シャンシャン

中国インターネット企業 誇張じゃなかったモーレツ「996勤務」/韋 珊珊(前編)

はじめまして。令和の初日、5月1日にレオス・キャピタルワークスのマーケティング・広報部に新メンバーとして加入しました、大酒と申します。

実際に入社してみると、調査から帰ってきた運用部のアナリストたちが企業やビジネスのトレンドについて、社内で熱く語っている場面によく遭遇します。

みんなそれぞれにキャラクターが濃いですし、雑談でも面白くてかなり勉強になるので、せっかくなら思う存分語ってもらいたい!

ということで、ここでも「ひふみのアンテナ」と題して、連載マガジンにしてしまうことにしました。投資信託「ひふみ」の運用の裏側をレポートしていきます。

トップバッターはシニア・アナリストの韋 珊珊(ウェイ・シャンシャン)。中国企業を長く取材してきたシャンシャンには、4月の中国出張について語ってもらいました。

韋 珊珊(ウェイ シャンシャン)
レオス・キャピタルワークス 運用部 シニア・アナリスト 

2007年交換留学で中国より来日。卒業後は日系の運用会社、外資系の調査機関を経て2018年5月末にレオス入社。現在、運用部のアナリストとして企業調査や銘柄推奨を担当。面白い人や企業に出会うこと、美食を楽しむことが好き。いけばなが趣味。

ブラックすぎる!? 「996勤務」の実態とは

――今回の中国出張では、上海を拠点に15社を取材したと聞いています。

上海市内のインターネット企業と、上海郊外の比較的歴史の長いアパレル企業などを取材しました。今回の出張で興味を持っていたのは、時にブラックと言われる中国インターネット企業の労働者の実態です。都心部のインターネット企業と郊外のアパレル企業、対照的で興味深かったです。

――労働者の実態は決算の数字を見るだけではわからないですが、会社が成長していくうえで非常に重要な要素ですね。社員にやる気がなければ会社は成長しない。出張に行って収穫はありましたか。

最近、中国のインターネット企業の労働実態をめぐって「996勤務」という言葉が米ニューヨークタイムズなど欧米メディアでさかんに報道されています。朝9時に出勤し夜9時まで働く。土曜も出勤して週6勤務。1日12時間労働が週6日。こうした過酷な労働実態を表す言葉ですが、決して誇張ではないことがわかりました。

――働き方改革を進める日本とは正反対ですね。中国のIT関係の方はそんな過酷な勤務を受け入れているのですか。

取材したあるインターネット企業のIR(投資家向け広報)担当者に、「昨日は何時まで働いていたの」と尋ねると、「朝5時」と言っていました。朝5時って、もはや昨日じゃなくて今日じゃないですか! 

別の会社にも取材していくと、どうも、996はあくまで基本であり、996以上に働いている人も珍しくないようでしたね。

労働者に対してもブランド戦略

――すごいですね、どうしてそんなに働けるんでしょうか。

出張前は、労働者は疲れて暗いのではないかと思っていたのですが、そうではなかったです。元気でした。実力があれば出世することや、ストックオプションなど、分かりやすいインセンティブがあるのは確かです。

中国のニコニコ動画といわれるインターネット企業の本社の近くのローソンに入ると、陳列棚がその企業のキャラクターの形をしていたり、会社のロゴがあちこちに描かれたりしています。ブランド戦略の一環です。

中国のトップレベルのインターネット企業はブランド戦略を非常に重視しています。ブランドを築くことで、消費者に訴求するだけでなく、そこで働く労働者の自尊心を満たしているのかもしれません。

――それでも労働者側に「働かされている」という意識はないのですか。

インターネット上に不満の声はあります。しかし、会社は様々な手段でそれを克服しようとしています。たとえば、ある企業の社内の電子掲示板では、誰にでもどんなことでも質問でき、質問された人は答える義務があります。もちろん、CEOも例外ではありません。

驚くのは、CEOに対する意見や質問が活発なこと。「なぜ株価が下がっているのですか」といった質問から福利厚生の充実を訴える意見まで、容赦ありません。いい質問が表彰される制度もあります。発言の自由が担保されていて、経営に参画している実感が得られる印象でした。

経営者もオープンな雰囲気を作ることを重視しているようで、私の取材した会社は、会議室や執務スペースなどの壁はすべて透明のガラスでした。また、長時間労働ではあるけれども、社員は合理的に働いている一面があります。例えば予定さえ合えば夜の11時に会議が設定されることも珍しくありませんが、その時間までいったん遊びに出たり、家に帰ってウェブで参加したりしているそうです。

――そのあたりは、日本の高度経済成長を支えたモーレツな働き方とは少し違う感じがしますね。

そうとも言えますが、もちろん労働者の入れ替わりが激しいなど、負の面もあります。

あえて郊外で働く人たちも

――中国のインターネット企業の成長余地は大きいと思いますか。

中国のインターネット企業の収益源は、実はまだ広告がメインという企業が多いです。いわゆるSaaSのような課金モデルは多くはない印象ですね。コンテンツに定期的にお金を払う習慣が根付いていないんです。

しかし、2000年以降に生まれた「ジェネレーションZ」と呼ばれる世代は、インターネット上のコンテンツにお金を払うことに抵抗は少ないといわれています。中国のインターネット企業が課金モデルを導入し始めると、収益のアップサイドは大きいと思いますよ。

――労務の面であまりにもブラックだと、労働者が離れ、そうしたアップサイドも取れなくなるかもしれませんね。

はい。労務の面は引き続きウオッチしないとだめだと思っています。

都心部のインターネット企業と対照的だったのが、上海郊外にあるアパレル企業です。この企業も急成長しているのですが、社員はどこかのんびりしていて、同じ会社で長く働いている人が多い。日本の地方の企業のイメージに近いですね。実家から通っている社員も多く、新しく家を買う必要がないため、高い給料にこだわりがないんです。

最近、中国では大都市への人口流入が鈍化しています。北京市では2017年、20年ぶりに人口が減りました。人口集中を抑制するために政策的にそうしている部分もありますし、不動産の高騰や過酷な労働を敬遠して、あえて郊外で働く人もいるのだと思います。なので、わたしたちもアナリストとしての取材対象を、大都市の企業だけでなく郊外の企業にも広げないといけないなと感じています。

――大都市のインターネット企業だけでなく、地方にも伏兵がたくさんいるんですか。

そうだと思います。上海郊外のアパレル企業は、私が子供の頃によく親に着せてもらっていたブランドで、親しみがあったのですが、取材してみて驚きの進化を遂げていました。このあたりは、次回のインタビューで話したいと思います。

(後編に続きます!)

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