「IPO職人」が語る! 新規上場する経営者たちの素顔とは/ファンドマネージャー 渡邉庄太(前編)
投資信託「ひふみ」のアナリストに、ビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。今回は新規上場(IPO)企業の調査経験が豊富な運用部長の渡邉庄太に聞きます。
ひふみはIPO企業にも積極的に投資をしていますが、その調査は「IPO職人」とも言われる渡邉が主導しています。株式市場にデビューする経営者はどんな人たち?どこに注目して調査している?
インタビューはマーケティング・広報部の大酒が担当します。
渡邉 庄太(わたなべ しょうた)
レオス・キャピタルワークス 運用部長
1997年、大和証券投資信託委託入社。アナリスト、ファンドマネージャーとして日本株運用を担当。2003年よりダイワSMAのプロジェクト立上げに参画後、同部門で日本中小型成長株の運用も担当。2006年、レオス・キャピタルワークス入社。2015年、レオス運用部の運用部長に就任。代表取締役社長 藤野、運用本部長湯浅とともにファンドマネージャーを務める。
エントランスにある「鐘」は何のため?
――IPOが決まった企業は「ロードショー」と言って、上場前に機関投資家のところに会社説明に行きますね。レオスではそのIPO企業がいらっしゃった時に、少し変わった迎え方をしています。
はい、レオスではIPO企業がいらっしゃった際には毎回「IPOセレモニー」というものをやっています。これは、東京証券取引所で上場日当日に行なう打鐘セレモニーの“予行演習”という位置づけです。うちのエントランスには特注で用意した「鐘」があるのですが、これを企業のトップに鳴らしてもらっています。その時は、オフィスにいるメンバーみんながエントランスに出てきて、盛大に拍手でお祝いするんですよ。僕はセレモニーの先導役をやっています。
――私自身も入社した時には驚きました。お祝いされる側の企業の方も驚いていますよね。ちょっとしたサプライズにもなっています。
驚かれる方も多いですね。これは「資本市場を通じて社会に貢献します」という理念を持つわたしたちならではのおもてなしです。上場は企業にとって記念すべき節目ですし、ステークホルダーである投資先企業を大切にしたい、という気持ちから行なっていることですね。レオスの運用部以外のメンバーにとっては、普通なかなか見られない上場企業のトップの姿を知る貴重な機会でもあります。
こういうセレモニーをやろうと思いついたのは社長の藤野で、実は、ひふみ投信がスタートするずいぶん前からやっていたことなんです。そこら辺の話も本人に掘ると面白いと思いますよ。
経営者の「業」を見る
――IPOする企業は年間100社くらいあるわけですが、渡邉さんはそのほとんど全ての企業に会っていますよね。IPO企業の場合の取材の極意のようなものはあるんですか?
そこらへんはすごくシンプルで、BeforeとAfterを考えます。「その会社が存在する前と、存在した後に社会がどう変わるのか」と考えるのが、最も重要なことだと思いますね。社会的インパクトが結果的には収益になるわけですから。
そのAfterの世界を本当に作れるのかどうかは、トップを見て判断します。業績の「業」という字は「ごう」とも読みます。その経営者の持つ「業」とはどのようなものなのか、そこに一番興味があります。
――「業」ですか! 辞書を引くと「前世の善悪の行為によって現世で受ける報い」とあります。さすがに前世を見るわけではないと思いますが、過去にどんな体験をして、どんな人間なのかを理解したいということですか?
僕がいつも聞くのが「経営者は両親にどんな影響を受けたのか」「幼い頃にどんな原体験があるのか」ということですね。例えば、経営者の親って、経営者である場合が多いんです。父親の会社が倒産して、家族が大変なことになっているのを見ていたりする人もいる。そういった原体験が体に染みついていて、父親を別の形で乗り越えてやろうと思っているとか、そんな経営者によく出会いますね。
経営者って、僕ら一般の人からすると、はかり知れない深い業を持っています。だからこそ、信じられないようなブレ方をすることもあれば、困難なことを最後までやり切ることもある。「業」には「理性によって制御できない心の動き」といった意味もあります。心の奥底の突き動かされるような業を持った経営者に、僕は投資したいと思います。
――最近の30代くらいの若い経営者にも、そんな深い業がありますか。
昔の経営者に比べると、そうでもないかもしれません。かつては、松下幸之助のように「敗戦」という強烈な原体験を持った経営者が会社を大きくし、高度経済成長を引っ張りました。最近の60歳以上の経営者は、親がビジネスで失敗したような人が多いと思います。バブル崩壊のような日本経済のターニングポイントとリンクしているのでしょう。
でも、もっと若い30代くらいの若い経営者になると、社会課題を解決したいという理念型の経営者が多いと思います。
おじさん世代からするとピュアな印象も受けるんですが、それもそれで大切なことですね。IPOまでこぎ着けるような経営者ですから、理念型とは言っても、数字を挙げなければ見向きもしてくれない厳しい現実と対峙するだけの力も持っています。おじさん連中と折り合いを付けつつ、スマートに事を進めていますね。
ウィーワークの祭りの後に
――では、最近の経営者ではなく、最近のIPO企業の特徴のようなものはありますか?
最近、米国でシェアオフィス事業のウィーワークがIPOに失敗しましたよね。日本でも米国でも、IPO企業に対する市場の目が厳しくなってきています。だからこそ、業績が芳しくない企業や危なっかしい企業が、「最後のチャンス」とばかりに急いでIPOをしているような印象を受けます。
長い金融緩和で、大手企業内部にはたくさんのお金が貯まり、そうした企業はたくさんベンチャー企業に投資しています。ベンチャーでプレゼンのうまい経営者であれば、昔ほど苦労せずにお金を調達できるようになっているんですよ。実力を伴わないまま会社が大きくなり、IPOしてくる会社が出てきています。だからこそ、僕は本物を見極めたいと思っています。「業」の深い経営者を見分けたいですね。
――後編では、IPO企業に対する最近面白かった取材のことや、渡邉の野望について聞いてみたいと思います。
※当コメントは個人の見解であり、個別銘柄の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。また、当社運用ファンドへの組入れ等をお約束するものではありません。
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