財布を持ち歩かないアナリストが見るキャッシュレス勝ち組の条件とは/堅田雄太(後編)
投資信託「ひふみ」のアナリストにビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。前編に引き続き、“財布を持ち歩かないアナリスト”こと堅田雄太に、キャッシュレスの未来について語ってもらいます。
前編はこちら↓
聞き手はマーケティング・広報部の大酒です。
地味な裏方が好きなアナリスト
――キャッシュレス関連企業を調査していると、自分のアナリストとしての志向が分かってきたとのことですが、どういう意味ですか。
目立たない裏方のことを調べることが好きなんですよ。キャッシュレスとひとことでいっても、クレジットカードやデビットカード、最近だと○○Payといったスマホでの決済など色々とありますが、どの決済方法であっても必ず通らなければいけないゲートウェイのようなシステムがあります。そういったシステムを開発している会社の場合、キャッシュレス比率が増えれば儲かっていきます。このように表には出てこないけど、地味に地道に儲けている会社ってたくさんあるんです。僕はそういった会社を見つけることが好きです。
今後日本は、現状で2割のキャッシュレス比率を、2025年までに4割にする目標を掲げています。これからいろんな変化があると思います。
――この前、新しいもの好きなアーリーアダプター系の友人が現金で支払っているのを見て「キャッシュレスじゃないんだね」って聞いてみました。すると「勝者が見えてきたら、キャッシュレスにする」と言っていました。
なるほど。Pay PayやLINE Payのような、スマホ決済サービスのことですね。確かに熾烈な争いをしています。テレビCMで大々的にポイント還元をアピールしています。勝ち組の決済サービスを使わないと、後で使えなくなったりするんじゃないかと心配をする気持ちはわかりますよ。
スマホ画面の下にあるアプリは何ですか
――どこが勝ち組になりそうですか。
それはまだまだ先のことで、分からないですね。自分なりの見立てはありますが。前編でもお話しした通り、スマホ決済系の会社は、2021年まで店舗から手数料を取らない。シェア拡大を優先させているわけです。サービス間の移転も初期はハードルが低く、利用頻度に応じてポイントが貯まってくればそれがハードルになっていくんじゃないかと思うので、あと2年のうちにどれだけ陣取りするかが勝負なのかもしれませんね。
――堅田アナリストの見立てはどのようなものですか。
やはり、消費者は、キャッシュレス決済サービスを使おうとすると、すでに自分のスマホに入っているアプリの決済サービスを使いたい。新たにダウンロードするのは、面倒だしスマホの容量を食うので。だから、たくさんの人のスマホにインストールされているアプリが優勢なのは当然のことです。
また店舗側から見ても、消費者の決済履歴に応じてクーポンなどを送りたいと考えます。そうすると、たくさんの人のスマホに入ったアプリで、しかも一日に何度も見るようなアプリにクーポンを送りたいな、と思いますよね。
自分のスマホ画面を見てください。一番よく使うアプリが配置された下側の4つくらいのアプリって何ですか? カレンダーとか、人によると思いますが、この位置を確保したアプリの決済サービスが優位にあると思います。
もちろん、それがどこかはまだまだ分かりません。
お金の流れと儲けの発生は別
――そういう意味では、キャッシュレス化で直接的に儲けるのは、CAFISなどの裏方の手数料商売の業者、一方で、間接的ではあるけれども広告などで本当に儲けるのはスマホ決済サービス業者というわけですね。
その通りだと思います。キャッシュレス化では、お金の流れと儲けとは別のところで発生すると考えています。お金は、CAFISなどのシステムを通過していき、その際に手数料が落とされます。もちろん決済するときに、多少はスマホ決済サービス業者にも手数料は落ちますが、それは必ずしも儲けの本丸ではないかもしれません。
一方で、スマホ決済サービス業者は、個人の決済データを握ります。キャッシュレス化が進むことで、そのデータ量は加速度的に膨らんでいきます。誰がどこで何を買ったのか。1人当たりの決済履歴×人数ですからね。日本人は比較的、インターネット通販よりも店舗での買い物が好きですから、データ量は膨大だと思います。
そうなると企業は、そこに広告を打ちたいと思うでしょう。特に、決済以外の用途で日に何度も起動するようなアプリだと、その広告はより消費者の目に留まります。ランチの支払いをスマホで済ました後、気温30度の道を歩いてオフィスに戻っていると、アイスコーヒーのクーポンがスマホに届く。ふと横を見ると、そのコーヒーショップがある。実は、そこでは去年の暑い日、何度かアイスコーヒーを買ったことがある。なんてことになるかもしれません。
広告の主役は新聞からテレビ、テレビからインターネットへと移行しましたよね。次は案外、スマホ決済サービスが広告の主役になるかもしれません。
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(インタビューを終えて)
10年以上前、フランスのシャルル・ド・ゴール空港で財布を落としました。文字通り「キャッシュレス」となり、同行した友人からお金を借りて1週間、旅しました。今でも、テレビでシャルル・ド・ゴール空港が映ると、財布が落ちていないか目を凝らします。
たしか4万円くらいの現金を落としたと思いますが、キャッシュレス化していれば、クレジットカードを止めれば被害を小さくできたと思ったものです。それ以来、堅田アナリストほどではないものの、僕も現金は必要最小限しか持ちません。
2018年のJCBのアンケート調査によると、キャッシュレス派の年間貯蓄額は平均約88万円で、現金派の3倍弱だそうです。お金を大切にしている人の方が「キャッシュレス」になるのかなと思ったりします。(マーケティング・広報部 大酒)
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