ルーツはバッファロー牧場、愛からイノベーションが生まれる/栗岡大介(後編)
投資信託「ひふみ」のアナリストにビジネスや世の中の流れを語ってもらう連載、「ひふみのアンテナ」。前編に引き続き、レオス・キャピタルワークスの中でも飛び抜けて熱いパッションを持つアナリスト、栗岡大介に「ビジネスや投資で儲けること」の本質を聞きます。
聞き手はマーケティング・広報部の大酒です。後編では栗岡アナリストのルーツに迫ります。
前編はこちら↓
ネイティブ・アメリカンの教え
――前編では、投資の本質が「愛」であることを語ってもらい、その愛の見つけ方も伺いました。そんな栗岡さんのルーツを詳しく知りたくなりました。
高校生の頃に僕は米国に留学したんです。ホームステイ先はバッファロー牧場。当時は同時多発テロの後だったこともあって、米国では中東系の人に対する差別が広がっていて、ホストファザーは、その差別に憤っていたんです。バッファローはネイティブ・アメリカンの家畜として有名です。「ネイティブ・アメリカンは6世代後のことを考えて行動する」と言っていました。牛を育てるためには草、草を育てるには土。長い目で考えなければ子孫が滅んでしまう、と。だから「特定の出自や信仰の人を差別することが、6世代後の子孫に胸を張れる行動なのか」とホストファザーは考えていた。高校生の僕は、その考え方にガーンと胸を打たれて。
――栗岡さんが投資家を目指した原点はそこかもしれませんね。先のことを考える企業こそが、儲けることができる。
そう。そして、長い目で考えるには愛が必要なんだ、って。牛に対する愛、草に対する愛、子孫に対する愛。愛がないと信じて待てないですからね。
――子供の頃の夢は何だったんですか?
今の僕からは想像しにくいかもしれないけれど、体が弱くて、よく学校を休んで家の中にいました。そのせいか、遠くに行く旅へのあこがれが強かった。旅をし続けるのが夢だったんです。小学校の頃の文集を見ると、日本の各県と、そこに行った時に買う予定の名産品を事細かにリストにしていて。
今は日本全国に旅して、キラリと光る企業の株を買いにいっている。ある意味で子どもの頃の夢を実現しているのかもしれないですね。
愛を注いで結果を出す
――今、日本株にネガティブになっている人も多いですが、栗岡さんはポジティブですね。
僕は、すごくポジティブ。人や企業の可能性を長い目で見守りたいんです。
前職の証券会社で、2011年の東日本大震災の後に機関投資家向けの営業部に異動したんですけど、その時なんて日本株に対して投資家は総悲観。ライバルの証券会社の営業セクションでも、たくさん人が切られていたし。だからこそ、チャンスだと思いました。
それで、営業部のメンバーに自作の詩を書いて配ったんです。熱いでしょう(笑)。「単なるブローカー(仲介会社=証券会社)に収まるな。マーケットが死ぬ前に、俺たちが変化を起こそう』ってね。
実際、高い目標を掲げたんだけど、達成することができました。やはり日本株をセールスするのだから、日本株を知って、徹底的に好きにならなければというのが、という想いがあった。「愛を注いでこそ、結果が出る」と実感できたんです。
(栗岡アナリストが同僚に送った詩)
――栗岡さんと話すと元気になる人も多そうですね。
アベノミクスが始まって間もない2013年ごろ、地方でひふみのセミナーをしたんですよね。日本経済はまだ暗い雰囲気だったんだけど、セミナーの後でお客さんが「あなたに会えて元気が出た。頑張っている起業家や経営者がいて、日本に希望が持てた」と言ってくれて。嬉しかったなあ。
――あの、一応「ひふみのアンテナ」というこの連載は、アナリスト独自のアンテナでキャッチした最新ネタを大いに語ってもらおうというのがテーマなんですが、今回はかなり異色なかんじになりました……(笑)。とにかく、栗岡さんの目線はかなり長いんだな、と。そんな栗岡さんのアンテナが最近キャッチした、気になっていることって何でしょう?
最近、米アップルは、最高デザイン責任者を務めるジョニー・アイブ氏が2019年中に同社を退社すると発表しましたよね。それで退社後にジョニー・アイブ氏が設立するデザイン会社の社名は「LoveFrom」だということで。
かつて故スティーブ・ジョブズは、「愛からイノベーションが生まれる」と言ったんです。誰かを豊かにしたい、圧倒的な利他の心がイノベーションを起こす、と。「LoveFrom」はそこから来ている。ジョブズの信念に由来しているんだ、さすがだな、と。会うこともないかもしれない誰かを豊かにしたいという、利他の心。これこそがビジネスの神髄だと思います。
「 I stand for people who believe in change.(本気で変化しようとする人の側に立つ)」。これが僕の人生を表す言葉。座右の銘です。この信念を持って、これからも素晴らしい企業を発掘して投資したいと思っています。
――栗岡アナリスト、最後までブレないスタンスでした!
(連載の趣旨には関係なく、本質と未来を語り続ける栗岡アナリスト)
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(インタビューを終えて)
前編で埼玉の中堅陸運会社、丸和運輸機関の話題が出たとき、同社の社員ハンドブックのことを思い出しました。キャラクターである桃太郎をあしらった手のひら大の冊子です。経営理念やら社歌、心構えが書き込まれているのですが、その中の一節に「売上から、あらかじめ利益を取り除いて、そのあとで費用の計画を作る。これこそが管理会計」といったような趣旨の記載がありました。実に本質的です。
オーナー企業で、情熱的に目標に向かってまっしぐらに走っていくトップはたくさんいますが、会社を成長させるトップは、大雑把に見えて(実際に細かいことは気にしないのですが)、どこかでしっかり本質的なグリップを握っている印象があります。
サザンオールスターズの名曲に「恋という字にゃ下心」とありますが、下心だけでは愛に到達できないのだと、栗岡さんのビジネスの本質の話を聞いてあらためて感じた次第です。(マーケティング・広報部 大酒)
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