電車で行く 海外株のトレジャーハンティング/高橋 亮(前編)
投資信託「ひふみ」のアナリストに、ビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。今回は主に海外株を調査するシニア・アナリストの高橋亮に聞きます。前編では、日本人アナリストとして、距離や言語、文化などの壁をどう乗り越えて海外企業の調査をしているのか語ります。ビジネスのヒントになりそうな情報やノウハウがたくさん出てきました。マーケティング・広報部の大酒が聞きます。
高橋 亮(たかはし りょう)
レオス・キャピタルワークス 運用部 シニア・アナリスト
2001年、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行。2004年、あおぞら銀行入行。2006年、三井住友アセットマネジメント入社(現三井住友DSアセットマネジメント)。外国株式のアナリスト業務に従事、ニューヨーク駐在を経験。2013年、朝日ライフアセットマネジメント入社、外国株式のファンドマネジメント業務に従事。2015年、New York University Stern School of Business 修了。2018年、レオス・キャピタルワークス入社。
なぜ米株に「お宝」があるのか
――海外株というと、アマゾンやGoogleといった企業をイメージしがちですが、高橋さんの見つけてくる企業は、家庭用発電機や警察で使う無線機器など、地味目な銘柄が目立ちますね。
そういう銘柄が好きです。大型株は、たくさんの投資家に見られていて、株価は適正な水準になっています。僕は企業の成長性に賭けたいので、成長余地があり、また株価の上昇余地がある中小型株を選びます。業績とともにじりじり株価が上がり、ある瞬間に市場に知られて株価が急伸するなんてことがあります。そういう「お宝」を先に発見したいと思っています。
――日本人から見れば、米国の地味な中小型株を新鮮に感じますが、現地ではどうなのでしょうか。すでに知られていて、株価が上がってしまっているということはありませんか。
時価総額が1000億円~5000億円くらいの企業の中には、市場にあまり見られず割安に放置された企業がいっぱいあります。米国の機関投資家って、運用規模が数兆円から数十兆円と、ケタ違いに大きくて、どうしても小さな企業に目が行かないのです。
日本から取材に行くと、CEOやCFOが並んで出てきたりして、すごく充実した取材ができますよ。変な話、取材されることが少ないのだなということがよく分かります。ライバルの少ないところには、お宝がたくさん眠っています。
出張は世界一周+電車
――出張は大変ではないですか。
往復する時間もお金ももったいないので、出張するときはだいたい世界一周します。太平洋を渡り米国に行き、米国内を回り、大西洋を渡って欧州に行き、ユーラシア大陸を横断してアジアを調査し日本に帰る、といったコースです。しかも1日に3社から5社を訪れます。現地に行って取材すると必ず思ってもいない発見があります。僕はそういった出会いを大切にしたいので、取材先を絞りません。距離的に取材可能な会社があれば片端からアポイントメントを入れます。
僕は電車に乗るのが好きなので、現地では電車があればそれで移動します。知らない街を電車で移動するだけで楽しいですよ。海外で休日を挟んだら、意味もなく電車に乗ります。そうやって楽しんでお宝探しができるのも、自分の強みの一つです。
――海外株を調査する上で、壁を感じることはありますか。
皆さんが想像するよりは壁は少ないと思います。まず、英語のニュースや資料はインターネット上にも、情報端末のブルームバーグにも溢れています。英語の文字情報に関しては、日本にいようが米国にいようが情報格差はほとんどないと思います。これはビジネス全般的に言えることではないでしょうか。逆に、日本企業のディープな情報は、あまり英語にはなっていないので、海外の投資家が日本を調査するのはそれなりに骨が折れると思います。
最近は主に医療機器などB to B企業を調査しているのですが、彼らは日本企業の競争相手であることが多い。すると、国内の医療機器メーカーを担当する証券会社のアナリストの中にも、結構詳しく海外企業を調べている人がいます。そうした方々とディスカッションして投資アイデアを得ることもできますね。日本語の資料も充実していて、英語を読むよりはストレスが少ない。日本語で得られる情報は日本語で得て体力を温存します。
湘南モノレールはバリュー株
――消費財などは、現地の流行の空気感のようなものを感じる必要がありそうですね。
私は前職で海外の消費財を担当したことがあります。やはり、店舗に行って売り場の配置を見たり、現地の人の会話を聞いたりすることが重要な情報になりますね。現地のテレビ番組もバカにできません。大衆の興味の最大公約数を限られた時間に押し込んでいるわけですから、情報の宝庫です。だから、消費財企業を本格的に投資対象にするなら、やはり現地駐在が必要だと考えています。勝ちにくいエリアを見極めて、体制が整うまではそこに深入りしないのも戦略です。
――海外企業の取材でどんな面白い出会いがあったのかについては後半で聞くとして、先ほど電車の話が出てきました。「乗り鉄」ですか。
そうですね。趣味は電車に乗ることです。運転免許は持っていません。おすすめは、正確には電車ではないですが湘南モノレールです。レールに電車がぶら下がる方式で、レールの上を電車が走る東京モノレールとは逆です。
湘南モノレール
http://www.shonan-monorail.co.jp/
一番前でかぶりついて景色を見ていると、まるでジェットコースターです。住宅街や渋滞する道路の上を通り抜け、山の中をすさまじいスピードで駆け抜けます。壁にぶつかりそうなほど小さいトンネルに突っ込み、抜ければ江の島の景色が広がる。JR大船駅から乗り換えて江の島まで15分ほどの短い時間ですが、子供でなくても楽しめます! その素晴らしさは、あまり知られず“放置”されている。まさにバリュー株です!(湘南モノレールの話については以下省略。どうしても気になる方は、ひふみアニュアルミーティング2019または毎月のひふみアカデミーで直接本人にご質問ください)
ひふみアニュアルミーティング2019(ひふみ投信などの保有者がご参加できます)
ひふみアカデミー
※当コメントは個人の見解であり、個別銘柄の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。また、当社運用ファンドの組入れ等を お約束するものではありません。