お金の教育で、「社会を見る目」を養っていく。レオス西澤が子どもに伝えたいこと【後編】
「働く」以外のお金を増やす方法を知って欲しい
——前編では、5歳の娘さんに現在実践されている「お金の教育」について伺いました。今回は、これから娘さんが成長されていく過程で伝えていきたいことがあれば、教えていただきたいです。
西澤:「働く」以外にもお金を増やす方法がある、ということは伝えたいです。娘が小学校の高学年、もしくは中学生になるころに、彼女名義の証券口座をつくって運用していけたらいいなと。
——おお、それは資産形成スキルを身に付けるのが目的ですか?
西澤:そうです。あとは経済の仕組みを知って、社会の動きにアンテナを張れる人間になってほしいとも考えています。
というのも、僕自身が「投資」を身近に感じながら子ども時代を過ごした経験があるんです。証券会社に勤めていた母親の影響で、幼いころから「株ってなんだろう?」と興味を持っていましたし、たしか小学2年生のときには「日経平均株価ってなに?」と質問するようにもなっていたかな。
投資の存在を知っていたからこそ、子どものうちから社会や経済に対して興味を持つようになったんです。
——お母さまとは普段から、株や投資の話をよくされていたんですか?
西澤:はい。中学、高校でも、母とはよく株の話をしました。9・11(アメリカ同時多発テロ)やリーマンショックなど、世界を大きく揺るがす出来事が起こるたびに、為替市場や日経平均株価がどう動いているかを注目して二人で感想を言い合っていましたね。
母との会話を通して、経済がどのように動いているのか、漠然と理解するようになりました。
——「お金に興味を持つ」ことは、自分の生きる世界を知るきっかけになるんですね。
西澤:そうなんですよ。たとえば、株式相場が変動するメカニズムについて少し知るだけでも、いい社会勉強になると思います。
日々変動する数字の向こう側には、多種多様な価値観を持つ何万という人がいて、それぞれに将来を予想している。株を売る人と、その真逆の考えを持って株を買う人の両方が存在するから、市場が成り立っているわけです。
そういった事実を知れば、ただの数字が、人間の営みそのものに見えてくる。おのずと世の中を見る目が変わるんじゃないかなと思います。
——恥ずかしながら、私は今まで、株式相場の数字を「人の営みの結果」として見たことがありませんでした。新しい視点を教えていただいてわくわくしますし、知的好奇心が刺激されます。娘さんもきっと同じような気持ちになるのではないでしょうか。
西澤:そうだとうれしいですね。もし娘がマーケットの動きに興味を持つようになったら、相場について一緒に語り合ってみたいです。きっと楽しいだろうなあ(笑)。
投資とは「人」を信じて、企業を応援する行為
——では、いざ娘さんと株式投資するときが来たら、どういう株の買い方をしたいですか? これから売上や利益が伸びそうな企業を一緒に調べる、などでしょうか?
西澤:「この企業を応援したい」という目線で選んでほしいですね。株式投資は応援したい会社を選んで、成長を見守る行為なのだと知ってもらいたいです。
たとえば、娘はディズニーランドが大好きなので、その運営会社であるオリエンタルランドの株を買ってみるのもいいでしょう。
——それはおもしろそうです! 自分が好きなサービスや商品を生み出している企業に投資できたら、「応援したい」気持ちがおのずと湧いてくるでしょうね。ちなみに「投資」という概念は、いつごろから伝えたいとお考えですか?
西澤:投資については、もうすでに伝えているんです。
——5歳の今ですか!? 早いですね……!
西澤:はい。教えるようになったきっかけは「パパってどんな仕事をしているの?」と娘から質問されたことです。シンプルに「お金をふやす仕事なんだよ」と説明しました。
補足として、「パパたちは会社を応援するために株を買っている」「会社はそのお金を使って新しいことにチャレンジする」「チャレンジが成功して会社が成長したら、お金がふえる」とも伝えています。
——「会社」や「会社を応援する人」の存在を娘さんはすでに知っているんですね。 それを理解できたら、社会の見え方がまったく違ってくるだろうなあ。投資についても、ヘンな偏見をもつことなく、前向きに理解できそうです。
西澤:投資というのは「エネルギーを他人や他人の活動、会社に投入することで、世の中をよくしていこう」とする活動のこと。つまり、投資に必要なのは「人を信じること」なんですよね。これは、代表の藤野が著した書籍からの受け売りで、僕が大切にしている言葉でもあります。
日本には、投資を「汚い」とか「怖い」と感じる人たちがまだまだ多く存在します。けれど、投資をそんな風にネガティブに捉えていたらもったいない。僕は前職時代に藤野の本を読んで投資の仕事に哲学を持てたのですが、僕の社会人人生を支えてくれたこの投資の考え方を、娘にも伝えていきたいですね。
仕事は楽しいだけじゃない。親のありのままの姿を見せる
——少し話が脱線するのですが、西澤さんは娘さんにご自宅で働く姿もオープンにして、仕事内容もていねいに説明されていますよね。そのときに気を付けていることはありますか? 子どもが仕事にネガティブなイメージを抱かないよう、疲れた姿は見せないとか。
西澤:いやあ、何もありません。「仕事は楽しいだけじゃなくて、大変なこともある」と伝えたいと思っているので、あえてどんな姿もそのまま見せてしまいます。だからなのか、娘が「パパ、今は仕事が大変なの?」と言葉をかけてくれることもありますね。
——へえ! 娘さんにはどのように答えたのですか?
西澤:「今はたしかに大変だけれど、そのぶん人の役に立っているんだ。だからがんばれるよ」とか、「がんばっているときはしんどいけれど、大変な仕事をクリアしたあとは、人生がよりいっそう楽しくなるんだ」と伝えています。
あと、妻からも「パパがこうやって忙しく仕事をしてお金を稼いでくれているから、私たちはごはんが食べられるし、気持ちよく暮らせるんだよ」と何度も伝えてくれていますね。
——お母さんの言葉からは「パパが働いているからお金が手に入る」、つまり「労働と交換でお金を得ていること」が理解できるし、お父さんの答えからは「逃げずに課題と向き合う大事さ」が伝わります。ひとつの問いから、たくさんのことを伝えられますね。
お金のプロでない大人は、どうやって「お金の教育」に取り組んだらいい?
——西澤さんが投資関係のお仕事をされているからこそ、娘さんは早くから「投資」になじめたのではないかと思います。お金のプロが家庭にいない場合、どうしたら子どものお金に対する興味・関心が広まると思いますか?
西澤:そうですねえ……。お金に囚われず、世の中で起きていることの裏側を意識するといいと思います。我が家の場合はガソリン価格について娘と話しますが、以前取材を受けた桜井は、野菜価格の変動について話すと言っていましたよね。キュウリが値上がりした理由を伝えるだけでも、「価格は需給のバランスによって決まる」と教えられます。
——なるほど。子どもにしっかり説明するためにも、親である私がニュースを見たり新聞を読んだりして、社会や経済を理解しておかないといけないなあ。
西澤:ある程度の理解は必要ですが、子どもと一緒に調べてみてもいいと思います。わからないことを人に聴いて解決するだけではなく、能動的に情報を取りにいくクセも、子どものうちから身に付けてほしいですから。
「ママもわからないから、一緒に調べよう」と誘って、二人でパソコンの検索エンジンをひらいてみるとか、百科事典で調べてみるとか。そういう姿を見せることもひとつの教育ではないでしょうか。
——ほんとうですね。 西澤さんのお話を伺っているうちに「親がありのまま姿で、子どもと全力で向き合っていれば、子どもはどんどん成長していくんだ」と思えるようになりました。ヘタに力むことなく子育てを楽しみたいと思います!
(おわり)
プロフィール:
取材・執筆:森川紗名
編集:田中裕子
写真:沼尾紗耶(レオス・キャピタルワークス)