディレクターとして入社。クリエイターガイドやイベント企画、クリエイターサポートなど、全方位で担当中。
Twitter : https://twitter.com/yriica
note : https://note.mu/yriica
※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社運用ファンドへの組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。