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Withコロナ時代に立ち返る古典/巣ごもり読書におススメの一冊(前編)

投資信託「ひふみ」のファンドマネージャーやアナリストにビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。今回は番外編です。

4月もあっという間に後半、もうすぐゴールデンウィークがやってきます。緊急事態宣言が出されている中ですから、レオス・キャピタルワークスの社内でも旅行をあきらめたメンバーがたくさんいます。せっかくの巣ごもりGW、ゆっくり読書して過ごすのも手でしょう。

そこで今回はアナリストら運用部メンバーの13人に、おススメの本を聞いてみました。3回に分けてお届けします。聞き手は、マーケティング・広報部の大酒です。

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前編は、「古典」がテーマです。

レオスでも原則として在宅勤務となり、家にいる時間が増えています。窓から見える景色や、ランチ時の近所の料理の香りなど、今まで意識しなかった風景に気づくようになりました。一方、「コロナ離婚」という新語が生まれるなど、一日中、家族が家の中にこもって過ごすことでの摩擦も生じているようです。身をもって世界の劇的な変化を感じる今、古典に立ち返ることでたくさんの示唆を得られるかもしれません。

病床から子規が見た景色にハッとする

ひふみ投信のファンドマネージャー、藤野英人がおススメする本がこちら。

藤野さん

『仰臥漫録(ぎょうがまんろく)』
正岡子規著
(角川ソフィア文庫)

正岡子規の闘病日誌。自宅で寝ながら、俳句を詠んだりデッサンを描いたりした絵日記のようなものです。巣ごもり生活をしながら、心は無限の宇宙の中で自由自在に飛び回っていました。もちろん病気の苦しみや近親者に対する八つ当たりのようなものも見られますが、在宅ワークをしながら日々過ごしている私たちの生活と重なるところがあって、面白いですよ。

新聞連載された『墨汁一滴』などと違い、公開を前提としない“絵日記”です。子規という俳句の天才が吐露する、作為のない本音がいちいち面白い本。同じ時代を生きた随筆家の寺田寅彦は「死生の境に出入する大患と、なんらかの点において非凡な人間との偶然な結合によってのみ始めて生じうる文辞の宝玉」として、電車の中で読むと「暑さを忘れ距離を忘れることができる」と書いています。

興味をそそられるのが、事細かに記録された食事内容。
「朝 ヌク飯三ワン 佃煮ツクダニ 梅干ウメボシ 牛乳一合ココア入リ……」

不要不急の外出ができない巣ごもり生活の中で、子規と同様に食事がいつもより楽しみになった人も多いのでは?

「牛乳一合がココア入りであるか紅茶入りであるかが重大な問題である。それは政友会が内閣をとるか憲政会が内閣をとるかよりははるかに重大な問題である」(寺田寅彦)。そんな中で、時折さしはさまれる息を呑むような子規の美しい俳句。病床から子規が見た景色がそのまま目に浮かびます。

秋の燈の 糸瓜の尻に 映りけり 正岡子規

カフカに学ぶ、前例のない状況に立ち向かう姿勢

4月から新しく運用部メンバー入りした多田憲介も、子規と同世代の1800年代後半から1900年代前半を生きた作家カフカの本を挙げました。学生時代に出会ったこの本を10年ぶりに読み返し「足元のような "unprecedented" (前例のない)事態下では、古典的な文学から得られる示唆が大きい」と感じたと言います。

多田さん

『変身』
フランツ・カフカ著
(角川文庫)

「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた」と始まります。主人公グレゴールの虫への「変身」をきっかけに家族内の立場が逆転していきます。老い込んでいた父親が大黒柱に返り咲き別人のように威勢よく振舞ったり、役立たずと思われていた妹が「虫」の世話役として頼られる存在になったりと、社会的関係に依存する人間のアイデンティティの相対性が描かれています。

足元の市場環境下で、「Afterコロナ」の世界では幸にも不幸にも社会的立場が大きく変わる人が続出するのではと感じています。また、物語は全てザムザ家の自宅内で語られるのですが、グレゴールの職場の支配人が家に押しかけてきたり、父親が家の中で「紺色の制服」・「制帽」を身に着けたりしていて、「家」と「職場」の物理的境界線が越境されている。こんなところも、妙にリモートワーク時代の今の状況と似ている気がします。

ダーウィンの進化論から「変化」の本質を知る

カフカから少し時代をさかのぼり、1800年代半ばに活躍したダーウィンの『種の起源』を挙げたのは、パートナー営業部から経済調査室に異動し三宅一弘に“弟子入り”した橋本裕一です。

橋本さん

『超訳 種の起源』
チャールズ・ダーウィン著/夏目大訳
(技術評論社)

ダーウィンの『種の起源』をやさしく理解できる本です。環境に合う特徴をもった個体が「自然から選ばれている」という自然選択の考え方を中心に、進化論のエッセンスに触れられます。進化というのは必ずしも高度化・複雑化するわけではありません。例えばモグラ(目が退化)やダチョウ(翼が退化)のような例もあります。

また、絶滅せずに生き続けるには、必ずしも「完全」である必要はなく、他の競争相手に比べて「まし」であればよいのです。新型コロナウイルスのパンデミックで始まった変化のなかで、今後どのようなモノやコト、人や企業が環境により選択され、次の時代に生存しているのか? 思索にふけるうえでのヒントをもらえる気がします。

   中編はこちら↓

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ちなみに、当社では月次の運用レポート「ひふみのあゆみ」を毎月ホームページにアップしています。他社にない特徴の一つは、運用部メンバーが共通のトピックについてコメントするコーナーがあること。どんな人がどんな考えでお客様のお金を運用しているのか、少しでもご理解いただきたいと考えているからです。今回はGWに向けた運用部コメント“番外編”として、おススメの本を聞き、3回にわたってnoteにて紹介していきます。

過去の ひふみのあゆみ はこちら↓

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※当記事のコメントは、個人の見解であり、市場動向や個別銘柄の将来の結果をお約束するものではありません。ならびに、当社運用ファンドへの組み入れ等をお約束するものではなく、また、金融商品等の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。

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