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「サザエさんのサブちゃん」が新規上場してきた理由/ファンドマネージャー 渡邉庄太(後編)

投資信託「ひふみ」のアナリストに、ビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。今回は新規上場(IPO)企業の調査経験が豊富な運用部長の渡邉庄太に聞きます。

後編では、最近面白かった取材や、個人的な野望について聞いてみたいと思います。インタビューはマーケティング・広報部の大酒が担当します。

    前編はこちら↓

いかにも儲かりそうなビジネスは儲からない

――新規上場企業の取材をしていて「この会社すごいな」とか「このビジネスモデルは儲かるな」と思うような瞬間はありますか?

実は、そういう瞬間はあまりありません。話を聞いて、いかにも成功しそうなビジネスモデルは失敗します。それは誰かがすでにやっているからです。人がいいなと思う瞬間、よく理解できたと思う瞬間って、自分がすでに知っていることを聞いた時なんですよ。だから、新規性がなくて失敗します。大企業の新事業がそうである場合が多いですね。会議で役員が納得して、GOを出す新事業というのは、すでに誰かがやっているビジネスです。

ベンチャー企業は、演繹的ではだめだと思います。いろんなところでうまくいっているビジネスだから、この企業も成功するだろう、という思考は違う。むしろ、帰納法的でないといけないんです。いろいろやってみて、なんとか軌道に乗ったものを育てるわけですね。無数の新しい試みが走り、次々と失敗し、その失敗が許されるような風土の会社がいいと思っています。成功なんてせいぜい1割。それでも上出来ですよ。成功した1割を育てれば十分会社は成り立ちます。

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“御用聞き”の残存者

――最近印象に残っている取材について、教えてください。

直近では、酒類宅配の会社がIPO前の投資家向け説明にいらっしゃいましたよ。もうすぐ創業100年を迎えるような老舗会社なのですが、現社長はトライ&エラーを重ねてきた人です。

たとえば1つの拠点が宅配するエリアを半径どれくらいにすれば最も効率的なのか、いろいろやってみて編み出したのが「半径1.2㎞」だったそうです。

街の居酒屋やバーにお酒の宅配をしつつ、店主にニーズを聞きます。漫画の「サザエさん」では、家に三河屋のサブちゃんがお酒を届けに来る場面がありますよね。まさにあのサブちゃんが、この会社です。宅配先でいろんなニーズを拾って、それに応えます。儲かるイメージがなく、IT化の時代にそんな面倒なことをやり続けている商店も会社も、東京ではあまり見かけなくなりました。

しかし、この会社はそれをやり続けている。御用聞きの残存者なわけです。ビール一本から1時間で配達する。その裏には、トライ&エラーで見つけた最適な大きさの配達エリアがあり、また、御用聞きという付加価値がある。単なる安売り業者とは違うものがあり、面白いと思いました。

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新規上場企業を見れば未来は明るい

――新しい会社をたくさん見てきた中で、日本の将来についてどんなイメージを持っていますか?

日本人は、ネガティブな面に目が行きがちですよね。日銀の金融緩和はいつまでも続かないとか、少子高齢化で先細りだとか。新しい会社を見て思うのは、マクロの経済要因ではなく、個別要因で成長する企業がたくさんあるということです。特に地味で地道な銘柄には有望なところが多い。そういう企業が出てくるうちは、まだ未来は明るいと思いますよ。

僕は高校生の頃、ぼんやりと「日本はいつまでもクルマを輸出しているだけでは立ち行かない」と思っていました。大学生になって、金融資産市場論という授業を受け、投資信託という商品があることを初めて知りました。米国や欧州では、資産運用業や投資銀行業といった金融サービスが成長していました。お金に働いてもらうビジネスです。金融に興味を持ち、幸いなことにそれを仕事にすることができました。

時代とともに新しい商品やサービスが生まれ、それを生んだ企業が利益を得ます。新陳代謝はなくなりません。

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IPO職人、渡邉の野望

――いろいろな企業経営者の野望を取材してきた渡邊さんですが、自身の野望はあるのですか?

個人的には、グーグルやアップルなどGAFAに対抗するような企業が日本から出てきてほしいし、それを応援する存在になりたいと思います。野望というより夢ですね。だから、挑戦する企業を応援し続けます。それに株を買うことだけが応援ではないと思います。僕は、その企業に投資するかしないかの判断とはまた別に、無謀に見えるような挑戦をしている経営者をとにかく応援して、支えたいと思っています。

――ちなみに、渡邉さんのような思考の深さを培うには普段はどんな本を読んでいますか?

自然科学の本を読みますね。宇宙がどうやってできたのか、宇宙が今も拡大しているとはどういうことだろうとか、純粋に不思議に思い、知りたいと思っています。もともと自然科学って位の高い人が暇つぶしに考えにふけることで進化したようなところがありますよね。暇人のやっていることってバカにできないんですよ。

(インタビューを終えて)
「このたび上場される、株式会社〇〇様です!」。渡邉の掛け声で、当社の社員がいっせいに拍手。その音に包まれながら、経営者の方は記念の鐘を鳴らしに赤じゅうたんの上を歩きます。IPOという晴れやかなイベントを前にして、“予行練習”としてレオスのメンバー一同で祝う恒例の行事です。

IPOが多いシーズンは、一日に2回、3回と赤じゅうたんの周りをレオスのメンバーが囲みます。ナビゲーターである渡邉は、この赤いじゅうたんを決して踏みません。赤じゅうたんを歩くのは上場する企業の方だけ。上場する企業に対する渡邉の敬意を感じます。企業とその経営者を厳しく観察するのが投資家の仕事でもありますが、その根底には敬意や応援したい気持ちがあるのだと思いました。(マーケティング・広報部 大酒)

※当コメントは個人の見解であり、個別銘柄の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。また、当社運用ファンドへの組入れ等を お約束するものではありません。