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【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝

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第14回山本七平賞を受賞され、100年経営の会顧問や、日本将棋連盟アドバイザーなど、多方面でご活躍されている作家・北康利先生による新連載企画です。 日本林学の父、公園の父と呼ば… もっと読む
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2022年7月の記事一覧

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #66

前回はこちら↓ 第五章 人生即努力、努力即幸福 (12) 職業の道楽化静六は〝計画はいかにそれが上出来であっても、計画にとどまるうちは無価値である〟と語っているが、見事なくらい二五歳の時に立てた人生計画通りに生きてきた。 実はそこには秘訣があったのだ。あくまでも楽しくやることである。 計画を立てるだけでなく、時折振り返り、計画通りかどうか一喜一憂しながら、それをまるでゲームのように楽しみながら生きていた。楽しくなければ長続きはしない。続けることが大きな成果につながる。これこ

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #67

前回はこちら↓ 第五章 人生即努力、努力即幸福 (13) 四分の一天引き貯金余話静六の家族にしても弟子たちにしても、静六の没後、いの一番に彼の思い出としてあがるのが四分の一天引き貯金にまつわる苦労話であった。 この話が出ると彼らの表情はきらきらし、自分がいかにこれで苦労したかをとうとうと披露し合う。するとそこになんともいえない一体感が生まれ、皆うんうんとうなずきながら故人を偲ぶというのが常であった。 銓子は見事耐え抜いたが、大変だったのが彼を学問の師と仰ぐ弟子とその奥方だ。

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #68

前回はこちら↓ 最終章 若者にエールを送り続けて (1) 優秀な子や孫たち 静六の人生は順風満帆、向かうところ敵なしの快進撃のように見える。しかし人生に哀しみの翳(かげ)を持たない人間などいない。彼もまたそうであった。 人生で最大の不幸の一つは、わが子を失うことだろう。三男四女をもうけた本多夫妻だったが、次女の美祢子を数え三歳で、次男の武を数え五歳で亡くし、おそらく日露戦争勃発の月に生まれたので勝と名付けられたであろう三男も、一旦は關(せき)イシという人のところに養子に出た

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #69

前回はこちら↓ 最終章 若者にエールを送り続けて (2) 本多静六博士奨学金制度 四分の一天引き貯金を始めて三五年が経過した六〇歳頃には、貯金、株式等の他に山林が一万町歩余り、貸家を含む住宅と別荘六ヵ所という、現在価値にして五〇〇億円は下らないであろう資産を形成するに至った。 だが物事は度をすぎると必ずそこに問題が生じてくる。 そもそも財産が一〇〇兆円にもなるかと言えばそうは問屋が卸さない。どんな国でも、その国の富を少人数の手に握らせておくようなことは許さないからだ。彼

【北康利連載】若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝 #70

前回はこちら↓ 最終章 若者にエールを送り続けて (3) 晴耕雨読の楽隠居 昭和の初め頃から、戦時色が日に日に濃くなっていく。 そして昭和一六年(一九四一)一二月八日、ついに太平洋戦争の火蓋が切られた。 有名な〝欲しがりません勝つまでは〟という標語は、昭和一七年(一九四二)に大東亜戦争開戦一周年を記念し、「国民決意の標語」として大政翼賛会と新聞社が募集した三二万点のうちの入選作である。 資源の少ないわが国では、開戦と同時に極度の耐乏生活が求められていた。 そこで軍部は静