「若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝」著者・レオスメンバー座談会 (4)
前回(第3回座談会)はこちら↓
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本編
――今回も第4回座談会にご参加いただきましてありがとうございます。参加者は前回と同じく本連載の作者である北康利先生、レオス・キャピタルワークス株式戦略部のシニア・ファンドマネージャー八尾 尚志、シニア・アナリスト小野 頌太郎の3名でお送りいたします。
第三章までは静六の家庭環境や成長の過程にスポットが当てられていましたが、第四章では大学を卒業して社会人となり、いよいよ様々な社会実装を進めていきます。その中で特に意識されたものはありますか。
北先生:この本多静六伝を通して一貫しているテーマ「人生や社会に〝永遠の森〟を創る」ということを第四章では特に意識して執筆しました。「緑の力で国を支える」という第四章のタイトルにもあるように、例えば、木材を切り出してそれを売って終わりではなく、33話の防雪林、39話の奥多摩水源林、52話の明治神宮の森といった、持続可能な形で国を支えることができる「永遠の森」の創り方をお伝えすることが第四章全体の狙いでもありました。
私自身、林業の本を読んでいくうちに分かってきたことがあります。19話のターラント山林学校が設立された理由は、近代化で木材不足になったため、合理的に木材を算出する方法を学問として学び、近代的な林業を整備するためでした。高く売れる木を育て、林道を整備して、伐採時期になったらスムーズに林道を通って搬出できる仕組みを作る、徹底した効率主義が「ターラント林学」です。しかし、高く売れるからといって同じ木ばかり植えていると、一つの感染症が広まることで林が全滅してしまうこともあります。そこで生まれたのが、その土地に適した木を選定し、その地の自然に極力環境を近づけ、健康的な木が育つ恒続林的な考え方である「ミュンヘン林学」です。
静六は、まずターラント林学を勉強しながらミュンヘン林学に近づけていったのではないかと思います。
小野:私たちが現在目にしているような持続可能な森林の完成形を、静六が当時イメージすることができたのは、長期的な目線を備える林学者ならではだと思います。静六は山林や株式などにも投資していたようですが、北先生が様々な資料を探っていかれる中で、静六独自の投資スタイルや哲学のようなものは感じられましたか。
北先生:投資にまつわる静六の一貫した哲学として、“次世代に対する温かい目“があったと思います。静六の故郷・埼玉にある氷川公園(現・大宮公園)は1885年に開園しましたが、当時は料亭や遊郭が氷川公園の3分の2を占めていて幅広い世代の人が訪ねやすい公園とは言い難い状態でした。そこで静六は、すべての世代が楽しむ公園にすべきと1921年に「氷川公園改良計画」を策定します。埼玉県に働きかけて風俗営業ができないよう条例改正をし、一番最初にできたのが児童公園でした。静六は子どもたちも安心して遊ぶ公園にしたわけです。
ドイツ留学時代に仕送りがなくなった(24話参照)ことも影響していると思いますが、静六は石橋を叩いて渡るタイプで、今もよく言われる財産三分法をすでに提唱しています。明治期はかなりの銀行が倒産しましたが、静六は倒産しない郵便貯金で貯蓄を続け、当時の高い預金金利を活用します。そうして作った種銭で、確かな成長余地があった日本鉄道株や、故郷の隣町だった秩父山林も開発を見込んで購入しています。500社以上の会社に関わった渋沢栄一と懇意にしていたことも成功のカギだったのでしょう。
今は預金金利も低いため貯蓄だけでは十分ではなく、投資信託や株式などへ長期につみたて投資をすることが重要です。加えて、自分のできる範囲で、情報感度の高い人にアクセスすることも大切です。レオスの藤野英人さんは業界の最先端の人々と毎日のように接していますよね。日頃からアンテナを高くすることの重要性も、第四章のメッセージです。
小野:静六の石橋を叩いて渡る慎重さから学ぶことは多いですね。時節を待つ、タイミングが重要ということは、静六の自説の中で何度も言っていました。個人投資家の一番の良いところは「待つこと」ができることですよね。職業投資家は基本的に投資を続けなければなりませんが、その中でもひふみシリーズは現金比率を上げて「待つこと」ができます。
北先生:小野さんがおっしゃった通り、「休むも相場」という相場の格言がありますが、静六はそれが実にできた人だなと思います。日露戦争の頃、相場が過熱して一気に下落したことありました。その中で静六は財務状況が脆弱だった私鉄株には手を出さなかったのはさすがだと思います。
――八尾さんは第四章を通してどのようなことを感じましたか。
八尾:本多静六伝を読んでいると発散的思考(様々な方向に思考が働くことによって、多様な発想を生み出すこと)になりますね。静六がターラント林学からミュンヘン林学を学んで、日本各地の緑化運動を進めていったにも関わらず、現在の日本林業が産業として隆盛といえないのは非常に残念だなと思います。
また、静六が財務状況の悪い会社には投資しなかったように、長期で投資すれば何でも良いというわけではないと、つくづく思いました。
北先生:私は、日本の林業はこれから進化していくのではないかと考えています。伊勢神宮には式年遷宮に必要な木材を自給自足するための広大な神宮林があり、長期間にわたり神社を維持し続けることが可能なシステムがあります。さらに都心部の気温を下げるために効率的に公園を設置する取り組みなども見られ、快適な環境を持続するための林業や植林の研究レベルは日々向上しています。
後半の投資に関してですが、確かに何でも長期でやればいいわけではないですね。先ほど「休むも相場」という格言に触れましたが、投資もビジネスも、失敗する可能性はもちろんあります。静六も水源林で失敗していますが、私財を投じて挽回しています。失敗することも、長期的な人生という投資、「永遠の森」を創るプロジェクトには必要なこと。何もしないことが一番アカンのです。「失われた20年」以上に、何も考えていない不幸な状態を今の我々は経験しているのではないでしょうか。
八尾:静六は単に森林を開発して終わりではなく、そこから収益を上げて一つの事業として持続可能な形で活用していますね。私たちひふみシリーズの運用者の立場でいうと、多くの会社を調査して知識を得て満足して終わりではなく、リスクを取ってポジションを取って、リターンをお客様に還元することで初めて存在価値があると思っています。今の私たちの時代ではそれが投資家のコンセンサスになっていますが、明治の頃にそのような感覚を持っていた静六を尊敬します。
――余談ですが、北先生は当社が運用するひふみシリーズにも投資していただいているんですよね。
北先生:はい、ひふみシリーズへの投資は、リターンを得る目的だけではなく、プロが目利きした成長企業に投資ができるという、社会的な意義も大きいと思います。
相場全体が下落するとどうしても足元のパフォーマンスは悪化しますが、そうした時にもしっかりと状況を説明いただくことが安心感につながっています。
静六のプロジェクトも常に順調だったわけではありません。全ての世代が楽しめて、かつ自然に親しめて、歴史も感じられる、その土地の風土に合った公園を創るという説明を尽くすことで、周囲を納得させていました。今でいうと、コンセプトや経営理念とでも言いましょうか。静六にはコンセプトが明確にあったため、次第に周囲の信頼も増していったわけです。
八尾:私たちも日々運用しているなかで、全ての保有銘柄で成功できているわけではありません。そもそも数百社に投資をしているので、1社や2社の失敗でへこたれているわけにはいきませんが、それでも失敗しそうな時に、いかに先入観を持たずに意見を変えられるか、謙虚に判断できるかが大事だと思います。その時の状況を都度お客様に対して冷静にご説明しています。
北先生:ひふみの強さは実際に運用している人が顔を出していて、直接セミナーで質問できることですよね。顔を出すということはそれだけ責任を負うわけで、普通は顔を出したくない人の方が多いですよね(笑)。だからこそが顔が見える運用が安心感や強さにつながる。
51回で登場しましたが、静六が戦前に由布院温泉で行った演説を、初代町長が覚えており、まさに日本のバーデン・バーデンを目指していくわけです。歓楽街やネオンをなくし、針葉樹以外にモミジを植え、町全体がホッとする空間を目指した結果、世界に冠たる湯布院温泉が出来上がったのです。私自身もそういう講演をしたいなぁと、「由布院の演説」を目指していきたいと思っています。
第四章では静六が緑の力で国を支える話を中心に書きました。国を支えて自分の生活も支えて、資産家になっていく。これまで蓄積したものを展開、発散し永遠の森を創っていきました。読者の方々には、それぞれ皆さんが持っている力で、永遠の森を創ることに重ねていただければ嬉しいですね。
――いよいよ次の第五章に突入しますが、どのような展開になるのでしょうか。
本編で度々登場する渋沢栄一は、「人間の値打ちとは晩年の過ごし方にある」という言葉を残していますが、第五章ではまさに静六の晩年の過ごし方を紹介していきます。
静六は自身の子どもたちにある程度の財産を分けた後、残りのほとんどの資産を埼玉県の育英資金に寄付するんですね。子どもたちが必要な時に必要なお金を渡して、あとはすべて社会に還元する素晴らしい晩年の過ごし方を示すことになります。ぜひ引き続きお楽しみいただければ幸いです。
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