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お小遣いは4か国の通貨で渡す 藤野英人が子どもに伝えたいこと(中編)

レオス・キャピタルワークスのメンバーが考える「子どものお金の教育」について、ライターの田中裕子さんが根ほり葉ほり尋ねていく本連載。

代表である藤野英人へのインタビュー第2回は、藤野が考えるもっとも効果的な金融教育プログラムと、家庭でできるユニークな「お小遣い制度」について語りました。

*   *   *

今回の話し手:藤野英人 
レオス・キャピタルワークス代表取締役社長。まごうことなきお金のプロであり、大学生の娘を持つ父でもある。
聞き手:田中裕子
ライター。1歳9ヶ月の娘を持つ母、ビジネス系出版社出身だが、お金についてはどうもフワフワしている。

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「働く」の本質とエリートの苦悩

――前編では「親はお金の話をする前に人生について語るべし」というお話をいただきました。そういう関係を築きつつ、親としてできる「お金の教育」があればうかがいたいのですが。

子どもの「仕事観」を養うことでしょうね。「仕事」や「働く」について、正しく認識してもらうことです。

前回、ぼくの友人の「エリート」たちの話をしました。じつは、彼らが高給取りでありながら幸せではないのは、「人生について考えてこなかったから」ともうひとつ理由があります。

いわゆるエリートとは、受験も就活も「競争に勝つこと」をめざし、「優秀でいること」をがんばってきた存在です。しかし仕事は、受験や就活とはまったく性質が違う。そこの変換がうまくできなかった人が、幸せになれなかったんです。

――仕事の性質、というと?

働くって、根本的には、お客様や上司など人によろこんでもらうことなんですよ。大切なのは周りより優秀なことではなく、人をどれだけよろこばせられるか。……あ、これ、精神論や「いい話」ではありませんよ。より大きいよろこびを提供した人が、結果的に収入を増やしたり出世したりする、つまり仕事で成功するというシンプルな話です。

――「みんなが抱えていた不便を解消する画期的なサービスを考えついた人が大儲けする」みたいな話でしょうか。

そうそう。「競争」から「よろこばせる」に発想の転換ができない人は、いい仕事ができません。やりがいも得られず、評価もされない。残念ながら、40代、50代になってもまだ「あいつは○○大学卒で……」なんて言っている「不幸せそうな人」はたくさんいます。

ともかく、「働く」って意義のある、すばらしいことです。それなのにいまは、この事実を子どもに伝える場がほとんどないでしょう。そもそも働くことに対して「必要苦」というか、義務感やネガティブな思いを持っている親世代も多い。学校の先生だって、「お金」「稼ぐ」「投資」などの言葉に対して「悪」「ダーティ」といった印象を抱いているのが現状です。

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――うーむ。子どもにポジティブな仕事観やお金観を持ってもらうためには、どうしたらいいのでしょう。

まずは家庭で、「お父さん、お母さんの仕事はこんなふうに人をよろこばせていてね」と話をすることがひとつ。あとは、仕事とはなにか、会社とはなにかを学ぶことでしょう。そのための、いいプログラムがあります。

「仕事」を知る、「会社」を知る

ぼくが実践的な金融教育としてもっとも優れていると思っているのが、信頼するベンチャーキャピタリスト(VC)の村口和孝さんが考案した「起業体験プログラム」。文化祭などを利用して中学生や高校生に「起業家」になってもらい、ゼロからビジネスを立ち上げていくプログラムです。

――へえ。模擬店のようなものですか?

いえいえ、ただのお店屋さんごっこではありません。疑似株式会社として会社を設立し、組織づくり、事業計画づくり、資金調達、商品開発、販売、決算といった、すべての会社に共通する仕事の一連の流れを体験できるんです。

たとえば資金調達では、出資者として参加してくれるVC役の大学生にプレゼンし、投資してもらいます。借り入れのときは、担保として大切なゲーム機を持ってきてもらうことも(笑)。

――おお、担保までとるんですか。本格的! そして「仕事の範囲」が広いですね。

おっしゃるとおりです。いま、多くの人がファクション(職種)で上長に託されたタスクをこなすことを「仕事」だと捉えている。「営業はわかるけど経営はわからない」「開発はわかるけど会計はわからない」といった人が多いんです。仕事を全体として捉えられる人が少ない、これは大きな問題だと思っています。

――子ども向けの職業体験施設は、まさにファンクションの「仕事体験」かもしれません。

そうですね。たとえばレストランのシェフを体験するなら事業計画から、少なくとも仕入れからしないと仕事とは言えないでしょう。

このプログラムでは、仕事の全体の流れを体験できます。その中で、仕事には仲間が必要なこと、仕事はぼーっとしていてもうまれないこと、仕事とは創造的でワクワクすること、商売とは人間理解だということ、投資とは決して汚いお金ではないこと……たくさんの学びを得られます。

するとね、世の中の会社が好きになるんですよ。「稼ぐとはどういうことか」がわかるから、「会社は社員をこき使う悪いヤツ」とか「お金や投資は汚いもの」なんて思わなくなる。

――ああ、それは仕事観、お金観をはぐくむ最高の経験ですね。親よりよっぽどお金リテラシーが高くなりそう(笑)。

だからこのプログラムは、親も巻き込みます。「金融について親に教える」という意図もあるんです。やっぱり、親子でいい会話をしてほしいですから。

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お小遣いは4か国の通貨で渡す!?

――「起業家体験プログラム」、どんどん広がっているということで、ぜひ子どもにも体験させてみたいのですが……その前に、家庭でできる「お金の教育」はなにかありますか?

そうですね、中学生くらいになったらお小遣いを複数の通貨であげてみたらいかがでしょう? 円、ドル、ユーロ、中国元あたりで、「どの通貨に交換してもいいよ」と言って渡して。

――えーっ、通貨を分ける! 考えたこともありませんでした。たしかにグローバル社会を生きる子どもにはいいトレーニングになるかもしれませんが、中学生で為替なんて理解できるんですか?

それは、子どもを見くびっています(笑)。彼らは「自分ごと」になると、おどろくほどのスピードで学習しますよ。数百円の差でも一大事だから、真剣ですし。

あと、そういうセリフが出たということは、経済はむずかしいもの、子どもには理解できないくらい複雑なものって思っているわけでしょう? でもね、経済がむずかしいと感じるのはただ勉強していないだけなんです。

――ウッ。耳が痛い……。

ちゃんと向き合ってみると、経済は単純なルールで動いているとすぐにわかります。子どもって、経済よりずっと複雑なRPGのルールも理解して遊びこなしていますからね。興味さえ持てば、大人以上に為替の取引も株式投資も「できる」んです。

ただ、通貨がいいのは株と違って手触りがあるところです。海外旅行のために貯めておいて、現地でリアルに使うこともできる。そういう意味で、楽しさを感じてもらいやすいんじゃないでしょうか。どんなやり方にしても、ゲーム性を持たせて、お金を楽しむ要素を交えるといいと思いますよ。

――なるほどなあ。お小遣いひとつとっても、そんな工夫ができるんですね。

プロフィール:

ライター:田中裕子
鹿児島県生まれ。新卒でダイヤモンド社に入社、2年間の書店営業で本を売る現場のあれこれを学び、書籍編集局へ異動。ビジネス書の編集を経験したのち、2014年9月にフリーランスのライター・編集者に転身、書籍の執筆やウェブや雑誌のインタビュー記事などを担当する。現在はライターズカンパニーbatonsに所属。1歳の娘を持つ母。

ウェブサイト: https://tnkyuko.themedia.jp/
Twitter : https://twitter.com/yukotyu
note : https://note.mu/tanakayuko

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