シャンシャン_後編

中国アパレルの倉庫にはロボットがゾロゾロ…⁉︎/韋 珊珊(後編)

投資信託「ひふみ」のアナリストにビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」

前編に引き続き、シニア・アナリスト韋珊珊(ウェイ・シャンシャン)に中国出張で見つけたトレンドについて語ってもらいます。

聞き手はマーケティング・広報部の大酒です。

子供の頃から馴染みのあるアパレルに念願の取材

――今回の出張、どうしても取材したい企業があったそうですね。

私が子供のころに着ていた服のメーカーですね。メールで取材のお願いをしても無視されたので、3回くらい電話をして取材を入れてもらいました。「日本から行きますのでお願いです!」って。

その会社、上海の郊外にあるのですが、取材当日にはクルマが故障して、取材先に到着したのがアポイントの15分前。私の中国出張の楽しみは食事なんですが、その時は時間がなくてサンドイッチを急いで食べて取材に臨みました。

――どうしてそんなに取材したかったんですか。

中国の消費財メーカーの今を象徴するような企業だからです。中国の消費財メーカーの今を読み解くポイントは「ブランド化」と「テクノロジーの導入」だと思います。この2つが同時並行で進行しているところに、中国の消費財メーカーの面白さがあると思います。

――ブランド化とは価格帯を上げることですか。

脱OEM、つまり日本や欧米メーカーの下請け工場から脱皮し、自社ブランドを確立するということです。それにはデザインや機能など付加価値の提供も含まれます。今回取材した会社は、過去はOEM企業でしたが、今はすべて自社ブランド服を生産しています。中国人であれば誰もが知っているブランドです。品質が向上したのはもちろんですが、自社ブランドが育ったのには「時間」の要素も大きいですね。

消費者の商品に対するアタッチメント(愛着)の積み重ねがブランド力になるわけですが、アタッチメントを育てるのは時間です。時間がストーリーを生み、歴史となり、人々がアタッチメントを感じます。1980年代に進んだ改革開放でたくさんの企業が生まれましたが、それから40年ほどたち、まさに地場ブランドが生まれてくる時期だと言えます。

――ブランドと聞くと欧州の高級ブランドをイメージするのですが、中国におけるブランド力とはどのようなものなのでしょうか。

世界的な高級ブランドと比べると、まだまだですね。このアパレルメーカーのブランドは中国では認知されているけれど、高級ブランドというイメージはありません。ブランド力や品質に格差があるからこそ、中国人は海外旅行先で爆買をいする。そういった意味で、まだ中国の消費財企業は需要を取り逃がしていますね。これから少しずつ時間をかけてブランド力が上がっていくと、海外に逃げている需要を取り込めると考えています。将来、中国人は海外での爆買いから、サービスや異文化の体験に目を向けるのではないでしょうか。

「昨日の消費者」がロボットに指令を出す

――そのブランド化と、テック化が同時並行していることについて教えてください。

自社ブランド商品を売るということは、下請け工場よりも消費者に近いですね。今回、アパレルメーカーの倉庫を見学させていただいたのですが、人はまばらでした。その代わり、たくさんのロボットが黙々と作業していました。大型のお掃除ロボットのようなロボット(AGV)など、いろんな種類のロボットがゾロゾロと並んで、ラックを運んでいます。

そして、ロボットに指令を出しているのは「昨日の消費者」です

――「昨日の消費者」?

そうです。昨日の店舗での売り上げをプログラムが吸い上げて、売れ筋の順に出しやすいように在庫を並べ替えるわけです。売れ筋のデータ分析だけでなく、棚を移動させるという物理的作業まで自動化しているわけです。

気温や流行による売れ行きの変動に対応でき、ニーズを取り逃がさないし、売れ残りによる値引きの問題も大きく改善しました。無駄な在庫を持たないため、お金に余裕ができて成長分野への投資判断も早くなります。工場内のピッキングに従事する人は3分の1になったそうですから、人件費の削減効果も大きいですね。

――私も2年ほど前にいくつか国内のアパレルの物流倉庫を見学しましたが、パートタイムの方が作業していて、ロボットはなかったです。ロボットってそんなに簡単に導入できるのですか。

もちろん、どこにどう在庫を動かすのか、ロボットに適した導線を見つけ出すなどトライ&エラーはあると思います。しかしロボットが在庫を運ぶという作業には、部品の製造ロボットのような精密さが不要なので、その気になれば導入が早いです。ロボットとシステムを納入しているのは中国地場の企業であり、日本のメーカーではありません。

中国企業のロボットの取り入れ方は貪欲です。製造業の労働者1万人あたりのロボット導入台数は、世界平均85台に対し、中国は97台。3年で3倍にも増えています。中国企業の生産性はまだ伸びると思います。

ブランド重視とテクノロジーの導入が同時並行するという現象は、中長期で中国の消費財メーカーを大きく変えていくのではないでしょうか。

中国はまだまだ時間をかけて成長する

――ちなみに、現地の経営者は、米中貿易摩擦の心配はしていなかったですか。

訪れたのは4月でしたので、皆さん楽観的でしたね。トランプ米大統領のツイッターには驚いたのではないでしょうか。景気が冷え込むと、アパレルのような内需企業も打撃を受けるかもしれません。

ただ、ここから中国が日本のように失われた20年の道を歩むとは思えません。GDPは米国に次ぐ世界2位ですが、1人当たりGDPは70位前後。中国は人口が多いので1人当たりで分析することが重要です。1人あたりのポテンシャルは大きいから、時間をかけて成長すると思いますよ。

***

(インタビューを終えて)
アパレル企業の倉庫の話を聞きながら、ファーウェイのキャンパスの逸話を思い出しました。ファーウェイはマスコミ関係者らを対象に時々キャンパスツアーを実施しているのですが、キャンパス内の池で黒鳥が泳いでいることに驚く参加者が多いのだそうです。同社の2015年度アニュアルレポートで、郭平・輪番CEOは「失敗に対しても寛容になり、新たなブレークスルーを追い求めなければなりません。予測不能でインパクトが大きいブラック・スワン(不確実な出来事)が必然的に出現します。しかし、ファーウェイはこうした出来事にも対処できるように最善を尽くし、ブラック・スワンを自分達の池で泳がせることができるようにする必要があります」と述べています。リスクがあっても、変化をいとわない。新しいものを常に取り入れる努力をする、ということでしょうか。ロボットがゾロゾロ動いているアパレルの倉庫は、そんな中国のビジネスを象徴しているように感じました。
米国による関税引き上げ、ファーウェイ製品の事実上の禁輸措置と、岐路に立つ中国ですが、復活を遂げることができるのか、興味深く今後の動きに注目したいと思います。

ちなみに、ランチにサンドイッチしか食べられなかったシャンシャンさんはその夜、ファーウェイの友人と豪華な中華料理を堪能して体力を復活させたそうです。中華料理のおいしさも、中国の底力の秘訣なのでしょうか。

◎当コメントは個人の見解であり、個別銘柄の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。また、当社ファンドの組入れ等をお約束するものではありません。

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ひふみラボ note

投資信託「ひふみ」を運用するレオス・キャピタルワークスの公式noteです。ちょっととっつきにくいと思われがちな「投資」のこと、「お金」のこと。本当の楽しさ、おもしろさを伝えたくて、あれこれ研究していきます。金融商品取引法に基づく表示 https://bit.ly/2On4z9V

アナリストが見つけたビジネストレンド ひふみのアンテナ

日々、ビジネスの現場を歩いて取材、分析するのがアナリストの仕事。社内で彼らの雑談に耳を傾けていると、世の中の新しい流れが見えてきます。アナリストたちが独自のアンテナでキャッチしたネタを大いに語ってもらおうという連載です。