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アクティブファンドで重要な目利きの仕事 ひふみのアナリストに聞いてみた

ピースオブケイクでnoteのディレクターをされている平野太一さんによるシリーズ連載です。

前回の記事でもご紹介した通り、投資の勉強会イベントにパネラーとして登壇した平野さんでしたが、そこで学んだのは「アクティブファンドの場合は、託す人たちを信じられるかどうか」ということでした。

「投資信託の中の人」は実際どのように投資をしているのか? そこに腹落ちすることが長く投資を続ける秘訣かもしれない……

ということで、わたしたちひふみ投信の「中の人」に会ってもらうことになりました。平野さんと同世代でもある、レオス・キャピタルワークスのアナリスト、堅田雄太がお話しします。

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アクティブファンドで重要な「アナリスト」の仕事って?

自分も投資をしているひふみ投信のようなアクティブファンドは、インデックスファンドと異なり、アナリストが足を運んで企業のことを調べているのが特徴だ。

アクティブ型…
運用会社やファンドマネージャーが独自の見通しや投資判断に基づいて、ベンチマーク以上の収益を目指すファンドのこと
インデックス型…
日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)など株価や債券の指数(インデックス)に、ファンドの基準価額が連動するような運用を目指すファンドのこと

インデックスファンドはある意味何も考えずに持っておこうと思っているからそれはそれでいいけれど、投資と長く付き合っていくなら、アクティブファンドの投資先の中身についても、もう少し興味を持ちたい。前回(こちら)、投資ブロガーのrennyさんからも、投資先の「価値」を知るという姿勢が大切だと教わったからだ。

日本には360万もの会社がある(そのうち上場企業は約4000社)。その中でどうやって会社の価値を見極めるかは、僕のような一般人からしたらイメージがつかない。ひふみ投信ではどういう観点で投資先の会社を探しているのだろうか。「アナリスト」の仕事って、そもそもどういうものなのだろう?

今回は、ひふみ投信で投資企業をリサーチするアナリストのひとりである堅田雄太さんにお話をお聞きすることができた。高知出身の堅田さんは現在30歳、レオスには大学院時代のアルバイトを経て、新卒で入社したという。マーケティングの部署を4年経験したのち、2018年から念願のアナリストになった。

堅田さんの入社経緯などはこちらに。

僕が一番気になっていたのは、実際にアナリストはどういうふうに企業を探しているのか?ということだ。「歳が近いから気軽にね」という言葉に甘えて、とにかく気になったことを次々と聞いてみた。

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どうやって「投資に値する会社」を探す?

――堅田さんが考える「投資に値する会社」の定義って何でしょうか?

いろいろな解釈がありますが、「投資に値する会社」の定義を一言で表すなら、「株価が上がる会社」ですね。社会的に評価されている良い会社、世界的に知名度が高い企業であっても、株価が上がらなかったら投資に値する会社とは言えないと思っています。

――株価が上がる会社……。その定義はあるんでしょうか?

それはシンプルで、「利益を出し続けている会社」です。なぜ利益が出ているかというと、その会社が提供している商品やサービスに対して、より多くのお客様が価値を感じて、お金を払っているからですよね。

例えば、平野さん。今着ている服、なぜ買いましたか?

そこにはいろんな理由があると思います。ブランド、色、形、着心地、自分が持っている服との組み合わせ……どんな理由でもいいんですが、そこに何かしらの価値を感じていて、その価値への対価としてお金を払っていますよね。

――そうですね、価値がないと思ったものには、お金を払わないです。

そうですよね、服を売っている会社であっても、お客様に提供している価値は会社によって違うんですよ。「その会社がお客様に提供している価値の本質は何なのか?」「今後もお客様に価値を提供し続けることができるのか?」という問いに対して納得して答えられる会社こそが、投資に値する会社になるのではないかと思っています。

――なるほど……。では、利益の上がっている会社を、具体的にはどういうふうに調べているんでしょうか?

利益の上げ方は会社によってタイプが異なります。

利益は売上からコストを引いたもので、売上は数量×単価で決まるので、「数量」、「単価」、「コスト」のうち何がどう変化して利益が上がっているのかを考える必要があります。数多く売って利益を上げるところもあれば、量は追わないけど単価を上げるところもありますから。

タイプを見極めたら、競合他社も調べます。A社は利益率が10%ある一方で競合B社は5%だった場合、どうしてそんなに利益率が高いのか、とか。どこにお金をかけているのかは財務諸表を見ればわかります。この会社はどうやって利益を生み出していくのだろうと想像しながら調べるんですね。これが取材の前準備です。

――あらかじめ仮説を立てた上で、話を聞きに行く、と。

そうですね。わたしたちが調査するときは、社長やCFO(最高財務責任者)、IR(投資家向け広報)担当者の人に取材することになります。だいたい取材は1時間くらい。その1時間の間に、自分の仮説や疑問を解消していきます。多ければ何回も取材することもありますし、自分の読み通りというか、彼らの強みが明確にわかった場合は30分ぐらいで終わることもあります。創業社長に話を聞くときには生い立ちや創業の経緯、今後の長期ビジョンなどを聞いていきますね。

――取材って、新規開拓と既存観察の割合ってどんな感じなんですか?

ここの考え方は人によりますが、僕の場合は新規が8割です。信頼して投資をしているので、そこのストーリーが変わらないのであれば、深く追うよりも新しい投資先を見つけたほうがいいと思っています。

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ひふみのアナリストは「役割分担がない」

――ひふみ投信の調査スタイルの特徴について教えてください。

ひふみ投信の調査スタイルというと、まずは「セクター制ではない」ということです。大手の運用会社だと「あなたは自動車業界を運用してくださいね」というふうに、業界ごとに役割が分担されるんですよ。ひふみの場合は、それがない。その人がいいと思ったらどの業界・会社を取材してもいいんです。これは珍しいと思います。

チームにはアナリスト、ファンドマネージャーで今10名いまして、チームワークで成果を最大にすることが大事なので、あの人がこの分野見ているから別の会社を調べてみようか、というふうにある程度の緩やかな規律は自然と生まれていますけどね。

――自分の担当領域が横に広がっていくのは、リサーチに手間がかかるのではないかと思えるのですが……。

かかりますよ(笑)。ですが、業界を区切らないからこそ見つけられる素晴らしい会社もあるんです。

例えば自動車は、グローバルで見ると台数が伸びていないですよね。一方、ハイブリッドやEVなどの電気自動車業界は伸びているんです。もし自動車業界だけを見ていたらトヨタとかになるけれど、枠がないので電気自動車をつくる「素材」の方を提供している企業も調べられる。部品素材を提供している会社の中に、素晴らしい会社も世の中にたくさんあるんです。サプライチェーンを俯瞰して見られるので、そこは業界を区切らないからこそのメリットだなと思います。

――無駄が多いように見えて、付加価値が生まれるんですね。

はい。業種だけでなく国も同じです。最近僕たちは世界株への投信も出たんですが、ひふみ投信の中にも世界株が入っているのも同じ理由です。日本の会社をリサーチしていて、競合が海外だったとします。そこに超えられない壁があったら、海外の株を買うという選択肢になります。逆もしかりです。そういう柔軟な体制がひふみらしさをつくっている気がしますね。

――投資を決めた後、企業は一人で担当するものなんですか? 

基本は一人ですが、複数人で見ることもあります。

違うアプローチだけど、同じ銘柄に偶然たどり着くことも結構あるので。いろんなアナリストがいろんな意見を持って、ポートフォリオをつくっていくのが、僕らのスタイルですね。投資するかしないか、どのくらい売買するかという最終ジャッジはファンドマネージャーである藤野がするんですが、運用チームも意見を出します。毎朝、「朝会」というミーティングがあって、そこであれこれ議論しているんです。

240銘柄をどうやって配分する?

――運用の話が出たので、少し調査から離れてポートフォリオのことも聞きたいです。ひふみ投信のポートフォリオって、銘柄数は上限が決まっているものなんですか? 保有比率が変わっていくのでしょうか? それとも銘柄数も増えていくのでしょうか?

ひふみ投信の場合は、投資企業の数に制限がありません。素敵な企業が見つかれば投資するというスタンスです。唯一制限があるとすれば、お客様からいただいたお金。その中でどうやったら最良のパフォーマンスを出せるかを考えて、企業の組み合わせをつくっていきます。

今ひふみは約240銘柄に投資しています。例えば、この銘柄に対しては全体の1%のリスクしか取りたくないと仮定します。でも、この企業の株価が2倍になったら全体に占める割合が大きくなるから、リスクは増えますよね。その場合は、一部利益を確定して売ってもらう。保有割合を減らして1%に戻すということをしますね。

――その240銘柄、定期的に銘柄の見直しはするんですよね?

そうですね。気になるニュースがあったら、取材したり電話したり。3ヶ月に1回、四半期の決算があって、その決算発表の結果見て、追加で取材して、当初の成長率と変わっていなければ継続しますし、変わっていたら追加したり減らしたりすることもあります。

最近の投資事例 : 高級老人ホーム

――最近で堅田さんが見つけてきた投資案件は何かありますか?

「チャーム・ケア・コーポレーション」という東証一部の上場企業ですね。松濤などの高級住宅街で高級老人ホームを経営しています。月90万円する部屋もあるんですよ!

日本には少子高齢化という課題があります。2025年には団塊の世代が75歳を超えるので、高齢化が一段と加速していきます。そんな社会の中で必要とされる商品やサービスとは何かを考えていたときに発見した会社です。実際に社長にお会いして、施設見学してみて、自分のおじいちゃん・おばあちゃんもこの会社が運営している老人ホームに入ってほしいと思えたことが投資のポイントです。

こちらが、藤野と一緒に見学した、松涛の施設です。

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今年オープンしたばかりの「チャームプレミア グラン松濤」

――すごい、きらびやかです……!

鉄板焼きを目の前で食べられる食堂がある(あたたかいものを食べられる)など、ハード面も充実していることはもちろんなのですが、それよりも驚いたのは、細かな気配りが感じられるソフト面のサポートでした。入居者一人あたりの職員数が多いので、職員さんが銀座への買い物や墓参り、旅行に出かけるためのサポートもしてくれるんです。これはケア(排泄や入浴の介助)以外の時間を大切にしながら過ごしてほしいという社長の思いと、高級路線で事業を行なうビジネスモデルだからこそ実現できることだと思います。

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投資先と、時間軸を合わせる

――どのぐらいのスピードで投資が決まるものなんですか?

うーん、これは銘柄によりますね。使ったことのあるサービスとかだったら調べなくてもわかることは多いですけど、例えば、チャームケアさんのように、使ったことのないものの場合は、行って話を聞いてみて、そこで働いている人はどういうことを考えているんだろうかとか、現場で聞かなきゃわかりません。それに社長がどういう思いで老人ホームをつくったのかとか、今抱えている課題を共有しながら、「時間軸」を合わせていきます。

――時間軸を合わせるとは?

会社が思い描く成長スピード(経営者の時間軸)と、我々が会社に期待している成長スピード(ファンドの時間軸)を合わせることが大切です。そのためにも会社の現状や課題を共有する必要があります。だから僕らは、できるだけ社長にお会いして、疑問に思ったことをぶつけてみて会社と時間軸を共有していくんです。

投資信託を購入するときも基本は同じだと思っていて、ファンドマネージャーが考えている時間軸と、お客様が考えている時間軸が違えば、短期的な基準価額の上下で「売る」ということにつながります。だからこそひふみでは「顔が見える運用」を大事にしていて、今、僕たちが何を考えていて、どんな会社に投資しているのかを、すべてのお客様に知ってほしいと思っています。

ひふみ投信の場合は組入れ銘柄の来期の営業利益率が15〜18%になるように保有比率を調整しています。「長期的には株価と利益はほぼ一致する」と考えているので、だいたい5年で2倍になるスピード感で運用をしています。

――時間軸、大切ですね。ゆくゆくはファンドマネージャーをやりたいという気持ちはありますか?

ありますね。ファンドをチームでやっているとはいえど、ファンドマネージャーから見える景色と、アナリストから見える景色は違うと思います。

僕はいずれその景色を見てみたいし、マーケティングの部署で長年仕事をしていて、自分の言葉でお客様にいいなと思ってもらって、信じてもらって、投資をしてくれた人はある一定数いると思うんです。「堅田さん、立派になって……」とか、親みたいに言ってくれたりもするんですよ(笑)。そういう人たちに対して、自分の運用成果でお返ししてみたいっていうのがありますね。

【次回】アナリストの「目のつけどころ」について

僕のような一般の人間から見て、アナリストという職業は全然イメージが湧かなかったが、実際に堅田さんのお話を聞いていくにつれて、実は企業を探すときの考え方は、自分の普段の生活や仕事にも生かせそうなこともわかった。

ということで、次回は、アナリストの「目のつけどころ」がテーマ。彼らから学べるところはどこなのか、引き続き堅田さんに話を伺います。

プロフィール:

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ライター:平野太一
1991年静岡県生まれ。関西大学経済学部卒業。2013年10月よりWantedly, Inc.に入社。CSを経て、募集要項の作成・取材・ウェブメディア「WANTEDLY JOURNAL」の執筆・撮影などを担当。2016年1月よりBAKE Inc.に入社。ウェブマガジン「CAKE.TOKYO」の編集・執筆・撮影を担当。BAKE CHEESE TARTのSNS・LINE@運用、リーフレットの撮影などを担当中。2018年10月より、Piece of cake, Inc.にnoteのディレクターとして入社。クリエイターガイドやイベント企画、クリエイターサポートなど、全方位で担当中。
Twitter : https://twitter.com/yriica
note : https://note.mu/yriica

※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。