B/SとP/L、株価のつながりを観察する/佐々木 靖人(後編)
投資信託「ひふみ」のアナリストに、ビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。前半に引き続き、ひふみ投信の屋台骨ともいえるシニア・アナリスト、佐々木靖人に語ってもらいます。後半では財務諸表の見方などを聞きました。
インタビューはマーケティング・広報部の大酒が担当します。
前編はこちら↓
財務諸表は、「関係性」の「変化」を見る
――過去には初心者のお客様向けのイベントで「アナリストによる はじめての会計講座」の講師もやったこともあるそうですね。決算書(財務諸表)の見方のコツについて、教えてもらえますか?
会計がわかると投資はグッとおもしろくなるんですが、「用語が難しいし」と敬遠されてしまうことも多いです。まずは数字を使わずに図で描いて、会計を「構造」で理解してもらう、というワークショップをやったことがありましたね。
財務諸表は、企業の健全性を測る「貸借対照表(バランスシート・B/S)」と収益状況を表す「損益計算書(P/L)」、そして資金の流れを把握できる「キャッシュフロー計算書(CF)」があります。自分の場合は、まずは、貸借対照表と損益計算書、それと株価を同時に見て、ざっくりとそれらの「関係性」を把握することがポイントだと思っています。そこがすべてつながっているからです。
――関係性とはどういうことでしょうか?
基本的には企業はバランスシートの右側で資金を調達し、左側の「資産」を使って、損益計算書の売上高を上げるわけですね。その売上高からコストが引かれて利益が残ります。コストにも、固定費と変動費があります。例えば10の資産で10の売上高を上げ、5の固定費と3の変動費を払い、2が残る、という風に考えます。この関係性が、時系列でどう変わっていくのかをできるだけ長期間、観察します。これは分析ツールを使ってやっています。
――前編でも、「経営者の発言の変化に注目する」という話がありました。決算書の数字も変化にヒントがあるんですね。
前期に10の資産で10の売上高を上げていたけど、どうも今期は同じ10の資産で12くらいの売上高が出そうだ、とわかったとしますよね。それは、工場の稼働率が上がって販売数量が増えたからかもしれないし、数量は同じだけれど単価が上がったのかもしれない。数量なのか単価なのか、フォーカスすべき変化が浮かび上がります。コストも同様です。原材料費に変化があったのかもしれないし、固定費に変化があったのかもしれない。財務諸表を見て、あれ?この変化は今までと違うような気がするなと思ったら、そこを取材して聞いていきます。
最高益なのに最高値にならない理由とは?
――株価と財務諸表のつながりはどう分析しているんですか?
利益は過去最高なのに、株価は最高値ではないようなケースを考えてみます。財務諸表の変化を追うと、こうした現象の理由を探ることにつながります。設備投資して売上高を増やして利益額は過去最高になっても、一方で競争が激化して利益率としては下がっているかもしれません。そうすると、株価は伸び悩みます。取材では「利益率が下がっているのはなぜか」と聞きたくなります。理由によっては、利益率が昔のように回復する可能性も期待できます。株を買ったら儲かるかもしれません。
そうやって取材しながら、次は業界のライバルはどう考えるんだろう?ということを妄想します。仮にこの企業の株を買う列があったとしたら、あのファンドマネージャーなら並ぶかな?あのヒトはどうだろう?といった感じです。
自分たちのチームは一番なんて思っていないので、ライバルたちの動きは気になります。出来ればライバルたちよりも早く、よりよい銘柄を見つけたい。
そんなことを考えつつ、銘柄を選んでいますね。
安心を提供するのが運用部の役目
――ひふみ投信の運用に携わる中で、お客様に伝えたいことはありますか?
私は「安心」をお客様に提供できる人になりたいと思っています。国の財政とか少子高齢化とか、日本人は将来に対する不安を抱えています。その不安に運用で応えるのが私たちの役目だと思っています。だから、きちんとパフォーマンスを出さないとダメだし、また「安心を提供する」ということを忘れてお客様とコミュニケーションしてもあまり意味がないと思います。
しっかりとパフォーマンスを出すためにも、チャレンジコストを下げたいと思っています。知らないことを取材したり、勉強したりするときには、得られるもののことを考えて、まずはチャレンジしたいと思っています。チャレンジしてたくさんのものを得たほうが、結果的にはコストは少なくてすみますから。
(インタビューを終えて)
佐々木は、「運」について考えることが多いそうです。愛読書として挙げたのが、色川武大(阿佐田哲也)という雀士の『うらおもて人生録』(新潮社)。勝負に勝つには運をコントロールすることが必要で、変なところで運を使ってしまってはいけない、といったようなことを述べているそうです。勝負に勝つには、どうでもいいところで負けておいて勝ちを温存しておく、といったような意味合いだそうです。
「マーケットに対峙するモノは生き残らないとダメ。死んでは意味がない」とは、ひふみ投信の運用責任者で当社社長の藤野や、ひふみワールドの運用責任者の湯浅が口癖のように言う言葉です。佐々木もこのインタビューで「生き残ることが大切で、全勝しようとは思っていない」と語っていました。悪い時にうまく少し負けつつ、次の勝ちを待つ。そんな風なスタンスで仕事をしているとのことです。ひふみ投信の運用は11年を超え、保有期間が長い人ほど資産形成に成功する傾向にあります。(マーケティング・広報部 大酒)
※当コメントは個人の見解であり、個別銘柄の売却・購入等の行為の推奨を目的とするものではありません。また、当社運用ファンドへの組入れ等を お約束するものではありません。