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「若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝」著者・レオスメンバー座談会 (5)

前回(第4回座談会)はこちら↓

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本編

――今回も第5回座談会にご参加いただきましてありがとうございます。早いもので連載は最終章に突入し、最後の座談会となりました。
前回と同じく本連載の作者である北康利先生と、レオス・キャピタルワークス株式戦略部の
シニア・ファンドマネージャー八尾尚志シニア・アナリスト小野頌太郎の3名でお送りいたします。
また、『若者よ、人生に投資せよ 本多静六伝』完結記念イベントを2022年10月7日に開催することが決定しました!北先生ほか、当社代表取締役 会長兼社長 藤野英人も予定です。イベントの詳細は追ってこちらの連載でも告知をいたしますので、ご期待ください。

それでは、早速座談会を始めたいと思います。第五章では埼玉学生誘掖会の設立、銓子との別れ、関東大震災復興を任されるなど印象的なエピソードが多くありました。北先生が第五章を書かれる中で特に意識されたことはなんでしょうか。

北先生:
第五章では特に静六の行動が社会に与えたインパクトを強調しました。第三章や第四章で築き上げてきた友人とのつながりや、「四分の一天引き貯金」でコツコツと貯めたお金を使って、社会に対してどのようなことを成し遂げてきたのかをご紹介しました。
「コツコツと友人関係やお金を積み上げていくと、こんなに面白いことができる」。だから第五章のタイトルにもあるように「人生即努力、即幸福」だと伝えたい気持ちで執筆をしました。
ちょうど八尾さんや小野さんの年代の方に刺さるかもしれません。社会人として多くの経験を積み、自分の目指すべきキャリアの方向性が見え始め、恐らく自分の人生を通して社会にどんなことができるのか考えていらっしゃるのではないでしょうか。

また、55話で埼玉学生誘掖会についてご紹介したように、次世代に恩を返すことの大切さも伝えたいテーマです。
連載のなかでは描いていないのですが、静六に大変お世話になったはずの埼玉学生誘掖会の人達の多くは、静六の葬式に顔を見せませんでした。7話で登場した島邨泰に若い頃お世話になった静六が、その恩返しにと次世代への奨学金制度の設立をしましたが、みんなが静六のように義理堅かったわけではなかったのです。
私は静六について調べるうちに、世の中8割の人は恩知らずだなと思うようになりました(笑)。読者の皆様には、ぜひ残りの2割になって次世代へ恩を返すことを考えながら頑張ってもらいたいですね。

小野:かつては勝ち負けにこだわり、自尊心も強かった静六も、歳を取るにつれて丸くなった印象を受けました。計り知れない偉業を成し遂げたにも関わらず、自伝でもあまり自慢をしませんでした。

北先生:その通りだと思います。仏教で言う「喜捨」と同じですね。儲けても自分のためではなくポーンと寄付をする。それを誰かが褒めてくれるのを期待するではなく、淡々と人のためにやっていく姿は純粋にかっこいいと思います。例えば、65話で国立公園を創る話だと現在の数千万円相当の金額になりますが、果たして出せるのかと。小野さんは払えるかもしれませんが(笑)。

小野:私にはとても払えません(笑)。

北先生:61話でご紹介した銓子の死も悲劇的でした。深くは触れられなかったですが、銓子の女性地位向上に尽くした功績は途轍もなかったと思います。病気になった学生に対して銓子がお金を立て替える話、東京女子医科大学に奨学金を設けたいと遺言を残す話など、静六に重なる社会貢献を行ないました。「本多銓子伝」として一冊の評伝を書くに足る方だと思います。

――静六夫妻は多くの社会貢献をしてきましたが、静六の投資に対する考え方はどうだったのでしょうか。

小野:1900年代から日本も株式市場が盛り上がってきますね。日露戦争第一次世界大戦の時は日本の株価は上昇しました。激動の時代で、静六が寄付の元となった資産をどのように増やしてきたのか気になります。

北先生:ご存知の通り、第一次世界大戦中は日本に好景気をもたらしましたが、終戦後に欧州で生産が回復すると日本の輸出も落ち込み、1920年には戦後恐慌と呼ばれる深刻な不況が訪れます。また、60話で登場した安田善次郎も1921年に暗殺されてしまいます。こうした不安定な時代であっても静六は株価の暴落で損失を出しませんでした。危険な投資を徹底的に避けていたことが功を奏しました。

小野:私鉄株などインフラ系に投資をしていたとのことでしたが、リスクの見方が独特だったのでしょうか?

北先生:徹底して勝てる株しか買わなかったことが大きいでしょう。この会社は将来的に国有化される可能性が高いとか、鉄道が通されることを見越して秩父の山林を購入するとか、その投資先の未来が見えているときにしか投資をしていないんです。当時はインサイダー規制がほとんどないこともありましたが。戦争を経てハイパーインフレとなり、財産を毀損した人が多かったわけですが、静六が会長を勤めていた帝国森林会の財務状況は極めて健全でした。

小野:静六の事業の見方も深掘りしたいです。10年後、着実に成長しているところに投資ができていると感じます。

北先生:渋沢栄一と安田善次郎にも共通しているのではないかと思いますが、投資先にいる人間の気心がわかっていること、失敗した経験がある人間を信用している点が挙げられます。
65話で登場した浅野総一郎は、一時は全てを失って隅田川の水売りまでしていました。静六は、地を這いながら頑張った浅野を信頼して港湾事業などを任せ、最終的に浅野財閥を一代で築き上げました。

小野:ひふみの投資哲学にも繋がるところがありますね。藤野がよく言う「人を見ろ」に近いと思います。

北先生:会社の価値は財務諸表だけではなく簿外資産にもあります。従業員の持つ力やその会社のモラル。そういった価値は決算書の数字を見ただけでは絶対に分からないですよね。

八尾:私たちの行動原理にも深くリンクしていると感じます。私も長く運用をやっていますが、市場環境はその時々の情勢によって変わり続け、同じ状況が維持されることはありません。一方、経営者の価値観や言葉が信用に値するかどうか、どのような従業員がどのように働いているのかなど、会社の本質的な部分が投資のポイントになるんだろうと思います。

北先生:藤野さんがよく仰っていますが、レオスも「オフィスに行くのが楽しくなる会社にしたい」とよく仰っていますね。第五章に登場した「職業の道楽化」(66話)は大切なキーワードです。何事も楽しくないとだめなんだと。私も執筆に際して苦労して調べているのが楽しいところもあり、自分がマゾなのかと思うときもあります(笑)。

八尾:それはよく分かります。私も日本時間の夜中に企業の調査・分析していますが、事前に調べた疑問を当日のディスカッションでぶつけると新しい答えが出てきて、そこにさらに仮説を作ってぶつけると面白い。職業なのか道楽なのかよく分からなくなることさえありますね。

北先生:ただ、職業を道楽化するには周りを巻き込んで、それができる環境に変えていかないといけません。57話で静六が多額の寄付をした際に「大学教授がなんでこんなに寄付できるんだ」と詰められますよね。それは副業や投資で稼いでいたからなんですが、副業などは当時からすると一般的ではなく、周りからは後ろ指を差されるようなこともありました。

職業の道楽化といえば、あまり本編では書かなかったんですが、静六は仕事の出張と海外旅行と冒険に区別をつけてないんです。イタリアに出張した時には、ローマ、ナポリ、カプリ島など、各地の観光地を訪れています。

八尾:林業に全く関係ないところもありますね(笑)。

北先生:まさにそうなんです。観光の結果、大学演習林も非常に良いところを見つけています(34話)。

八尾:元々林業を学びに行ったのはあるにせよ、そこの土地を知らないと学問の本質も分からないと至ったのかもしれませんね。もちろん最初は観光地だから行ったのもあるとは思いますが、ねじれ合って結びついたのはすごくあるなと。

北先生:例えば景気動向も数値だけではなく現地に行って、人々の顔色や雰囲気などから分かることもあります。私もイタリアに行ったことで、むしろ日本人を客観的に見ることができました。静六は「老人は青年に接し、青年は老人に接せよ」と言っています。異文化、違う世代と接し続けることが、結果自らの視線を高くすることになるのだと思います。

――ここまで多くのお話を伺うことができました。私も自分と違う世代の方と接するよう心掛けたいと思います。第五章の次は最終章(エピローグ)となりますが、最後に読者の方に伝えたいことを教えてください。

北先生:この本多静六伝は、彼の生涯を追いかける中で、それぞれの読者の年齢層に合ったエピソードを多く見つけることができます。最終章は老後の過ごし方で、面白いエピソードがこれでもかと出てきます。
現代、我々が人生100年時代を迎えるに当たって、老後をどう過ごせばいいかを静六の老後から学ぶことができます。読者の皆さんにとって理想の老後の過ごし方を自分で思い描くことができれば、今現在こういうことをすればいいのだと生き方の逆算ができます。
私自身、最終章はこれまでの本多静六伝の中で最も楽しみにしていますので、読者の皆さんにもぜひお読みいただければと思います。

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いかがでしたでしょうか?

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連載リンク集

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