「儲け」の根源を探ってみたら、「愛」だった/栗岡大介(前編)
投資信託「ひふみ」のアナリストにビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。今回はレオス・キャピタルワークスの中でも飛び抜けて熱いパッションを持つアナリスト、栗岡大介に「ビジネスや投資で儲けること」の本質を聞きます。
聞き手はマーケティング・広報部の大酒です。最初に、私が前職の新聞記者時代から「気になっていたこと」を栗岡アナリストにぶつけてみました。
栗岡 大介(くりおか だいすけ)
レオス・キャピタルワークス 運用部 シニア・アナリスト
高校3年の時にバッファロー牧場へ1年間ホームステイしたことをきっかけに、ニューヨーク州立大学へ。在学中は、韓国やドミニカ共和国への留学も経験したほか、 内閣府主催の国際交流イベントのコーディネーターも務める。卒業後は岡三証券に入社。機関投資家向け営業でトップセールスに。
2013年3月にレオス・キャピタルワークスに入社、アナリストとして運用部に配属。強みは足を使ったリサーチのほか、日常の変化をマーケットに落とし込むこと。また、両親が画家ということもあり写真、絵を描くこと、料理、陶芸など趣味は多岐にわたる。
栗岡アナリストの印象深い質問
――私が栗岡アナリストを初めて見たのは、2013年ごろ。アベノミクスの初期、日本瓦斯(ニチガス)の決算説明会でした。当時、私は前職で新聞記者として参加していました。
こう言っては失礼だけど、あの頃はあまり知られていないような小さな地味な企業でしょう。
――ニチガスの和田眞治社長に対する栗岡さんの質問が、強烈に印象に残りました。「まだ古い習慣の残るガス業界を、このスピード感で改革して会社を成長させていく、そのパッションはどこから来るのですか?」と、大勢の市場関係者が出席する決算説明会で質問していました。決算説明会って、細かな数字のことを聞く場という印象があったので「レオスには面白い人がいるんだな」と思っていたんですよ。
その時、社長は何て答えてましたっけ?
――すごく大きな声で、「この業界は理路整然と間違っていることがたくさんある! だから、理路整然と正しいことをしたらそれでいいんです!」と答えていましたね。
ああ、社長はそう言いそう(笑)。あの頃の株価って1000円くらいでしたけど、どんどん成長して一時は6000円も超えて。当時とは比べ物にならないくらい認知度も上がって、“ニチガス”と言えば出川哲郎さんを起用したCMを思い出す人も多いんじゃないかな。
――あの社長とタイプが似ているのが、埼玉にある物流会社、丸和運輸機関ですね。ワーワーと大声でしゃべって、理念をとうとうと語る。
和佐見勝社長。だって人生賭けてやっているもの。彼らの世界って生きるか死ぬかの世界に近いから。僕は面談するたびにエネルギーをもらっていますよ。
――「桃太郎便」のサービスを展開している丸和運輸機関がアマゾン・ドット・コムの都内の配送を一部担当することになった時、いろんなアナリストはすごく心配していました。大手陸運会社が儲からずに撤退したのに、なんでアナタのところが儲かるのって。決算説明会でもそんな質問が出て、社長は「大きな案件を取って、会社が大きくなっていく時こそ、コストの管理を厳格にしないといけないんです! 売り上げが伸びていく瞬間は、頭の中が売り上げのことでいっぱいになるけれど、それじゃダメ。そんな時こそ、絶対的にコストを見ていかないとダメ!」と大声で答えていました。
そう、当たり前のことなんだけれど、ちゃんとできる会社って案外少ない。結局あそこも株価は2年で3倍くらいになった。やっぱり人を見るのはすごく大切だと思いますね。
(栗岡アナリストは色鉛筆で絵を描きながら会話をする。スケッチブックにはグルグルと解読不能な丸が描かれていた)
「儲け」は源氏物語に学ぶ
――「人を見る」とのことなんですが、栗岡さんは、会社を分析するときは、人のどこを見ているんですか?
「愛」ですね。
――え……!愛ですか。
ちょっと先に『源氏物語』の話をしてもいいですか? 源氏物語の第一巻の桐壷に「まうけの君」という人物が出てくる。母親である桐壷が、深い愛を注いで育てた結果、まうけの君は光の君になるんです。つまりその人こそ光源氏。まうけの君は、漢字で書くと『儲けの君』。一説によると、これが「儲け」という言葉の語源になっている。
愛情深く、長い目で人を育て、その人の可能性を引き出すことが、儲けにつながる。だから、社長がどんな愛を持っているかが何よりも大切だし、そこに投資しようという僕だって愛をもって長い目で企業を見ていきたいと思っていますね。結局はそれが儲けにつながるから。
――なるほど。企業の持っている「愛」を、どうやって見つけているんですか。
シンプルに「Why」、「How」、「What」の順番で考えます。「Why」、つまりなぜその企業が存在するのか。社会は常に課題を抱えている。課題を解決するのが企業だよね。企業が、課題を明確に定義し、自らの存在意義を理解しているかどうか、言い換えれば、ビジョンが明確かどうかを見極める。
その次に「How」、つまり課題をどう解決しようとしているのか、どう行動しているのか。そして最後に「What」。どのような商品、サービスで課題を解決するのか。この3つの視点で企業を観察する。
でも多くの人は、まずは「What」に興味を持つんですよ。その企業の商品はどんなものなのかに関心を向けるのはもちろん当たり前のことだけれど、それでは企業の愛まで見えてこない。愛の深さを見るには、「Why」から考えないとダメだと思う。何かに対する愛が、課題を解決したいという気持ちにつながるんだから。
――だからニチガスの社長にもまず「そのパッションはどこから来るのですか?」と聞いていたんですね。愛はどこにあるのか、と。
そう、それは一貫してます。社長が強い愛を持っている会社はなんだかんだでしぶとい。だからそこをまず確認するわけです。
株式市場に対する愛
――そうなると、栗岡さんは何を「愛」して日々働いているんですか?
きょう着ている法被には『取引所』って書いてあるんだけど、僕の株式市場に対する「愛」を示そうと思って。
(「ちょっと外に出よう」とお気に入りの日本証券取引所オリジナル法被を着て街を闊歩する栗岡アナリスト。歩くスピードがめちゃくちゃ速い)
僕たちレオス・キャピタルワークスという会社の「Why」は、「資本市場を通じて社会に貢献します」という経営理念そのものですよ。レオスには、株式市場への愛がある。投資が怖い人と感じる人が日本には多いけど、そんな人にも安心して投資してもらう、お金を預けてもらおう、と。
それをどのように(How)実現しようか、となったときに、投資信託の業界に「ひふみ」というブランドを作って、僕たちの顔を見せて、いわゆる「コミュニティ」にしようとしたんですよね。資産形成に関心の深い人、日本の未来に対して希望を持つ人が集まる「場」を作る。それはインターネット上であったり、オフラインのセミナーだったり。それから、具体的にどんな商品でそれを実現したか(What)というところで、商品としての投資信託「ひふみ投信」や「ひふみプラス」がある。
僕自身の「Why」は何かというと「人の可能性を探ること」。人の可能性を発見するために、僕は存在しているのだと思っています。じゃあどうすれば、人の可能性を発見できるのか。つまり「How」は、色々な人に会うこと。僕は仕事もそうでないものも関係なく常に人と会っているから、もうこの際、自宅の一階は社交場にしてしまおう、と。夜な夜な、人を呼んであれこれ未来のことを語っています。「What」は、アナリストという職業だけど、それがありきというわけではないってことなんですよね。
(栗岡アナリストの自宅1階の社交場には、若手経営者や芸術家が集まる)
――レオスのアナリストという「What」のインタビューから始まったのではわからない、多層的な話が聞けました。いつもの「ひふみのアンテナ」の趣旨とは大きくズレたかんじがしますが……まあいいです(笑)。後編では、栗岡アナリストのルーツに迫ろうと思います
◎当コメントは個人の見解であり、個別銘柄の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。また、当社ファンドの組入れ等をお約束するものではありません。